2021年3月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
フォト
無料ブログはココログ

« 「わだつみのいろこの宮」青木繁展 京都国立近代美術館 (3) | トップページ | 荒木経惟「東京人生」 »

荒木経惟展

  東京都現代美術館で「荒木経惟(のぶよし) センチメンタルな写真、人生」という展覧会があった。通勤の地下鉄の広告で偶然知り、金曜日の夕方、勤務のあと立ち寄ったのである。荒木経惟の作品は、1年ほど前に、横浜ランドマークタワーの小ホールで小さな個展「センチメンタルな旅」を見たことがある。
  入り口に続く冒頭の展示は「空花」というごく最近の彼の家の庭に咲く花のカラー写真から始まる。愛妻に先立たれて10年経った現在、自宅のベランダに咲き誇る色鮮やかな花を近接カラー撮影している。彼にとって、きれいな対象をきれいに撮影することなど、ごくなんでもない簡単なことなのだろう。彼はこれらの花や空を眺めて妻を偲んでいるのかも知れない。
  次に、「センチメンタルな旅」が続く。1971年の自分自身の新婚旅行を撮影した作品で、荒木経惟の写真芸術の原点となった「私写真」の嚆矢であるという。
  「東京は、秋」「TOKYO NUDE + 冬へ」「TOKYO NUDE + Tokyo : A City Heading for Death」では、東京の下町や場末のような風景と、水商売らしい女達のヌード写真を対にして、たくさんの大型写真を並べるというものである。
  「東京ノスタルジー」は、小さな東京のなんでもないような風景と、やはり女の顔やヌードの写真とを、取り混ぜて並べたものである。彼は、長屋の路地裏、廃屋、錆びて朽ち果てた金属、古い配管、などを好んで撮影している。これらは、無機物ではあっても、なぜか有機的なイメージ、生命的なもの、それもはつらつとした元気な命というよりも、朽ち果てそうな、脆弱な、弱みを持った「命」のイメージがあるからではないか。
  「敗戦後」は、1970年ころの東京の風景を撮影した写真集である。庶民の汗や体臭の匂うような風景を好んで撮っている。風景の内容そのものは、私自身が大学を出てまもなくのころ私自身も眺めたようなもので、見ている私にもさまざまな記憶がよみがえる。
  「Aの楽園」はごく最近の作品で、この展覧会に協力した写真会社が提供した世界的に大きな寸法の、あざやかなカラープリントである。ほとんどすべてがヌード写真で、荒木経惟の面目躍如といったものである。
  「人妻エロス」「色女」「エロトス」など、一見猥雑に見えるようなヌード写真が続く。「ポラエロ」という、行きずりの女や男をポラロイド写真で取りまくったような作品群もある。
  「香港キッズ」「台北」「上海」「バンコク」などの、アジアの女たちを撮影した作品群もある。
   荒木経惟の真骨頂はなんといってもヌード写真である。それも、きれいなだけのヌードは決して撮らない。たとえ美しい女体であっても、彼は必ず人間臭い厭味な面を取り入れる。多くの場合、被写体の女はカメラをしっかりと見据え、自分の意思を主張している。ポーズはときどきとても猥雑なものを採用する。しかし不思議に煽情的なだけで済まない、なにか見るものに訴えるものがある。
  要するに、荒木経惟のヌードは、被写体を決して「モノ」とは見ていないのである。女であり、ヌードであり、美しくも醜くもあるが、それは単なる「モノ」ではない、というのが荒木経惟の基本的な態度であり主張である。したがって、被写体にいろいろな側面を主張させ、暴露させるように撮る。ヌードではあっても、単なる「モノ」でなく、見る側から完全に独立した「対象物」とはしないので、彼はとても猥雑なポーズをとらせても、被写体を軽蔑したり、自分に無関係な「モノ」としては扱ってはいない。猥雑なヌードがときとして、とても愛情深い印象を与えるのはそのためであろう。
  彼は、被写体と同じ水準にいて、被写体と同じ空間・世界を、たとえシャッターを切る瞬間だけであれ共有し、その連帯感・共感を基礎にして撮影する。猥雑なポーズを求めるときには、撮影する側の自分も猥雑であることを認め、その猥雑な空間を共有し、その猥雑な共感をベースに撮影する。こうして撮影された写真作品は、被写体は撮影という行動に主体的に参画することで自らの人格を現し、同時に、被写体との世界の共有、共感を通じて、写す荒木自身を投影している。
  彼の写真は、撮影というアクションが瞬間のものであり、被写体と共有し共感したその瞬間は、その写真を残して永久に消滅してしまうという事実をも鮮明に表現している。この結果、彼の写真は、常に「過去形」であり、ノスタルジーに満ちたものとなっている。(1999.5.29)

 

 人気ブログランキングへ

« 「わだつみのいろこの宮」青木繁展 京都国立近代美術館 (3) | トップページ | 荒木経惟「東京人生」 »

美術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 荒木経惟展:

« 「わだつみのいろこの宮」青木繁展 京都国立近代美術館 (3) | トップページ | 荒木経惟「東京人生」 »