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本荘赳回顧展 平塚市美術館

 平塚市に生まれ、丹沢の麓で制作活動を続けた、郷土の芸術家である本荘赳(たけし)の個展が、平塚市美術館で行われた。昨年9月に87歳で亡くなったが、その回顧展である。
 この作家の作品で特徴的なのは、樹木、林、そしてとりわけ水あるいは水面の、みずみずしい表現である。画材としては油絵を使い、洋画に属するが、日本の風土に整合した湿りけのある光と、その光に反映した抑制した画面を表現する、彩度を落とした、日本画的な画風を、前向きに取り入れているように思える。油絵ではあるが、絵具を塗り込めて積み上げるのではなく、画面の多くの範囲で、塗り上げた絵具を敢えて削り落とし、カンバスにしみ込んで残った絵具だけで絵を構成する。このため、絵の表面にはカンバスの織り目が残り、生地が浮きでている。この質感と光沢が、画面に独特のつやと明るさをもたらしている。
 「妙高高原の黄昏」という、林を描いた作品があるが、樹木の幹のこげ茶色は、カンバスの生地の質感と、独特の光沢で輝き、全体に彩度を落とした色調の画面のなかで、生命感を表して浮きでている。「竹林小径」という作品でも、竹の根元の色の明るい部分に同じ手法が導入され、静かにしかし力強く生命の息づかいを表している。「川へ行く道」「冬霞」でも同様である。
 静物としては、花を好んでよく描いている。「椿」「ダリヤ」「うっこんさくら」などがあるが、いずれも咲き誇る派手な花としてではなく、静かに内面に生命の力と輝きを秘めた、内向的な表現である。
 私が感じるのは、この作家の真骨頂は、水あるいは水面の際だった表現方法だということである。何点かの木崎湖の作品、「丹沢湖の朝」「湖畔早しん」などの湖水の描き方、「三浦風景」「石廊崎黎明」などの海面の描き方は、いずれも非常に印象が深いものがある。彩度をあまり上げず、トーンを落としてはいるが、実に工夫を凝らして色を選び、微妙な色付けと筆入れを行っている。その絵の水の色と質感から、水の温度、さらにその温度の時間的変化、すなわち季節までも、そこはかとなく感じさせるような、見事な表現であると思う。
 「山湖春雪」は、全80点のなかで私が最も気にいった、印象深い作品である。画面の70% 位は、画面中央を横切る湖水である。画面上方には冠雪した山の連なりが描かれ、画面下方には湖畔の春の息吹を感じさせる草が僅かに描かれている。思いきって単純化した画面は、極めて現代的でありインパクトがあるし、画面の主要部を占める湖水は、この作家の最も得意とするところである。
 この作家は、師範学校を卒業し、小学校の教員として勤め、アマチュアの画家としてスタートしたという。この間、「五葉」という雅号で俳句も作り、「山村絵巻」という俳画と随筆の組み合わせのような興味深い作品もある。「西洋の科学的・客観的な自然観に対して、日本、東洋の宗教的・主観的な自然観を追求する」「自然を客観的に見るのでなく、自然と融合することを目指す」というのが、この作家の主張であったという。事実、彼の作品の風景は、観察している作者と対峙するものとしてでなく、観察者と一体化して融合したものとして描かれており、対象に向ける作者の深い愛情と一体化にともなう穏やかなやすらぎが感じられる。花を描くときも、自らその中に入り込むことで、外に向けた華やかさより、作者自身の控えめな性格が移入されて、内向的で抑制の効いた、生命力の静かな主張という表現になったのであろうと推測する。
 西欧の自然観が科学的・客観的、さらには非精神的であり、日本の自然観が宗教的で精神的であるというのは、戦中時代の新感覚派などによって主張された考え方でもあり、この作家の生きた時代の基調的な雰囲気であったのかもしれない。こういう考え方そのものは、いまでは一般に正しいものとは受け入れられていない。たとえば、フランスの印象派とともに一時代を形成したバルビゾン派も、本荘と同様に都会派というよりは田舎の風景を好んで描いたグループであるが、自然に対して宗教的、牧歌的な感情を強調し、自然と人間との一体感を主張していた。ただ、内容の正否はともかく、敢えてなんらかの主張を打ち出し、それに基づいて既存の洋画を一旦否定し、自分独自の世界を構築してゆくという姿勢は、芸術家として何より貴重であると思う。洋画をベースにして、しかし、かっての日本の洋画がそうであったように、西洋画の模倣をするのでなく、日本画の手法やヒントを導入して、独創的な画調を創造したことは、大いに尊重されるべきである。
 この平塚美術館は市立の新しい建物で、この作家の知名度があまりないこともあってかほとんど人がなく、ゆっくりマイペースで鑑賞できたのは快適であった。(1994.2.27)

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