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保存修復室ツアー 兵庫県立美術館 (1)

  兵庫県立美術館の「芸術の館友の会」という会に、私は関西に移転して以来参加している。この友の会の恒例行事として、毎年1回「保存修復室ツアー」がある。私も大いに興味があって毎年参加を申し込むのだが、毎年落選してチャンスに恵まれなかった。なにしろきわめてデリケートな作業である芸術品修復の現場に入るのだから、参加者数は毎回抽選で20名以下に限られるうえに、人気の高い企画であり、多くの参加希望者が殺到するのである。今回は、はじめてそのチャンスを獲得したのであった。
  約2時間半の間に、油彩の修復の実際、紙作品の修復の実際、そして美術館の整備・管理・保全の実情について見学と説明を受けた。

油彩の修復
  油彩の修復は、われわれ部外者にも比較的その活動が想像しやすいものである。しかし、実際に美術館で働く当事者からお話をうかがうと、実情はかなりちがうようだ。
  油彩はルネサンス以降普及してきたが、初期の油絵具は顔料と油を、画家自身が作画時に練り合わせて作っていた。さらに色彩を鮮やかに出すため、および表面を保護して汚れを抑えるために、最終段階で画面の上にニスを塗ってコーティングしたという。こうして油彩には表面にニスの層があり、それが時間の経過とともに汚れて色彩や油彩画表面の艶に大きな変化があるのは、当初から関係者に知られており、したがって「修復」作業の大きな要素として、絵画作品の「洗浄」は絵画の保守管理の必須のプロセスであった。宮廷など絵画を展示される場所には、常に「洗浄」を実施する職人を抱えていた。またかなりの範囲で、画家と洗浄作業を含む修復職人とが未分離であった。彼らがどのようにして「洗浄」を行っていたのかは不詳であるが、推測ではかなり強引な洗浄をしていたらしい。たとえば宗教絵画などで聖人やマリア像の顔が緑色っぽくなっていたり、異常に青ざめていたりするのは、実は「洗浄」で油彩の表層を必要以上に洗い落としてしまい、色彩調整のために下地として塗った塗料層が表面に出ている結果かも知れないのである。
  やがて時代が下り、19世紀後半から末ころになると、油絵具の材料の改良が進み、顔料を油に練り溶かしたペースト状の絵具材をチューブに入れて提供されるようになった。こうした進歩が、絵具の携帯性を向上したので、バルビゾン派のように、画家が屋外に出かけて制作することを可能とした。またこのころから、油彩の作画のあと表面にニスを塗ることが行われなくなったという。19世紀後半・末期に、こうして油彩の技術革新が起こったというのである。
  しかしいずれにしても、油彩が時間経過とともに表面が汚れ、表面の「洗浄」をする必要があることに変わりは無い。そして、現代では画家と修復技術者とが分離した。「修復」と言っても、実は「洗浄」が非常に大きな作業要素なのであるらしい。
  作業場では、実際に「洗浄」の実演の一部を見学させていただいた。そこには、空や樹木が描かれた風景画の油彩作品の実物がある。これは「洗浄」の途中であるが、まだまだ画面の大部分が汚れていて、専門家が綿棒に純水を付けたもので軽く表面をなでると、見る見る間に綿棒が茶色くなる。その一方で綿棒でなぞったあとは、色彩から黄色みや茶色みが薄れて、そこはそれまで樹木の幹や枝に見えていたのが、実は緑色の葉っぱであったり、木漏れ日の青空であったりしたことがわかる。こういう地味で根気のいる作業を、長時間費やしてはじめてわれわれは作品の本来の姿を知ることができるのである。
  修復技術者から見ると、作品のもともとの姿は一般にわからないので、いかにして元の絵画を損ねることなく、あとから付加されてしまった汚れだけを取り除くのか、困難な作業となる。完全な解答のない仕事であり、現時点では貴重な美術作品を後世に残すために必要な最小限の洗浄を控えめに行う方針である、という。
  修復には、洗浄だけでなく、われわれが想像する言わば修理に近いイメージの「修復」作業も当然ある。一方で、美術作品には絵画の他に彫刻がある。さらに近現代美術では、コラージュが加わり、さらに紙による彫刻をはじめ、材料も構成法も非常に多岐にわたるようになった。こうしたきわめて多様な美術作品を保全し修復するのは、きわめてむずかしいのが実情である。
  修復を行う「コンサバター」と呼ばれる技術者は、わが国の美術館ではまだまだ少数であるらしい。ヨーロッパなどの美術においての先進国ではより普及していて、フリーの修復技術者グループがあり、美術館や博物館は必要時に追加雇用して問題に対処しているという。この兵庫県立美術館では、油彩・彫刻の担当者が1名、他に紙作品の担当者が1名それぞれ専門家がいる。その他に、主に虫害防護など環境保全を担当する人が1名、合計3名の体制だという。この体制でも、わが国美術館の修復・保全体制としてはトップクラスであるらしい。

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