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高崎通浩『民族対立の世界地図―アジア/中東篇』中公新書ラクレ

 2002年3月発行の本である。10年以上前にテロ事件が頻発していたころ、少し興味をもって買ったものだと思う。しかしいろいろ取り紛れたのだろう、購入したことも忘れてしまって、こうして歳末の整理の最中に「発見」したのであった。
 中央ユーラシア、インド亜大陸、東南アジア、中国、クルド民族、パレスチナ、などの「民族問題」について概説的に述べている。ここで「民族」をグループ分けするとき、その根拠は従来から一般的にある言語・文化だけでなく、宗教、重要視する習慣・習俗、社会的階層なども含まれる。
とくに、アフガンのパシュトゥーン人の歴史と動き、中国のあまり報道されない少数民族の深刻な問題、いまや世界最大の国を持たない浮遊民族集団となってしまったクルド人問題、そして最近も新たな騒動が生じたイスラエル・パレスチナ問題、など簡潔ではあるが要領よく解説されている。
 国家間の「戦争」が甚大な災禍をもたらすことは誰でもわかっているが、実は「内戦」、「小規模紛争」、さらに「テロリズム」など、すなわちLow intensity warと呼ばれる戦いのほうが実は被害は大きい。戦争あるいは紛争の「責任者」がよくわからない場合が多く、容易に停止できなくなるのである。その原因の多くを占めるのが、この本であつかう民族問題である。
 民族問題の本質や真因は、簡単にわかるものではないが、必ず歴史的背景が深く関与している。そして、当事者にとっては限られた時間、限られた資源、さらに限られた能力で判断を迫られ、行動せざるを得ない。そのうえ関与してくる第三者が、常に善良で無私で妥当な振る舞いをしてくれるわけではない。典型的には、国連という存在がいかに現実に役に立たないものであるか、あてにできないものであるか、この本が述べる事例でもよくわかる。もちろん、だからと言って国連をなくす方がよいとまでは言えないが。
 個々の民族問題に対する評価としては、私はこの著者にすべて首肯するものではなく、賛同できない論点も少なからずある。しかし、傾聴に値することは多い。
 民族問題のような複雑な問題は、メディアに登場する「識者」が弁舌さわやかに話すほどには簡単ではない。そういうことが、この本からも伝わってくる。この本が書かれてから15年以上が経過して、この後ISなどの新しい問題も発生したけれど、述べられていることは現在も生きている。
 私たち自身も、こういった思わず目をそむけたくなる、逃げたり避けたくなるような事態に遭遇する可能性はある。呑気で無責任で浅薄なメディアの報道から、少しでも実のある情報を引きだすための基礎的な知識、すくなくともその素材を与えてくれることで、このような本は意味があるだろう。

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