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サムエル・モリソン『アメリカの歴史』第1巻

 アメリカの先史時代から1815年、すなわち独立戦争に次ぐ2回目の対英戦争まで、大統領でいうと、初代ジョージ・ワシントンから第4代ジェームズ・マディソンの途中までの時代である。
 まずこの時代にかんしては、植民地という施策に対する評価について考えさせられる。新大陸たる北アメリカ大陸の現在のアメリカ合衆国の大部分は、イギリスの植民地であった。膨大な面積を持ち、さらに気候条件にも恵まれたため、開拓するべき余地が莫大にあった。
初期の植民地アメリカを経済的に支えたのは、タバコと砂糖であった。イギリスは、同時期のカナダに対するフランスなどよりは相対的に多数の植民者を派遣したが、それでも圧倒的に不足し、周辺ヨーロッパからの移民を歓迎した。それでもなおまったく不足したことが、アフリカから大量の黒人奴隷を導入した理由であった。その事情は、カリブ海や南アメリカでも同様であった。なお、カナダの開発・独立・発展がアメリカに比して遅れたのは、立地環境条件の他に、フランスでは入植に投入できた人口が圧倒的に少なかったのである。
 植民当事者たちの艱難辛苦は、凄まじいものであった。先住民たるインディアンから襲われて命を落としたり、気候異変や虫害による凶作などで餓死したりと、おびただしい屍を数えた。「植民地」と聞くと、植民地主義のこと、その政治倫理的なことしか、われわれ普通の日本人は想定しないが、実際に現地に入植した人々の苦労や業績にも正しい評価をする必要を考えさせられた。
 そしてアメリカが英国から独立するについては、30歳代後半にイギリスからアメリカに渡ったトマス・ペインという卓越した思想家が注目に値する。田舎の職人の子として生まれ、グラマー・スクールに学んだだけで高等教育は受けていないが、アメリカ独立革命と、さらにその後のフランス革命の理論的指導者として、現実の歴史の進展に多大な足跡を残した。もちろんマルクスなどは、その意味でこの人に匹敵するだろう。良し悪しはともかく、このようなレベルの政治思想家は、わが国には現れなかったのではないか。ただ、その「思想」あるいは「思想的プレゼンテーション」が、現実の歴史の進展に大きな影響をもたらす一方で、その思想の中身の独創性や新規性が、後世大きな議論を引き起こすことはなかった。その意味では、思想家というより、ある種のアジテーターだったのだろうか。そういう意味では、わが国明治維新期の吉田松陰などに似た位置づけなのだろうか。直接トマス・ペインの思想の中身に触れていないので、私にはなんとも言えない。
 アメリカ合衆国は、入植以来すでに育み保持していた「自由」を「維持・保持」するために、イギリスに対して独立戦争をしたのであって、新たに自由を求めて独立を望んだのではない、とモリソンは理解する。これは、私には新鮮な解釈であった。そういうアメリカ人からみると、フランス革命が、いかにも胡散臭い危険な暴動に見えたのも当然だったかも知れない。日本には、いまだにフランス革命を自由・平等をもたらした栄光の金科玉条のようにみる人たちが多いが、私はエドマンド・バークやアメリカの政治家たちに賛同する。
 独立したアメリカの議会が、有産者=見識の代表として上院を、無産者=大衆の代表として下院を設計した事実は、注目に値する。現在の日本について考えると、参議院はやはり不要だろう。
 アメリカ創世記のリーダーたちの奮闘を顧みても、政治において、理性的判断のみに傾注することの大いなる危険性(典型的にはマルクス主義)と、経験的判断に依存すること(通常の議会制民主主義)の限界を思う。所詮、現実の政治にすべての国民をいつも満足させることはできないのである。少しでもベターな、よりマシな政治を追求し続けることこそが必要であり、またそれしかないのだろう。
 そして、アメリカの歴史を貫く2つの政治思想の流れが紹介されている。ジェファーソン流民主主義とハミルトン流民主主義である。ジェファーソン流民主主義は、商業・金融およびその基盤たる都市を、腐敗しがちで信用できないものとし、ヨーマン(=自立農)が農村を基盤として主導する共和主義を目指すべきとする。総じて当時のイギリス的な議会制に反発し、初期のフランス革命を支持する。もっともナポレオン以降のフランス革命には断固反対する。州権を重視し、個人権を尊重し、連邦の権限は最小限を是としている。これに対して、ハミルトン流民主主義は、都市の商人・金融界を尊重して経済成長を重視する。州権を制限して連邦権の強化を図る。この2つの流れは、それぞれ変遷しつつも、現代にいたるまで綿々と続いているようである。
 私は、これまでアメリカが独立する以前の歴史について、詳しい叙述を読んだことが無かったので、非常に印象深い読書であった。

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