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Yuval Noah Harari,"21 Lessons for the 21st Century"(10)

9.移民 Immigration
 3つの独立な視点から考えることが必要である。
 まず受け入れ側の国(ホスト国)が、移民を受け入れる意志があるのかどうか。たとえ義務としてではなく厚意で受け入れたとしても、ホスト国はいずれ受け入れた移民に対して大きな義務と責任を負うことになる。移民に子孫ができたときなどが典型である。
 2つめは、移民側が自分たちの伝統的な文化規範を棄ててでも、ホスト国の文化規範を受け入れる意志と決意があるかどうかが問題である。ヨーロッパのひとびとは総じて寛容であるが、それ故に非寛容な移民の態度を許容できない、という面がある。たとえば非寛容なアラブ人が入ってきていずれアラブ人の人口が増えると、ヨーロッパに非寛容なひとが増えるのみならず、ヨーロッパのアイデンティティが棄損されることを恐れる。
 3つめは、移民がホスト国にじゅうぶん同化するか否かという問題である。歴史的にみても、移民側の非寛容がとくに問題で、古代ローマ、前近代のいくつかのイスラム帝国、アメリカ合衆国の経験からは、移民の同化には少なくとも数十年、多くは数百年を要している。この時間は、個人からみると人の一生の時間よりじゅうぶん長く、当事者からみて決して看過できない長さである。
 そして、以上3点に対する達成度をどう評価するかが、これまた大きな争点となる。移民反対派は、移民側がホスト国に同化する意志がないだろうから、移民はホスト国に同化する見込みが立たず、ホスト国は移民を受け入れることはできない、という論理である。移民賛成派は、移民はホスト国の文化規範を尊重しており、ホスト国にじゅうぶん順応し同化できるはずだから、ホスト国は移民を受け入れるべきだ、という論理である。
具体的なアプローチとしては、①ホスト国は移民を受け入れる意志があるのか否か、それは義務としてなのか、それとも厚意(恩恵)としてなのか、②ホスト国は、どの水準の同化を要請するのか、③ホスト国は、どのくらいの時間で移民を純粋な自国民と同等に扱うつもりなのか、裏返せばどのくらいの時間で移民に十分同化してほしいのか、を明確にしなければ、この問題は解くことができない。②については、たとえばヨーロッパの5億人のひとびとが、移民が受け入れるべき文化規範としてどこまでが譲ることのできない水準なのか、明確にすることが必要となる。
 それでも、現実に移民の同化の程度を公正に評価することは容易ではない。移民賛成派も反対派も、いずれも約束の遵守よりも違反を重視しがちだからである。百万人の移民のなかに、百人のテロリストがいたら、どう判断するのが妥当なのか。移民者がホスト国の街路を歩いていて、100回のうち1回でも人種差別主義者に出会って罵られたら、どう判断すべきなのか。
 これらの議論の前提に、ひとびとの文化に対する見方の問題がある。ドイツのファシズムが破棄された1945年以降、人種差別主義racismは道徳的にも科学的にも誤りと合意されるようになった。しかし、文化の相違にかんしては合意された考えはない。世界のなかで、現実に文化は多様であり、まさにそれ故にこそ人類学anthropologyも歴史学historyも意味がある。文化差別派は人種差別派よりは一般にはるかにフレキシブルで、文化の可変性を認める点で寛容性があるが、可変性を認めるが故に移民のホスト国文化への同化に対して、より厳しく要求し評価する傾向がある。またその場合、たとえば「ムスリムは非寛容」という場合に、何をどこまでいうのかが不分明なのが現実である。さらに、「文化の相違」は通常多数のひとびとの行動の統計的傾向を指すものであるが、移民の文化規範の同化について評価するときは個々人について判断するという矛盾(あるいは不当性)もある。「文化」という言葉の定義にあいまいさをともなう以上、この議論は明快には進まない。

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