「ハマスホイとデンマーク絵画」東京都美術館 (4)
ヴィルヘルム・ハマスホイの作品 そしていよいよ展覧会タイトルであるハマスホイの作品の登場である。彼は、首都コペンハーゲンで活動し、首都の街から消え去ってしまったデンマークの古い文化を追い求めたかのような作品を多く残している。
「寝室」(1896)では、人物は登場するが画面の主役ではなく風景の一部のようである。ここで丹念に追及されていのは光のグラデーションである。 「室内」(1898)でも、人物は人格的な存在ではなく、やはり風景の構成要素に過ぎない。穏やかな光と静かな雰囲気の中で、静かに時間が流れるようである。
風景画である「農場の家屋、レスネス」(1900)は、思い切った画面の平面的表現とともに、いっさいのヒトの気配を消去していて、雰囲気としてはシュールな感じを与えている。
展覧会のポスターに使用された「背を向けた若い女性のいる室内」(1903)は、画面左上に一部だけ見える額縁入りの絵、左手中ほどのロイヤル・コペンハーゲンのパンチ・ボール、そして画面右手に立つ少し腰をひねった後ろ姿の黒いワンピースの女性、と綿密に設計された幾何学的な画面構成の絵である。静かでとても理知的な作品である。
「カードテーブルと鉢植えのある室内、ブレスゲーゼ25番地」(1910)は、じっと眺めているとだんだん現実味を失っていくような、人工的で綿密な設計による画面構成で描かれていて、その意味ではまるでフェルメールの絵を連想させるような作品である。 ハマスホイは、古い建物の室内は時間の堆積を秘めていて、その歴史から醸し出される美がある、とする。「美」とはなにか、ひとつの根底的な視角からの問いかけである。
全部で86点の展示で、私の鑑賞のキャパシティとしてはちょうど手ごろであり、疲労し過ぎずに楽しく鑑賞できた。展示作品の全体の印象としては、「北欧」というイメージからもう少し暗いトーンの絵画を想定してしまうが、意外に光を積極的に取り入れた明るい印象の絵が多いように感じた。
古いモノが歴史を堆積しているという思考は、イタリアの静物画家ジョルジュ・モランデイが静物のホコリの存在まで重視するのに通じるように思う。「時間の堆積」「モノの歴史的存在」という視角は、とてもおもしろいと思う。
絵画というひとつの側面からであっても、お国柄、国民性、民族の性格などといったことがそこはかとなく感じられる、とても興味深い鑑賞であった。

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