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2020年8月

Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(27)

10.絶対的優位であり得ない防衛力(2)
いかに戦うか
 また、戦うための準備だけでなく、いかに戦うか、という問題がある。Chris Doughertyの著書”American Way of War”は、アメリカが攻撃から防衛にmind-setを変更する必要を説いている。US Armyは、第二次世界大戦の後は、攻撃を中心に軍を考えてきた。そしてクウェート、イラク、アルカーイダなど、すべて遠くまで遠征して侵入して攻撃してきた。しかし同じことを中国にたいして実行することはむずかしい。しかもこのまま時間を無駄に費やすと、中国から攻撃を受けたときに防御することが難しくなる。そして対抗関係が不用意に加熱して暴走すると、ほんとうに戦争になるかも知れない。そうなれば、勝者のない戦争になる可能性は高い。中国が攻撃を仕掛けてきたときにはそのすべてを破壊し、敵の領地を出て攻めてくることを抑止する、それだけの潜在的軍事力を示すことで、敵の攻撃と戦争を避ける、それがアメリカ流の「戦わずして勝つ」である。そのためには、US Armyがそれに必要なすべての軍事力をそなえなければならない。
 しかし競争は熾烈をきわめており、そのなかで悩ましいグレーゾーンができつつある。サイバー戦争である。
 過去数十年間、アメリカは求められればどこにでも出て戦えるような準備をし続けてきた。しかしこれからは、US Armyはまったく違うタイプの軍をつくらなければならない。
①広い地域に分散可能な、多数の小規模システム
②容易に取り替え更新できる廉価なシステム
③多人数で大きく少数の兵器を動かすよりも、少人数で多数の小型の兵器を動かす
ただし小さくともよりインテリジェントで無人の兵器も比率が高い
④集中化されたネットワークのセンターより、分散され再編・再建が容易なネットワークで操作する
⑤ハードよりソフト重視のシステム
 なお、小型・廉価を繰り返して説明しているが、数量的には従来に比べてはるかに増大するのであって、軍事費全体として縮小するものではないことを確認しておく。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(26)

10.絶対的優位であり得ない防衛力(1)
US Armyが目指すべき方向
 2017年10月27日、John McCainはJames Mattisに宛てて書簡を送った。その内容は、US Armyがテロ対策から中露、とくに中国対策に直ちに転換する必要がある、今や遅きに失する直前の最後のチャンスである、というものであった。これに応えた2018年のMattisの”National Defense Strategy ”はそれまでよりかなり進んだものであった。「長期的な中露との競争」が明確に織り込まれ、多くの関係者が正しい方向で考えるようになった。さらに今や、アメリカ本土の防衛が喫緊の課題となっているのだ。良い方向とは言うものの、変革の幅とスピードをもっと拡大しなければならない。新しい技術を考えるだけでなく、基本的な考え方=mind-setを切り替える必要がある。軍の目的を明確にして、そこに至る道筋・手段を根本的に考え直す努力が必要なのだ。
 それは、かつては前提であったアメリカの優位が、もはやないという前提で戦略を考えなければならないということである。この状況下でアメリカは、何をゴールとして設定し、軍備をどうするのか、という問いである。アメリカに対して外部に軍事的制約を加えてくる存在がある、ということはアメリカにとって受け入れにくい不愉快なことであるが、現実なのである。そして、今や中国との戦略的対抗関係をいかにマネージして、対抗しつつも共存する形を求めざるを得ないのである。アメリカの単独優位性はあきらめても、アメリカの中核的利益はなんとしても護る、それがどういう形態か、という問いである。
 ある種のミッション、たとえば対テロ対策などは、ある種の悪がのさばることのないよう、維持すべきであるし、また可能である。しかし全体としてこれからのUS Armyは、多面的介入は制限して最重要の超大国間の競争と安全保障に傾注すべきである。この観点からは、トランプのイラン核合意からの脱退は誤りであった。イランの問題は、第一優先とすべきアメリカの中核的問題ではない。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(25)

9.Move, Shoot, Communicate(4)
Communicationの動向
 今後最重要となるのは、3つのうちでもとくに通信=communicationであろう。軍事のkill chainのすべてに深く関与しているからである。US Armyは過去数十年にわたって自転車のリム・スポーク型ネットワークをつくってきた。これはhubに情報が集中するもので、大規模基地やオペレーション・センターに多数の人数が集結して運用する伝統的システムに適合した情報ネットワークで、集中的、固定的、動きが遅く情報の流れも遅いという特性から、攻撃に対して脆弱である。
 これからは分散型ネットワークにする必要がある。中心が明確にはなく、形を必要に応じて変え得る網のようなネットワークである。敵からジャミングを受けにくく、ネットワークを破壊されにくい。この実現にもIntelligent Machineが有効である。Intelligent Machineにより、コマンダーは抽出され整理された密度の濃い情報を用いて対抗手段を命じることができる。個人あるいは少人数グループのコマンダーが、艦船、航空機、あるいは戦場近くの小規模な臨時基地にいて指令する想定である。しかしこのアプローチも今や過渡的である。
 将来は、情報ネットワークがもっと発達して、少数のヒトが戦場から遠く離れた、つまり安全な場所から戦闘を指揮するようになる。現在のヒトが主体の戦隊から脱皮して、Intelligent Machineが主体となった戦闘となる。そのためには、Intelligent Machineが大量に必要で、その集合を指揮するヒトにかんしては機械とのより緊密で高速対応できるマンマシン・インターフェースが必要となる。ひとつの候補は、brain computerである。2018年DARPAで大脳の外科手術により脳と機械のインターフェースを形成して、一人のオペレーターが同時に3台のドローンを制御する実験に成功した。これが進歩すれば、より広範囲のヒトと機械の融合=fusionが実現する。
 一方、機械は取り込む情報の正確さこそが完全な振る舞いを可能にする前提であるから、情報を乱されると狂いだす。これが攻撃の的となる。Intelligent Machineを騙すのである。この対抗としては、多数のセンサーを動員して冗長性のなかから情報を抽出するような工夫も考えられている。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(24)

9.Move, Shoot, Communicate(3)
Shootingの動向
 Shootingは、①range of fire, ②accuracy of fire, ③effect of fireの三条件で把握できる。
 US Armyは、隠れて近くまで接近して正確に少数のshotでしとめる戦術であった。従来は比較的容易に隠れ得たからである。これからは、shotの長距離化・精度向上・強力化を実現のうえで、動いて、通信して攻撃することが必要となる。しかし現状の延長上ではUS Armyには優位を保てない見込みである。
 とくに東アジアでの戦争においては、中国に対するUS Navyは不利になりつつあり、ヨーロッパにおけるアメリカ空軍・地上軍もロシアからの攻撃に困難をうけつつある。中東でも、イランがイエメンのフーシ反乱に対して精密兵器を与えるようなっており、予断を許さない。2019年6月20日には、イラン軍がアメリカの$220Mの偵察ドローンQR-4 Global Hawkを、地対空高射砲で撃墜した。
 現在、Shootingの性格が変わりつつある。弾・爆弾・ミサイルは引き続き必要だが、インテリジェント化が進み、サイバー攻撃、電子戦争・直接エネルギー兵器、通信ジャマーなどのnon-kinetic fireがより重要になりつつある。
 一方で、高価なので多数あるいは長期間の使用は困難だが、兵器の長距離化が進歩して、戦場になりそうにない地域が狭まったことで、これまであまり考えなかったアメリカ本土が戦場になる可能性が出てきた。そういう観点からも、軍備計画の見直しが必要である。
 検出技術・検出ネットワークの進歩から、より速く攻撃するための超音速兵器、超高速クルーズミサイル、電磁レールガン、超高速飛行体=hypervelocity projectilesなども検討が必要である。火器の精度もずいぶん向上している。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(23)

Movementの動向
 Movementのオペレーションにおいては、攻撃/迎撃でそれぞれ隠れる/見つける、侵入/排除が課題である。中国はすでに最新技術の検出ネットワークを、地上・海上さらに衛星ネットワークを用いて宇宙空間にまで張り巡らしており、隠れて相手方に侵入することはきわめて難しくなっている。ロシアの2014年のLittle Green Menは、航空機でもミサイルでも軍艦でもない、意表をついた覆面・重装備のヒトの特殊部隊でウクライナに侵入した。これを導いたのは、ロシア軍の写真やビデオであった。
 いずれにしても、いまでは大きな船、航空機、地上兵器は隠すことが難しく使用しにくい。もっと小さな移動兵器でも、将来的には量子センサー(重力波、磁気波など)、生物センサー(化学成分、放射線、見えなかったモノなど)などが導入されて、ますます隠すことはむずかしくなる方向にある。軍は、新しい隠す技術を開発する(ステルス技術の拡張)、あるいはアクティブに相手のセンサー機能を抑止あるいは破壊する、また別の方法としては同時に多数のダミー含む攻撃を仕掛けて、検出情報をジャミングする、などの対策が考えられる。実例としては、2019年9月14日のイランのサウジアラビア油田プラント爆撃は、25個のドローンを投入した多数同時攻撃であった。
 環境としては、US Armyがこれまで積み上げてきた少数・大型のプラットフォームによる攻撃はいよいよ不利になっている。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(22)

9.Move, Shoot, Communicate(1)

Jan Blochの”Future of War”

 120年以上も前に、戦争の技術とその遂行について未来を考察した実業家がポーランドにいた。Jan Bloch(1836-1902)という銀行家で鉄道王と呼ばれたひとである。戦争に用いられる機材、武器、そして戦闘形態などを多面的に省察して、近代の戦争の可能性をさまざまに想定し”Future of War”という本を著した。驚くべきことに彼の予想の多くは後にことごとく的中した。唯一「将来、大国同士は戦争ができなくなり、大戦争はなくなる」という最大の予想のみが外れた。この考察も、内容的にはkill chainの考察である。

 軍事競争は、本質的にkill chainの競争である。より的確な状況把握、より正しい決断、より有効な攻撃を、より速く実施する、この競争である。この競争は、とくにoperationalな考察を導く。moving, shooting, communicationの3つである。これらの未来を予測し、いかに変わるべきかを考えることは容易でない。これを懸命に考えたのが1898年のJan Blochであり、1992年のAndrew Marshallであり、現在の我々である。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(21)

8.軍事におけるIOT(2)
Intelligent Machine=知能機械
 これらの機械の機能を強化して、もっと複雑なタスクを果たすことができるようにする知能機械=Intelligent Machineは、実はすでにあるハードとソフトを組み合わせればつくることができる。Intelligent Machineは、データの収集、その処理、求められる情報の抽出、複雑度を変えるためのデータの解釈ができる。さらに他の軍事システムとの情報共有やヒトを介さない情報にもとづくアクションができる。
 すでにUS Armyの一部は、ValkyrieやOrcaにどのような機能を追加すれば有効かを考えている。従来の発想は、これらの機械の役割は伝統的なヒト介在のプラットフォームの補助として使用する、という範囲を出なかった。これからは、ヒト介在のシステムを取り替える=replaceという発想が重要。⇒ヒトの速度限界を克服する、など。

Battle Network
 このような拡張可能な機械をもちいて、ヒトと機械のネットワークを構成し、より速く閉じることのできるkill chainを実現するのがBattle Networkのコンセプトである。最小構成は、センサーとネットワークとShooter=火器あるいはその代替兵器である。
 ここで、ネットワークは情報の共有が重要で、Shooterはジャミングあるいはサイバーアタックが重要となる。これらの実現に於いて、必要なものをすべて結ぶことが必要で、そのために商用技術=commercial technologyがきわめて重要となる。こういった商用技術こそ、シリコンバレーなどで軍事活用以外に開発され、US Armyが置き去りにされてきた分野である。センサー・ネットワークにより大量かつ多様なデータを収集し、Intelligent Machineによって必要なデータを抽出し、解釈してコマンダーが直ちに判断できるように整理する。コマンダーが命じた攻撃をIntelligent Machine が制御して自動でShooterを機能させる。
 ヒトは、情報の細切れをより広い文脈に入れて事象の意味をとらえることにおいては機械よりも優秀であり、それに集中して従事できる。このシステムのIOTにおいて、機械には機械がなし得ることをさせ、ヒトはヒトが為さねばならないことを為すのである。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(20)

8.軍事におけるIOT(1)
2つのプロトタイプ
 アメリカで開発された未来志向型の軍事機器として、2例を紹介する。
⑴XQ-58A Valkyrie(ヴァルキリー)
 2019年初飛行した音速無人飛行体で、センサー、爆弾を搭載できる。
F-35の10分の1のコストである。
⑵XLUUV(Extra-Large Unmanned Underwater Vehicleで愛称はOrca。
 全長51フィート、6500カイリの移動可能(LA→ソウル)。
 34フィート延ばして武器を搭載可能である。
 コスト$55M  cf.海軍のバージニアクラス潜水艦は$3200B(武器搭載のOrcaの30倍)。
 これらは、さらに広範囲の種々の能力を追加できるのが特徴である。
 ・大きな分散型ネットワーク、旧システムより速く、廉く、フレキシブルな兵器。
 ・多数の小さく低コストの短距離自動システムを、アメリカから戦場まで輸送できる。
 ・ヒトを介さず、基礎的な任務を安全かつ効率よく果たすことができる。
 ・AIを追加し、ソフト中心にVehicle autonomy(自動輸送機)を達成できる。 

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(19)

7.ヒトが命じて機械が制御する
 軍事行動と機械との関係において、とくにAIが介入するようなとき、その軍事行動上の責任と倫理をどう考えるか、という議論がある。これにかんしては、軍事行動を命令するのはヒトであり、命令を実行するための制御は機械が受け持つ、という役割分担が妥当かつ健全である。軍事に応用するAIは、自分の意思をもつAIではなく、ヒトの命令の実施のための制御=controlをする機械であり、その軍事行為にかんする責任は命令を発するヒトにある。倫理的判断もヒトが行い責任を持つ。
 Intelligent Machine=知能機械が軍事に導入されて進歩すると、それを扱うコマンダー、つまりヒトは、機械によってより多くの時間を与えられるが、それはその分だけ倫理的判断に時間的余裕を得るのであり、倫理的により良い環境となる。機械はなし得ることをできるだけ受け持ち、ヒトはヒトがやるべきことを行う。これが軍事における機械とヒトの分担の基本的考え方である。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(18)

6.さまざまな競争(2)
超音速技術とdirect energyの応用
 これまでの弾道ミサイルは、音速近くまでの速度はあったが軌道が予測できるために迎撃ができた。迎撃を避けるために開発された誘導ミサイルは、軌道の予測を不可能にしたが、速度が遅いためにこれも迎撃されるようになった。そこで超音速ミサイルが十分高速でかつ軌道を部分的に制御可能であるために、迎撃が困難なミサイルとして開発競争の最中である。ただ、これは高価なので多数の投入は難しい。
 direct energy技術の応用としては、レーザー兵器や高エネルギーマイクロ波がある。弾丸の補給が不用であり、連続的に長時間攻撃を継続できるというメリットがある。欠点は大容量電源が必要で、大型船舶か地上での使用となる。
レールガンは、爆発火器と異なり時間的に一定の推進力を弾丸に供給するので、より強力かつ遠距離まで攻撃が可能となる。これも電源が必要である。

宇宙技術の応用
 すでに現在までに、地球の大気層のすぐ外側は多数の軍事衛星で覆われている。大量のデータをネットワークとして運ぶためにも、またkill chainを少しでも速く閉じるためにも、宇宙を経由しての高速多重通信ネットワークは有効である。このシステムの最大のネックはエネルギー供給、要するに電源である。
 すでに述べた宇宙空間でのモノの製造技術が完成すると、たとえば弾丸の宇宙空間までのロケットによる輸送が不用となり、宇宙空間を介しての攻撃の幅が格段に拡張する。将来的には、19世紀の海洋のように、宇宙空間が軍事活動の新天地になる可能性がある。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(17)

6.さまざまな競争(1)
 かつては軍事開発の競争は、軍事手段の範囲の競争であった。戦艦、ミサイル、核兵器などの性能向上である。それらにいかに新しい技術を追加するか、あるいは入れ替えるかの問題であった。 しかし軍事開発の本質は、根本に戻るとkill chainすなわち、状況の把握、決断、行動のすべての段階の改良である。現代の軍事開発は、伝統的なものとまったく違う様相がある。
 注目すべき新しい技術としては、AI、量子コンピュータ、バイオテクノロジー、宇宙技術などがある。それらの中でもとくに競争の激しいのは①ディジタル技術、②超音速技術、③直接エネルギー=direct energyの3分野である。そしてこれらの革新は、アメリカの商用製品の開発過程で進められている。

AIの認知機能への応用
 ディジタル技術のなかでもとくにAIは重要で、kill chainの3つのフェーズのすべてに関与できる。とくに情報を人間の認識に接続する認知機能への貢献は重要である。
 これから軍事装備において状況把握のためにセンサーの導入と利用は、ますます多数かつ多様になる。センサーとネットワーク技術の進歩でデータの種類や量が増えても、最終的にはコマンダーたる人間が理解して判断することになるので、肝心の人間はそのままでは処理に困って利用できない。その大量・多様なデータを自動的に解釈して、コマンダーたる人間に必要かつ十分な中核的情報に集約した少量のデータに変換することを、AIにいかに実行させるかが重要となる。このための超高速コンピュータの候補としては、量子コンピュータが提案されていて、2019年9月にはGoogle社がシミュレーションでその原理的優位性、すなわち量子超越性=quantum supremacyを証明したとの報告が出た。まだコンピュータの実現までは時間がかかるだろうが、これが実現したとき、US Armyは果たしてこれを使用させてもらえるのだろうか。
 情報処理の内容としては、機械学習=machine learningが重要である。これは画像識別、表示、認知のシミュレーション、マンマシン・インターフェースなどに応用できるうえに、さまざまな情報収集、兵站管理などにも利用できる。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(16)

5.変革の必要性とその実現のために(3)
中国共産党の現実とUS Armyの変革の不可避と
 ロシアのプーチンは、明らかにNATOを分裂させ、ヨーロッパに介入することを企てている。しかし大国であったソ連の時代を含めても、GDPはせいぜいアメリカの40%で、今後急激に大きく成長する可能性は小さく、国際市場からは孤立し、なによりも明確にアメリカに敵対していた。
 中国共産党が率いる中国はまったく異なる。冷戦期にアメリカはソ連との対抗のために、中国とながらく友好的な関係を築こうと努力を傾注し、多大な支援を与え、すでに経済的関係も深い。すなわち明確な敵として存在するわけではないという事実も、問題を複雑にしている。中国は2030年にはGDPでアメリカを抜こうとしているほど経済的に巨大化した。1839~1949年の110年間の屈辱の時代を除いて、5000年間にわたって中国は中華帝国として世界の中心を自負してきた。しかも、中国はなにを企んでいるのか明確に表明しない。
 しかし、はっきりしていることは、中国は確実かつ着実に軍事力を拡大していことである。アメリカのオバマもトランプも、軍事の革新を唱え、AIの導入を演説している。しかしその計画はこれから予算措置をして、議会を乗り切って、体制をつくって、ようやく着手となる。習近平の中国は、トップが決めたら予算はすでに確保されていて、開発体制は有無を言わせず揃え整え、即日着手して、きわめて迅速に実現するのである。
 このような中国と、今後どのようなパワーバランスを構築すべきか、アメリカにとってなかなか理解しにくい困難な問題である。すでにある世界の中心国アメリカと、新興の世界覇権を目指す大国たる中国は、かならず戦争に至る(トゥキディデスの罠 The Thucydides Trap: Graham Allisonの造語)とまでは言えないまでも、かならず緊張を生ずるだろう。
 習近平は毛沢東の松明を継いで共産主義正統主義=Communism Orthodoxを主張して、政治、文化のみならず、ビジネスでも軍でも対抗してくるだろう。習近平以下の指導者たちは、偏執狂的にリベラルの影響を憎み、立憲主義・民主主義・人権・自由ジャーナリズム・市民社会・言論自由などを西側パワーの武器とみなし、排除・攻撃をかけてくるだろう。オーストラリアのジャーナリスト出身の政治家John Garnetは「西側リベラリズムの陰謀」という仮説がなければ中国共産党は存在価値を失うだろう、という。そんな中国共産党の先端技術への渇望は激しい。合法・違法を構わず、国を挙げてアメリカはじめ先進国から遠慮会釈なく奪い続ける。先進国の大学へ留学生を派遣する、外国の企業に投資する、シリコンバレーにきて活動する、それらすべてがその目的につながっている。そして中国に入った先端技術の情報は、中国政府の厳重な管理下におかれる。
 中国では、すでに全国民が顔認識、ビッグデータ解析などを駆使した国家的システムを介して厳重に監視され、すべての国民が国家に対して忠誠を求められ、行動が制限され、価値観まで規定される。現代中国は、先端技術を導入して、かつて実現できなかった水準の全体主義国家を達成しているのである。
アメリカにとって、中国とどのように対峙してゆくべきか、我々自身の日常生活にまで深くかかわる問題であり、対中国の軍事問題は、決して避けて通るわけにはいかないのである。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(15)

5.変革の必要性とその実現のために(2)

なぜこの2つのプロジェクトが平和時のうちに達成できたのか
①目的の明確な定義
 対抗すべき脅威を明確にして、解決すべき問題と特異性をふくめた詳しい条件をしめす。どんな脅威が、どの地域で、どのようなスピードで、どの範囲まで、など。これは、ボトムアップで情報を広く集めたのち、トップがまとめることが重要である。
②手段の明確な定義
 課題の解決に必要な要素を、技術と技術以外の要素にわけて定義する。
 どんな新しい技術が必要かを明確にしたうえで、その実現のために必要な諸条件を明確にする。官と民の両方に際立ったリーダーシップが必要なことが多い。Rumsfeldの失敗例があるように、官僚側のリーダーシップだけでは保守的になった軍を動かすことはできない。シビリアン側は、軍のなかにパートナーとしてユニークなmaverick=一匹狼を味方にすることが有効である。また議会におけるチャンピオンを捉まえることも有効である。道を妨げるものを排除してカネと倫理を支援するような味方を獲得することが重要である。

オペレーションと組織の変革
 真の変革は技術のみではなく、オペレーションと組織の変革にある。1990~2000年の間の主な問題は、新しい技術さえあればUS Armyの変革ができると思い込んだことであった。
 1930年代のフランス軍とドイツ軍の格差がその一例である。同じようなタンクと航空機と無線技術を用いたが、フランス軍はそれらを要塞ベースの従来の戦闘を改良するように使用した。ドイツ軍は新しいコンセプトblitzkrieg=電撃戦として組み合わせた。そして1940年ドイツは1か月でパリを陥落させた。これはオペレーションと組織の問題が決定的であるという典型例のひとつである。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(14)

5.変革の必要性とその実現のために(1)
 軍の改革が難しい要因のひとつが、戦争が現実にない限り、日常的に現実世界からのフィードバックがないということがある。民間企業の場合は、商品にたいする市場の反応がつねにあるが、軍事関係にはそれがない。実戦がないときに軍を改革することは容易ではない。しかし少数ではあるが、実戦がないときに大きな軍事変革に成功した例もある。

William Moffettの海軍航空隊創設
 William Moffettは2つの世界大戦間の戦艦の艦長であり、パイロットではなかったが、当時の日本帝国の台頭による脅威に対して、海軍に航空隊をつくる必要を説いた。その効果と必要な能力を具体的に検討するために、戦争ゲームを用いたシミュレーションを行い、海戦で航空機が決定的に重要であると確信した。そして実現のためにフーバー大統領とカール・ビンソン議員を説得し味方とした。海軍のなかからパイロットを育成・任命することも断行した。彼は日本の真珠湾攻撃の8年前に死んだが、すでに海軍の改革は達成していて、海軍の最重要戦力として海軍航空隊は第二次世界大戦に活躍した。

Assault Breaker Initiative
 冷戦の初期、US Armyはソ連の侵略からヨーロッパを護るために、戦術核兵器の導入を真剣に検討したが、ヨーロッパ諸国はアメリカの核戦争に巻き込まれることを嫌った。US Armyは戦略の変更を余儀なくされたので、赤軍の侵入を直接攻撃するのではなく、侵入してきた赤軍の補給・補強を断ち切るようなkill chainをいかにつくるかを検討した。このためにUS Armyは神童といわれたHarold Brownを任命した。
 彼は、レーザー・電気光学センサー・マイクロエレクトロニクス・データプロセッサ・レーダーなどを搭載した長距離精密誘導弾道兵器(PGM)を開発し、さらに高度なインテリジェンス、監視、偵察(ISR)システムと統合した合同監視標的攻撃レーダーシステム(JSTARS)と統合して、ソ連の航空機が攻撃に離陸する前に検知して行動できるまったく新しいkill chainを1978年に開発した。Assault Breaker Initiativeと名付けられたこの軍事システムは、実際に使用されることがなかったのでその威力は不明だが、ソ連はこれを恐れてNATOのヨーロッパ軍を侵略することをためらったので、戦争を防ぐことに貢献した。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(13)

4.進展する情報革命(2)
民間の先端技術の驚くべき水準
 シリコンバレーのNvidia社がゲーム用に開発したDRIVE AGX Pegasusというグラフィック解析処理のチップがある。この動作速度は320T/secである。アメリカが誇るF-35に搭載されているthe flying supercomputerの動作速度が400B/secであり、実にその800倍である。それでもF-35のthe flying supercomputer は、アメリカ軍の装備に組み込まれているコンピュータでは、断トツに高性能なのだ。Nvidia社のチップは、この高速処理により鮮明でヴィヴィッドなゲーム画面の臨場感を与える。この技術と能力は、ゲームにとどまらず、AIにもmachine learningにも画期的なインパクトを与えそうだ。
 SpaceXという民間の宇宙開発プロジェクトが進行している。回収可能でかつ低コストのロケットと、全く新規のコンセプトにもとづくStarlinkと名付けられたマイクロ衛星とを組み合わせて、民間で宇宙開発、さらにはサービス事業をやるという。この応用の候補のひとつが宇宙空間での部品の製造である。new composite materials and methodsであらゆるパーツを必用な場所で短時間に造る、というもので、組み立てはヒトではなくマシンがやる。遠く離れた場所で、運送を省いて必要な時に必要なだけ製造する。場所が宇宙空間であれば、そこまでモノを運ぶロケットの負担が小さくなる。構成要素の一部は、三次元プリンターとしてすでに実用化がはじまっている。
 これらの他にも、Palantir社のビッグデータ解析による膨大で複雑なデータ群からの有効情報の抽出、Elon Muskが設立したNeuralink社の脳-コンピュータインターフェース、ゲノム操作による生命のビルディングブロック化、暗号技術にもインパクトを与える量子コンピュータなど、2000年以降に多方面で目覚ましい成果が出ている。
 これらの驚くべき成果を支える経済力の成長も目覚ましく、たとえばAIのトップ5として挙げられるAmazon, Alphabet, Facebook, Microsoft, Appleの研究開発費の合計は2018年に$70.5Bにのぼる。ちなみに軍産複合体のトップ5たるLockheed, Martin, Boing, Raytheon, General Dynamicsの研究開発費合計は同年$6.2Bであった。Apple社は手許のキャッシュとして$24.5Bをもっており、その気なら軍産複合体のトップ5をすべて一瞬に買収することさえ可能かも知れない。かようにシリコンバレーの企業が成長する一方で、軍産複合体が、技術でも経済規模でも取り残され、縮小しているのである。

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Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020(12)

4.進展する情報革命(1)
軍事革命の中核を占める情報革命
 軍産複合体がこれまで構築してきたUS Armyの技術面での最大の問題は、情報関連技術・ネットワーク関連技術である。軍産複合体が必死になって蓄積してきたプラットフォーム重視の、つまり大型船舶・航空機、大型火器、基地設備を基盤とする軍事力の、最大の盲点こそは情報ネットワークである。現代の戦争は、軍事関係のあらゆる要素が緊密にネットワークで結合されて、すべてが高速に整合的に動作してこそ威力を発揮する。たとえばアメリカが誇るF-35のなかのスーパーコンピューターの情報は、F-35以外の装備に円滑に伝達・使用することができない。プラットフォーム間の情報伝達・共有にもとづくシナジーの重要性と必要性は、さすがにDODも気づき、軍産複合体の企業に開発させようとした。複合コンピュータのハード・ソフト、IT、マルチ・ノード・ベースの通信システムなどなど。莫大な開発費を工面し、時間もかけた。果たしてその結果、ほとんど全滅的に失敗した。既存の軍産複合体に、その能力はなかったのである。
 これらの技術のラインアップは、莫大な市場を基礎にconsumer electronics=商用電子機器・家電の分野で、軍産複合体の外部の、シリコンバレーにおいて日進月歩で進歩していた。

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