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John P. Carlin, Garrett M. Graff, "Dawn of the Code War"(1)

まとめ
 著者John P. Carlinは、オバマ政権で国家安全保障の司法副長官として、テロ、スパイ、サイバー攻撃などを担当した法務官僚である。ハーバード大学ロースクールを修了後、FBIの検察官として、知的財産権、テロ対策、サイバー犯罪などに携わった経歴があり、現在はリスク管理・危機管理の専門家として法律事務所を経営している。共著者のGarrett M. Graffは、サイバーセキュリティーと関連技術を専門とするジャーナリストである。
 Christian Brose, ”The Kill Chain”,2020を読んで、ごく簡単にだが、現代では「サイバー戦争」が新しい課題として問題化しつつある、との記述があったので、サイバー戦争、あるいはサイバーによる新しい脅威について知りたいと思い、アマゾンのホームぺージをじっくり探して、この本を選択した。”The Kill Chain”のときも同じだが、在野の無責任な学者や評論家の著作より、政府中枢に近いところで実務をあつかった人物の著作の方が得るところが多いのではないか、と考えて選択した結果である。
 サイバーセキュリティーの問題は、インターネットが本格的に普及しはじめた1990年代ころからの高々30年間に急増し、リアル空間の戦争とは位相が異なるものの、新たな、アイマイな、複雑かつ深刻な脅威として存在している。
 本書はサイバー脅威について、歴史の概要を紹介したうえで、著者John P. Carlinがオバマ政権時代の8年間にアメリカが実際に経験した事件を題材に、きわめて具体的・詳細に論述している。
 サイバー攻撃の目的は、ターゲットに対して、カネを奪う、いやがらせを加える、高度技術・国家機密・企業秘密を盗む、文化・価値観を棄損する、リアル空間の戦争と組みあわせて攻撃力を高める、などきわめて多様である。サイバー空間の行為というヴァーチャルな事象だが、被害あるいは効果は甚大となり得る。Dawn-of-the-code-war
 アメリカが具体的にサイバー脅威の敵と当面みなしているのは、中国・ロシア・イラン・北朝鮮の4か国と、非国家的存在としてのISILである。
 中国は、アメリカにとってサイバー空間での最大の敵であり、とくに技術情報・企業機密などの窃盗は範囲も規模も莫大である。アメリカが資本と時間を投入して達成した先端技術を盗み、経済情報を盗み、コストフリーで自国の技術革新と経済成長の達成に邁進している。さらに軍事力の強化のために、アメリカの軍事技術・軍事機密も常に狙っている。そのうえアメリカ人の個人情報や富裕層の購買動向など、これまでスパイ活動の対象と想定できなかった範囲にまで活動を広げていて、不気味である。実行犯が逮捕され起訴されたときは訴訟過程の情報を盗んで、裁判を有利に進めようとするような、確信犯として行き届いた動きまである。中国共産党のもと人民解放軍が元締めとなって、国を挙げてリアル空間とともにサイバー空間でも組織的なスパイ活動を、あたかも国家ビジネスのように、ホワイトカラーの通常勤務の時間帯で遂行しているのが特徴である。中国は、巨大な購買力をバーゲイニング・パワーとして、アメリカ企業に対して圧力をかけるのに最大限活用している面もある。
 ロシアは、旧ソ連以来の技術と人材の蓄積があり、サイバー攻撃の技術はもっとも進んでいる。アメリカなど西側世界の民主主義に鋭く対決するとともに、新しいマフィアのようにあらゆる犯罪をサイバー空間でしかけてくる。アメリカのみならず西側諸国の軍へのさまざまなサイバー攻撃も多い。アメリカ大統領選挙へのサイバー攻撃による干渉など、従来のサイバー攻撃に見られなかったような、アメリカの民主主義への不信感醸成を図るような行動もする。リアル空間での戦争に並行して、サイバー攻撃をかけて戦争を有利にすることも実行している。
 イランは、アメリカとイスラエルに徹底的に敵対し、カネ・技術のみならずアメリカ社会の不安定化を狙って大胆なサイバー攻撃をしかけてくる。国内の反体制派に対するサイバー攻撃も多い。
 シリアのシリア電子軍は、リアル空間の実際の戦争に並行してサイバー攻撃をする。シリア内の反体制派とは、サイバー空間でも対決と小競り合いが続いている。またアメリカのメディアのネットワークに侵入してフェイクニュースを流し、アメリカ社会を混乱させたこともある。
 北朝鮮は、飢渇を免れようとカネを奪うことに熱心だが、ときに自国トップの権威・メンツの誇示のために、意外で特異なサイバー攻撃をしかけてくる。
 ISILは、ホーム・グローン・テロリズムの宣伝と、ジハード戦士のリクルート活動が中心である。
 われわれの日常生活は、広く深くインターネットに依存しているが、インターネットの通信網自身も、それに接続されるさまざまな要素も、すべて脆弱性を免れ得ず、サイバー脅威は根絶できる見込みはない。さらにサイバー犯罪は立証が容易でなく訴追に労力を要する。それでもリスクを正しく認識して正しく運用し、国家の諜報情報を併用・活用しながら、良心を維持する勢力が官民で協力して努力するならば、技術と法律とで抑制できる問題なのだ、と著者は自らの経験を踏まえて主張している。
 私は、これまで日本に生活していて、この本に出てくるようなサイバー攻撃の存在をほとんど知らなかったので、ずいぶん参考にもなり、新たに知ることが多かった。しかしいずれ他人ごとでは済まなくなる時がくるのだろう。サイバー問題の最前線で活動していた著者の詳細で具体的な叙述は、とても迫力があり、興味深かった。
本としての文章は、論理的で整理されていて読みにくいわけではないが、単語が通常よりかなり難しい。いささか文章も長めで、私は読み進めるのに多少苦労した。

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