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2021年4月

H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(15)

2.Parrying Putin’s Playbook
2.4.ロシアの挑戦に屈しないために
 ヨーロッパは、物理的のみならず心理的にも強靭さを復活させねばならない。EUの強さは、その参加国の強さで決まる。ヨーロッパの大きな国は、ヨーロッパをリードしなければならない。これから10年間は、とくにドイツとフランスの役割がヨーロッパだけでなく、環大西洋協力のためにも重要だ。
 ソ連のもとから自由を勝ち取った国々は、ヨーロッパ文化を共有し、自由と開かれた社会を、ともに維持し護って行く断固とした意思が重要になる。クレムリンは、それは不可能で時代遅れになると考えている。ヨーロッパのリーダーたちと市民は、クレムリンが間違っていることを証明しなければならない。
 ロシアがNATOやアメリカの軍事的反応を誘発する閾値以下の攻撃をしかけることが多いとはいえ、ロシアは強力な通常兵器も核兵器も持っているので、決して油断はできない。NATOの通常兵力も核兵力もともに、ロシアの攻撃を予防するために、引き続き重要である。ロシアがヨーロッパの軍事力を計算間違いして、もし行動を開始してしまえば、悲惨な軍事衝突が発生しかねないのである。
 アメリカとNATO同盟国は、新しい核兵器を含めたロシアの軍事力に対抗できなければならない。


2.5.ロシアの反政府運動
 真実と透明性は、防衛のための兵器と同様に、クレムリンの虚偽や惑わしを打ち負かすための重要な攻撃手段である。プーチンの虚勢は、彼の弱みと失いつつある力の反映でもある。不正な選挙で手に入れた支配は、老朽化しつつある。彼はいったん大統領を降りて首相となったうえで大統領に戻り、そうすることで憲法を遵守するかのようなふりをしたが、大きな抗議を被った。多くのロシア国民が、プーチンがなんども国を略奪することで大金持ちになっていることを知るようになったのに、プーチンは退職期限をせりあげた。2019年には、ロシアの都市部で抗議運動が定常化して、プーチンの人気は没落した。2019年秋の地域の選挙では、腐敗糾弾運動の弁護士アレクセイ・ナワリヌイAlexei Navalnyが「スマート投票」として知られる戦略を開発した。プーチンが率いる統一ロシア党の候補者に対して、その候補者を負かせることができると思われる対抗馬を全国から選び出してリストをつくり、プーチンに反対する意志のある人々に投票を促すものである。この戦略は成功し、全国で160人ものプーチン反対派を当選させた。プーチンはメディアを完全にコントロールし、反対派を制限したが、選挙結果は反政府運動に傾いた。プーチンはメディア、国会、裁判所、警察などを把握しコントロールした上、暴力的に運動を攻撃したに関わらず、プーチンやその取り巻きのSilovikiの財産を公表されたことで、ロシアの抵抗勢力はますます勢いづいた。反対派グループ、腐敗糾弾運動の組織、生き残ったジャーナリストたちへの支持は、Putin’s playbookを狙い打った抵抗となり、クレムリンの攻撃に対抗するものとなった。
 2020年初め、ミハイル・ミシュスティンを首相にしたのも、プーチンの言いなりになるからだとされている。プーチンは、2016年パナマ文書の疑惑記事など、身辺の腐敗でもさまざまな醜聞がある。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(14)

2.Parrying Putin’s Playbook
2.3.ロシアのサイバー攻撃を撃退するために
 戦略的ナルシシズムと楽観的思考を排除して、ロシアの攻撃を防ぎ、これ以上の攻撃を抑制するだけでなく、ポスト・プーチンの時代に向けて、西側と対立するより協調する方が利益になることを、ロシアの指導者側に理解させなければならない。これには国家的セクターとともに民間セクターの役目が重要となる。
 アメリカ政府は、政治的サイバー攻撃の加害者たる個人や組織を見つけ出し捕らえる強力な手段を持っている。法に基づいた捜査で犯罪を特定し証拠をかため、制裁を加え、あるいは起訴するのは政府機関であり、ロシアのサイバー攻撃の検出・解明などにはとくに有効である。
 アメリカ連邦捜査局長官Robert Muellerから名付けられたMueller Reportには、2016年アメリカ大統領選挙でのロシアのサイバー攻撃についての2年間にわたる捜査結果が記されている。主にこれを根拠に2018年5月、トランプ政権はIRAやGRUの関与を含むロシアの個人26人と会社3社に対して制裁を発動した。ロシアの目的は、どちらの候補が勝とうが、その結果を国民が信頼できないようにすることであった、とDr. Fiona Hillが報告している。したがって、偽情報にもとづくストーリーを信じることは、クレムリンの思惑にしたがうことになる、と警告もしている。
 ロシアのような国家を挙げてのサイバー攻撃に対しては、対処は容易ではないが、最近になって、かつてソ連に組み入れられていたエストニアで、問題を精緻に分析し、しっかりしたリーダーシップのもと包括的に戦略に基づいて、緊密な官民合同の努力により、非常に強力なサイバー攻撃防御システムが実現している。エストニアのイルヴェス大統領は、市民と民間セクターと政府との共同作業は成功のために決定的に重要であった、と述べた。フィンランドでも同様の開発が進められている。
 結局、最終的には公的教育を通じての常識的礼儀(権利行使と義務履行など)と一般教育との組み合わせが、ロシアが企む社会の分断を防ぐ有効な対策となることがわかっている。マケイン元上院議員の未亡人Cindy McCainがはじめた教育と礼儀のプログラムがある。第一歩として、自由で開かれた社会の成員として、自国にとどまらず国を越えた「自分自身への尊敬の復活」を実現していくことが重要である。

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コシノヒロコ展 兵庫県立美術館

 この展覧会は5月に入ってからゆっくり鑑賞しようか、と思っていたのだったが、4月23日になってコロナ対策として第三次緊急事態宣言の発令が決り、4月25日から5月11日まで府県間の移動が自粛となり、兵庫県立美術館は25日から当面臨時休館となる、とネットの美術館ホームページに広報が掲示された。そんなわけで、緊急事態宣言開始寸前になんとか滑り込もうと、いささか焦って押っ取り刀で出かけたのであった。
 コシノ三姉妹はいずれも、いまや全国的、さらに世界的にもトップデザイナーとして高名だが、その長女小篠弘子さんの半世紀以上にわたる服飾デザイナーとしてのライフワークの展覧会である。20年余り前から安藤忠雄設計の芦屋の自宅に暮らしているが、同じ安藤忠雄が設計したこの兵庫県立美術館で念願のライフワーク展を開催することとなった。Photo_20210425054501
 会場入口前の大階段に、コシノヒロコデザインの女性服のマネキンが並べられている。私は女性服やドレスのデザインについて特段の興味や関心があるわけではないが、こうしてコシノヒロコの衣装が美術館会場に並ぶのを眺めると、これらも立派な美術作品でありなかなか美しい、と改めて認識する。少し前に同じこの美術館でミナ・ペルホネンの展覧会を観て、やはり服装デザインの美を再認識したが、あのときは日本の各地あるいは世界各国のさまざまな風景を背景とするなかでの服飾デザインの美を感じた。今回のコシノヒロコの作品は、もっとダイレクトに、服飾それ自体が独立して美しいと感じた。
 昭和12年(1937)生まれだから84歳である。戦中の幼少期に、母が買ってくれたパステルで絵を描くのに夢中になり、ひたすら画家になることを目指したという。服飾デザイナーになってからも、ずっと絵画の創作は続けているらしく、油彩や墨画が多数展示されている。
Photo_20210425054502  そしてデザインの基礎になったのが墨絵だという。黒一色の服飾デザインも何点か展示されている。墨の黒から始まったことも関係があるのか、このひとのデザインで目につくのは、色彩の黒と赤が特徴的だと思う。いずれの作品も美しいが、とてもエネルギッシュで力強いのが印象的だ。この人は年代的に、さきの大戦の後の大復興期に壮年期を過ごしたことが、やはり関係しているのではないだろうか、と私は思ってしまう。Photo_20210425054601
 タペストリーと服装とをあわせて展示している展示室がある。モチーフや色彩がほとんど共通のタペストリーと服飾デザインだが、巾3メートル余り、高さ8メートルほどの大きなタペストリーの前に、等身大のマネキン女性が着る服装が置かれている。壮大なスケールのデザインを、人間の寸法に落とし込んだらこのような服飾デザインになる、ということが一目で理解できる。ただ単純にヒトの服装のデザインだけを考えて設計しているのではなく、大きなスケールで考えてヒトに応用しているのだ、と主張しているかのようだ。自宅の設計などで親しく長く付き合いのある安藤忠雄との対談でコシノヒロコは、服飾デザインは人間にとってもっとも「身近な」生活環境で、建築のようなものだ、と話したという。
Photo_20210425054602  コシノヒロコのデザインは、大胆な配色と形とともに、ごく繊細で細やかな形状が導入される。色彩の組み合わせも、こんな取り合わせがあるのか、と驚くような大胆かつ繊細なものがある。かなり思い切っていろいろな要素がふんだんに盛り込まれているのだが、決してゴチャゴチャした印象にはならないのはさすがである。
 ひとことで言って、服飾デザインが美術館に登場すると、立派な造形芸術となっていて、壮大なスケールのプランと構想が人間の寸法に凝縮・濃縮されていたのを発見した、という意義ある感動的な鑑賞であった。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(13)

2. Parrying Putin’s Playbook
2.2.アメリカ歴代大統領の戦略的ナルシシズム
 2001年の夏、George W. Bushはプーチンと会談して「プーチンは、率直で信頼のおける良い人物だ。彼と良い会話がフランクにできたことに満足している。」と言った。プーチンは、ブッシュの友人に石油関連の良い仕事をアレンジもした。
 2009年、アメリカ国務長官Hillary Clintonは、Sergey Lavrov外相と会談した。このときは、ロシアのグルジアへの侵攻(2008年8月オセチア戦争)からまだ7か月が経ったばかりだった。歴史上はじめて、軍事行動に加えてサイバー攻撃による偽情報拡散が行われた戦争であった。会談でHillaryは、アメリカとロシアの真新しい関係を構築しようという意思の象徴として「リセットボタンreset button」を提案した。信頼でき、予測でき、前進する友好関係の実現を期待できると楽観したのだ。これは核弾道数を半減するNew STAT条約の2010年4月締結調印につながった。
 2012年3月、オバマ大統領はDmitry Medvedef大統領と会談し、11月の大統領選挙で再選したらもっと柔軟にロシアと協調できるだろう、と告げた。大統領選挙では「冷戦はすでに20年以上も昔の話だ」と演説した。オバマ政権は過剰な楽観主義から、対ロシア政策において、ロシアの攻撃を抑止するよりも協調する前提で思考した。しかしまもなく、クリミア併合とウクライナ侵攻、そして2016年の大統領選挙へのロシアのサイバー攻撃で、楽観ムードは損なわれた。2000年代になって、ロシアの脅威はますます複雑化していたが、アメリカはロシアの目指す方向はアメリカと同じで、引き続きロシアが責任ある善良な国家になるものと考えていた。
 トランプ大統領も、これまでの大統領たちと同じくプーチンと良い関係を構築して、ロシアの戦略的行動を変えることができると楽観した。2017年のFOX Newsのインタビューで「プーチンは殺人者ではないのか」と聴かれたトランプは、「殺人者はどこにもいる。わが国がそんなにイノセントか」と答えた。2016年の大統領選挙にプーチンがサイバー攻撃をしかけたとCIAが報じたとき、「プーチンに聴いた。彼は絶対にやってないと言った。もう一度聞いた。やっていない、と。彼は言われているようなことは、やっていない。」とトランプは答えている。トランプがプーチンを擁護することがよくあるので、クレムリンからなんらかの脅しか便宜かを受けているのではないかとの疑惑もあった。これらのトランプの過剰な楽観バイアスと希望的観測も、彼の前の2世代の大統領と同様のパターンである。しかしプーチンは、どのアメリカ大統領とも友人にはならなかった。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(12)

2. Parrying Putin’s Playbook
2.1.ロシアの攻撃に対処できない要因
 ロシアの偽情報拡散disinformation、否認denial、依存強制、破壊・錯乱技術の巧妙な(被害側には高度に有害な)組み合わせ攻撃に対する、アメリカとその同盟国の準備はまったく不足していた。クレムリンの執拗なそれらの攻撃に対して、我々の対応は遅くて稚拙であったのみならず、クレムリンが狙う我々の側の意見対立や分裂を助長するものであった。
 ロシア研究者Fiona Hillの分析は、今後の我々の対応の緒となるだろう。彼女は次のように主張する。我々が内部で党派的対立を起こして疲弊すると、それを企んでいる敵とは戦えない。プーチンが分裂させようとするなら、アメリカとその同盟国は分裂してはいけない。プーチンが偽情報を送り込むなら、アメリカとその同盟国はたしかな信頼できる情報ソースを確立させなければならない。プーチンが(エネルギー資源など)ロシアへの依存性を構築しようとするなら、アメリカとヨーロッパは同盟内での相互依存・協力を強化しなければならない。プーチンがロシアの弱みを補うため破壊・攪乱技術を用いるなら、アメリカとその同盟国はそれらへの対抗策を行使するとともに我々の側の優位性を見極めて維持しなければならない。要するにアメリカとその同盟国は、しっかり自信をもって行動しなければならない。
 私がPatrushevに会ったとき、彼が恐怖と傷つけられたプライドの組み合わせにとらわれていることは明白だった。彼はタフに見えるが、それは深い失望からくる強がりであり、それは彼のそれまでの人生を支えていたものだった。ソ連の平等主義の名の下の不公平・不公正、スターリニズムによる奇妙な父権主義と第二次世界大戦の戦中・戦後の600万人にのぼる自国民の殺戮とさらに過酷なラーゲリでの100万人以上の死者、などの経験から彼が学び、自分を護ってきた結果である。腐敗して崩壊したソ連を、ロシアとして再建するには、崩壊への恨みからも、また国内の不満をそらすためにも、アメリカとその同盟国への敵対心は絶対的で、かつ意識としてアメリカとその同盟国からの脅威の感覚は継続している。
 プーチンが権力を掌握している以上は、クレムリンのこのような基本的な動機は変わりそうにないので、アメリカとその同盟国はPutin’s Playbookと主要要因としての偽情報拡散、否認、依存強制、破壊・錯乱技術を回避しなければならない。NATOもアメリカも、軍事予算ではロシアに対して圧倒的に優位だが、この回避の実現のためには、この優位を分裂せずに結集するとともに、クレムリンが我々にもたらす傷・弱みを防ぎ、修復しなければならない。
 民主主義の理念と制度の信頼を見直す機会としては、過去20年間にわたるプーチンの支配と攻撃そのものは、有効な意味あるものであった。歴史家・著述家Timothy Garton Ashは、2019年ヨーロッパは、死をも覚悟させる存在の危機に直面し、それが心をひとつに集中させた、と述べた。それは拡大しつつある脅威を覆い隠してきた誤った思い込みを捨てさせた。その思い込みのために、アメリカとその同盟国はロシアの攻撃が勢いづくのを許してしまっていたのだ。
 ここで私は、戦略的ナルシシズムStrategic Narcissism、とくに希望的観測wishful thinkingこそが、アメリカがロシアの攻撃に対して有効な対抗策を怠った要点であることを指摘したい。ロシアの指導者が、現状維持で満足するだろう、との思い込みだ。プーチンの行動の背景にある感情的な力を、これまでのアメリカ政府は無視してきた。ロシアのさまざまな攻撃が発生し、ヨーロッパ各国への転覆工作が判明しても、ロシア政策の変化に対して楽観し過ぎたことが、有効な対応策を遅らせた。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(11)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.3.プーチンの戦略と攻撃
 その観点から、ヨーロッパの動向は重要である。旧ソ連から独立した諸国は、冷戦の終結で自由を獲得したが、当初の高揚した明るい気分から自由経済の現実の厳しさに触れ、所得格差も拡大し、新しい問題に直面している。EUに参加した諸国は、経済連携によるさまざまなメリットを享受する半面、経済政策とりわけ貨幣にかんする管理が主権から奪われて、景気後退時にはフラストレーションが溜り、また欧州会議という国家主権の外の意志でさえ、さまざまな決定が行われることから、政治不信、ポピュリズムの増加などがある。そしてとくにブレグジットによりEUに亀裂が入りかねない状況にまできた。これらの状況は、ヨーロッパ諸国の弱体化を望むロシアにとっては歓迎すべき傾向となっている。
 ヨーロッパとアメリカの自由・民主主義諸国間の連携も、油断ができない。9.11同時多発テロの直後は、ヨーロッパ諸国がアメリカを支援したが、その後のブッシュのイラク戦争では早くもヨーロッパから多くの反対が出た。オバマがヨーロッパと中東からの多くの軍隊引き揚げを宣言すると、ヨーロッパの一部からはロシアを利する行動であり危機を大きくすると批難する国が出た。オバマが、今後はヨーロッパよりアジアに目を向けたいと声明すると、多くのヨーロッパ諸国が70年にわたる環大西洋パートナーシップに背を向けるのか、と心配した。2016年大統領候補であったトランプは、NATOは時代遅れだと懐疑的な見方を示した。トランプは、EUを自由と民主主義の同盟・協力よりも、むしろ競争相手だとした。2017年大統領に就任したトランプは、アメリカの復活を目指してAmerica Firstを主唱したが、これはヨーロッパからの撤退と、戦後の世界秩序のリーダーからの離脱ではないかと懸念された。2019年10月シリア北東部からアメリカ特殊部隊を突然引き揚げたトランプの決断は、NATOを驚かせた。これらになんら事前協議がないことが、アメリカのNATOおよびヨーロッパへのコミットメントの減退と受け取られた。この直後フランスのEmmanuel Macron大統領は、イギリスのEU離脱が近づくなか、「EUは崖っぷちだ。アメリカはヨーロッパ・プロジェクトの理念を共有してくれない。」とEUの苦境にかんしてトランプへの不満を表明した。そして2019年末Macronは、ロシアと外交イニシアティブを開始したうえで「NATOは脳死状態だ」と発言し、「トルコはNATOメンバーであり続けて、何故なおかつロシアから複雑な防衛システムを購入できるのだろうか」と問うた。
 プーチンは、もちろんこのようなヨーロッパ諸国間およびヨーロッパとアメリカ間の緊張状況は大歓迎だ。実際21世紀最初の20年間、同盟国間の結束の欠如、それらの国々の自信喪失、そしてプーチンにPutin’s Playbookをやめさせるだけの十分なコストを、アメリカとその同盟国がクレムリンに対して払わせられない、という事情から、プーチンはまったくやりたい放題の状態だった。
 ヨーロッパの弱体化と2013年のシリアのレッドラインへの無反応から、プーチンは2014年のクリミア併合とウクライナ侵攻を決断できた。クレムリンがヨーロッパとアメリカの選挙にサイバー攻撃をかけたのも、イギリスで元ロシア・スパイのセルゲイ・スクリパリを暗殺しようとしたのも、アサド政権を支援し続けるのも、すべて同じ理由である。ロシアの軍事産業と経済活動への厳しい制裁措置にもかかわらず、ノルトストリーム・パイプラインは、国際条約を破り、ヨーロッパ諸国の主権を侵し、ロシアがヨーロッパに大きな影響力、支配力を保持する有力な武器である。ヨーロッパを政治的に挫きながら、経済的に利益を獲得し、資源で国家を支配する、一石三鳥なのである。
 ロシアは、経済、人口、公衆衛生、社会保障などで見る限り、決して大国でも強国でもない。元アメリカ国務長官Madeleine Albrightは「プーチンのロシアは、貧しい手札をうまく使う」と言った。アメリカやその同盟国は「ずっと良い手札で、下手に使っている」ということになる。クレムリンの戦略、その行動を支える恐怖、誇りの喪失感、野望をよく理解して、Putin’s Playbookを巧みに受け流し、われわれの自由で開かれた社会をいかに護るか、が重要である。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(10)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.3.プーチンの戦略と攻撃
 民主主義プロセスと民主主義体制の信頼という牛を殺す活動は、選挙の冒涜や情報戦だけにとどまらない。2004年ウクライナ大統領選挙では、ロシア寄りのYanukovychに$300M以上の金を与えるだけでなく、対抗候補Yushchenkoの毒殺を図り、重複投票など不正行為も検出された。しかしロシアのこのような乱暴な介入は、オレンジ革命を招き、ウクライナ最高裁判所の裁定で再選挙が行われ、15,000人もの外国人監視団の監視のなかでYushchenkoを大統領に選出した。まったく同様のことが2009年モルドバでも起こった。しかしロシアは粘り強く攻撃方法を改良し、ついに2010年ウクライナでYanukovychを大統領に据えることに成功した。
 2015年以降、ロシアはNATO諸国やEU諸国にまで選挙干渉攻撃を拡大している。イギリス、ドイツ、オランダ、モンテネグロ、イタリア、ブルガリア、オーストリア、スペイン、マルタ、フランス、チェコなどに対するロシアのサイバー攻撃を軸とする攻撃は、ロシアがその成果を不十分としながらも、現実に被害者側の国々で市民が民主主義に対する自信を失う、ポピュリズムに傾く、などの効果をもたらしている。2016年には、大統領選挙をひかえたアメリカに大規模なサイバー攻撃をしかけ、アメリカ国民の分裂・分断を図った。そして選挙の結果がどうであれ、クレムリンはアメリカ国民の民主主義プロセス・体制への忠誠のみならず、選挙で勝った人物への国民の信用を貶めることに成功した。この10年以上も前から、アメリカはヨーロッパでさまざまなロシアの同じような振る舞いを見てきたのだから、大統領選挙の両陣営がその準備・対抗策をしなかったのは、やはり怠慢と言わざるを得ない、と元CIA副長官David Cohenが言っている。
 ロシアのこれらのような偽情報や妨害の策謀に対する否認能力deniabilityが重要である。これらの敵対的行動に対して、プーチンは必ず「ロシア国家はアメリカ国内の事情に介入することは決してない」と自らの関与を否定する。このロシアの否定は、アメリカの意図的無視willful ignoranceをもたらすことがある。クリントンもトランプも、ロシアの介入行動を無視するほうが好都合だった面があった。
 クレムリンは自らの犯行を否認するのみならず、アサド政権の化学兵器による無差別殺戮や無差別爆撃についても否認する。2018年4月アサド政権が70人の無辜の民間人を神経ガス兵器で殺戮したとき、事件の前にイスラム・テロ組織が化学兵器で攻撃を企んでいるとの情報があると公表していた。その後には、これはロシアに罪を着せるための策謀だとクレムリンは声明を出した。マレーシア航空機が2014年7月にウクライナ上空で撃墜され298人が死んだ事件でも、ロシアは責任を取らない。写真でもビデオでも、証拠としてミサイルのルートが明らかに残されているのだ。
 ロシアは、アメリカやNATOにまともに対抗するだけの軍事力、それを支える経済力を欠いている。しかしインターネットソーシャルメディアは、それでアメリカやNATOの弱点を衝くことでロシアの軍事戦略maskirovka(マスキロフカ)、すなわち戦術的欺瞞、騙し、否定、虚偽の軍事的応用戦略を実現する手段となり得るのである。
 クレムリンは、冷戦集結時の激しい屈辱からスタートして、チェチェン問題など弱小の相手、国内紛争からひとつひとつ着実に軍事力を蓄積し、1988年の中距離核弾頭ミサイル軍縮条約を破って密かに核兵力を増強し、またサイバー攻撃能力を着実に増強している。NATO諸国はロシアと地理的に近いことから、短時間で核攻撃することでアメリカなどの遠距離友好国の支援が到着する前に破壊できる。そのため、ロシアの核武装はヨーロッパを脅すには優位にある。領土の東側については、中国と合同軍事演習するなどで備えている。
 ロシアのエネルギー資源を用いた周辺国の支配も周到である。とくに旧ソ連の領域であったベラルーシ、ウクライナ、アルメニア、タジキスタン、キルギスタンなどは、運輸とエネルギーのインフラストラクチャーをソ連から受け継いでいるので、ロシアに支配されやすい傾向がある。ドイツでさえも、政策判断によってはロシアの天然ガスに対して依存を強める可能性がある。ドイツ元首相Gerhard Schröderは、恥ずべきことに任期の最後の1か月にロシアのノルトストリーム・パイプライン・プロジェクトの長期契約を承認して、自らロシア運営会社の最高幹部に就任している。ポーランド、スロバキア、ハンガリーにも、同様なレムリンの触手が伸びている。いずれも、アメリカとの関係に楔を入れようとのクレムリンの意図がある。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(9)

第1部 Russia
1. Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.3.プーチンの戦略と攻撃
 反乱の恐怖とプライドの喪失は、外国へ向けての攻撃性を強化する。国内の反対勢力から自分自身を護るため、そして国家の偉大さを再興するため、プーチンはロシアの民族主義を再興した。ロシアを、恐れを知らぬ、外国からは恐れられ、西欧民主主義を破壊する国にしようとする。
 競争者を弱体化して生き残るために、ロシアの多面的な新しい軍事能力Russian new generation warfare RNGWはプーチンの基本戦略Putin’s Playbookとなった。ロシアは、アメリカやその同盟国と直接対抗できる力はない。ロシアの経済力は大きくない。2017年のアメリカとEUを合わせたGDPは$36.5Tであり、ロシアは$1.5Tに過ぎない。国民一人当たりのGDPはアメリカの6分の1で、チリ、ハンガリー、ウルグアイと並ぶ。輸出の59%を石油が占め、その価格は変動が大きく、収入は不安定である。経済活動の不正・腐敗のまん延も、ロシア経済に大きな影をおとしている。人口も1991年の148百万人から2018年には144百万人に減少した。出生率の低下のみでなく、人口流入の減少も寄与している。2050年には132.7万人になると見込まれている。
 しかしKGB出身のプーチンやパトゥルーシェフたちは、そもそもロシアを、他国を凌ぐような豊かな国にすることに興味がない。古くからのロシアのジョークがある。ただ1匹だけの牛を持つ農民がいた。彼は隣の農民が2匹の牛を持っていたことを憎んでいた。魔法使いが来てその農民に、ひとつだけ願いをかなえてやろう、と言った。農民は「隣の農民の牛を殺してほしい」と願った。プーチンは、この1匹だけ牛を持つ農民と同じなのだ。プーチンは、NATO同盟国などから報復を誘発してしまう閾値に達しないレベルで目的を達成する戦略を周到に考えて実行する。他国より優位な地位を目指すより、他国のレベルを引きずり下ろすことに専念する。ロシアの統合参謀本部議長Valery Gerasimovは2013年の記事で、「戦争のルールは変わった。政治的・戦略的目的を達成するための手段として、非軍事的手段の重要性が増している。」と述べたが、これはGerasimov Doctrineと呼ばれている。Putin’s Playbookは、偽情報と、ターゲット国家の強みの破壊・錯乱技術とその国の弱みの利用、そして秘密工作への関与否認との組み合わせである。それはまた相手国のロシアへの経済的依存性、とくにロシアが供給するエネルギーへの依存性の育成を含む。プーチンは、相手国の牛を殺してロシアの力の相対的な増進を図るのである。
 クレムリンの込み入ったかく乱戦略を理解するには、他国の内政に対する干渉を掘り下げて分析することが有効である。2016年のウクライナ、モンテネグロ、アメリカへの攻撃が、Putin’s Playbookのさまざまな手段を示している。ロシアのプロバガンダは、高速・大量・繰返しの偽情報の発信が特徴であり、相手を信じさせるのではなく、相手か受け取る情報のことごとくを疑わせることが目的であるから、内容が矛盾に満ちていても構わない。プーチンが競争相手だと認識する相手の社会の信用を、妨害し、破壊し、分裂させ、弱体化を図ることが目的である。クレムリンは、極端な思想を持つ政党への直接的財政支援をはじめ、それを達成する多くのツールを持っている。市民の常識的なアイデンティティ、民主主義的原則、政治組織などへの揺さぶり、ソーシャルメディアの操作、間違ったストーリーの植え付け、虚偽の登場人物の創生、などがある。テレビ番組で定常的に間違った情報を繰り返し流すこともあり、複数言語での放送もする。陰謀論を拡散して、正しい報道に対して疑惑をいだかせ、信頼性を貶める。このような行動は、ロシア国内にとどまらず、西欧諸国、さらにアフリカにまで拡大している。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(8)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.3.プーチンの戦略と攻撃
 Patrushevは、話を聴いてはいたが、目につくような反応はしなかった。会談が終わって、ジュネーブを去るとき、私は我々の仕事の重要性を確信した。しかし、プーチンの意志・目的・戦略の方向性からみて、関係の改善は見通せないこともわかった。プーチンは、ともかくgreat powerの復活を目指して邁進している。プーチンは権力を掌握したとき、西側に対抗できるには15年は必要だと、辛抱強く考えていた。そして果たして15年ほど経って、彼はクリミア併合とウクライナ侵攻を実現し、シリア内戦に介入している。
 2500年前のギリシアの歴史家Thucydidesは「抗争は恐怖とプライドと利益から生じる」と言った。ソ連は冷戦に敗北して、あとを引き継いだロシアは、国民の人口は半分に、国土は4分の1になり、引き継いだ固陋な共産主義生産システムは自由化についてゆけず、自由経済市場でも敗者となり、生活水準も著しく低下し、西欧自由世界の諸国から軽蔑を受けた。そのなかで、プーチンやパトゥルーシェフたちは、Silovikiという旧ソ連の内務省、軍、諜報機関のエリートたちの一味として、それはソ連政府の陣容のわずか4%にすぎないものであったが、政府の枢要な情報を独占し、さまざまな不正行為を含めて富を独占し、権力を掌握した。彼らは当然ながら、ロシア国内の人々からも反感を買い、プーチン政権は国内の不安定要因が尽きない。こうしてThucydidesが指摘するプライド・利益・恐怖のすべての要因がそろって、きわめて緊張に満ちた戦闘的な強権政府ができた。Silovikiは、再び世界から恐れられる強国を目指さざるを得ないのである。
 プーチンとパトゥルーシェフ、そして他のSilovikiたちは、ソ連崩壊後のアメリカの支援の意図、つまりロシアを自由民主主義の国として再建して、穏健で健全で責任ある振る舞いをする安全な国家に育てるという意図を、はじめから信用せず、認めなかった。むしろロシアの主権の侵害だととらえ、ロシアを弱体化するものととらえた。2015年、プーチンはFSBの幹部に対しての演説で、「西側の特別支援は、公的、民間、政治的などの各組織を通じて、彼ら自身の目的を追求するもので、ロシア内部の信用と権威を棄損し、不安定化するものである」と述べている。
 プーチンは、チェチェン紛争では2.5万人もの民間人の死者を出したが、西側の反対を無視して民族意識を煽り国民の人気を得た。しかし2003年からジョージア、ウクライナ、キルギスタンなどで相次いで起こったいわゆるcolor revolutionsには神経を尖らせた。そして2012-2013年の大統領選挙では、ついにロシア国内で選挙の不正に対する民衆蜂起が起こった。2017-2018年にも、政治腐敗に対する不満が噴出し、2019年夏、反対候補への抑圧に対する抗議デモがモスクワに拡大した。これらが自由と公正な選挙など西側の政治に近い要求を掲げたこともあって、プーチンはこれらの運動の背後にアメリカやヨーロッパの陰謀があると見た。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(7)

第1部 Russia
1. Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.2. Patrushevとの会談
 Patrushevの発言は、なんら新しいことも驚くような中身もない。私は時間の浪費をしないために、なんとかして互いの関心を意味のある理解に導こうと、4つの提案をした。
 1つめは、両国は互いに衝突を防ごうとしているのに、クリミア併合とウクライナ侵攻は、第二次世界大戦後初めての力による変更であるのみならず、これまでにない軍事力の行使であり、あきらかに平和維持への脅威である。些細なきっかけで、思いがけず甚大な被害をすべての当事者にもたらした第一次世界大戦の例がある。モスクワもワシントンも、次のロシアの試みが、それはたとえロシアがNATO発動の閾値を下回ることを意図していたとしても、本格的軍事衝突のトリガーとなりかねない深刻なリスクを認識しなければならない。ロシアのウクライナ侵攻とクリミア併合に対するアメリカとEUの制裁が、単にロシアを罰したいのではなく、ロシアがこれ以上の行動に出ることのないようにしたいがためであることを、私はPatrushevにわかって欲しかった。Patrushevは、われわれがきわめて危険な流動的な状況に入っていることについては理解したと思う。さらにもうひとつPatrushevにわかって欲しいのは、アメリカはプーチンのやり方Putin’s Playbookの危険性、とくにRGNW(Russian new generation warfare)の危険性にすでに気づいている、ということである。ロシアのクリミア併合・ウクライナ侵攻は、昔からのロシアの軍事戦略maskirovka(マスキロフカ)、すなわち戦術的欺瞞、騙し、否定、虚偽の軍事的応用戦略に則っているといえる。Putin’s Playbookも、否定の準備としての偽情報が駆使されていて、さらに破壊的軍事技術とサイバー空間を利用して、従来のあるいは新しい軍事力を行使することが加えられている。ロシアは、アメリカが大国間のパワー競争が過去のものとなったとの幻想で独りよがりになって油断しているのを見て、攻撃的になってきている。
 2つめは、ロシアもアメリカも、それぞれ独立した国家として主権を維持して自分の国を統治し続けたいと思っている。しかしロシアの執拗な偽情報、プロパガンダ、政権転覆の攻撃は、我々の同盟国にとって直接的で深刻な脅威である。このような行為は、ロシアから被害を受ける西欧などの国々を対ロシアで結束させることになるので、こんなことをやめることこそがクレムリンにとって利益となるはずである。最近のロシアの行為は、失敗したり逆効果を招来している。たとえば2017年フランス大統領選挙で、ロシアはマクロンを妨害したが、結果はむしろマクロン支持票を増やしてしまった。2016年のモンテネグロのNATO加盟を問う議会選挙でロシアはクーデターを煽ったが、失敗してモンテネグロはNATO加盟を果たし、EU加盟をも目指している。クリミア併合・ウクライナ侵攻は、トランプ大統領によるロシア経済制裁を結果した。これらの話題に対して、Patrushevは思わず苦笑いを漏らした。おそらく自分が先ほど否認したロシアのそれらの妨害行為の存在を、よく知っているという証しだろう。
 3つめは、アメリカ、ロシアともにジハード主義のテロ組織から、我々の国民を護らなければならない。そのためには、ロシアがタリバーンへ武器を提供したり、アメリカがテロ組織を支援しているとの偽情報を拡散することは、ロシアにとって長期的利益にはならない。さらにロシアがイラン、イラクの代理戦闘グループ、Bashar al-Assad軍などに対して支援することは、人権問題や難民問題を長引かせるのみでなく、ISISやAl-Qaedaなどの宗派的ジハード活動を助長することになる。ロシアのイランへの支援が、イランに後押しされるジハード・テロ組織の活動を助長していることをPatrushevに理解して欲しかった。
 最後は、アメリカと協調すればロシアにも利益があるような場合に、ロシアが反対の行動をとるケースを取りあげた。ロシアが国連の北朝鮮への制裁に反対することがひとつの例である。北朝鮮の核ミサイル獲得は、直接的にロシアに脅威となるのみでなく、近隣諸国、たとえば日本に核兵器保有の必要性を与える。また北朝鮮は、他国あるいはテロ組織に核兵器を売る、あるいは技術支援をする可能性も大いにある。すでにシリアに核兵器を売ろうとしていて、2007年イスラエルがシリアの建設途中の核施設を爆撃したとき、北朝鮮の技術者から死者がでた。もし北朝鮮が核兵器をテロ組織に売るようになれば、世界でどの国が安全を確保できるだろうか。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(6)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.2. Patrushevとの会談
 私がPatrushevと会ったのは、彼の申し入れから1年も後となった。それはRex Tillerson国務長官に遠慮していたからであった。ティラソンは、トランプ─プーチンのトップ会談の前に、自身とLavrovラブロフ外相との間にルートを確立して、事前になんらかの有効な合意を形成しておきたいと考えていたからである。しかしラブロフはソ連時代の旧式の外交官で、新しいイニシアティブに懐疑的で、かたくなに西欧を批難し、2003年以降のアラブの春と呼ばれる一連の政変をアメリカの策謀と断定している。ラブロフは、自律的に新しい解決を見つけるつもりも、基本的な決断をする器量にも欠けている。いまでは、プーチンにごく近いところにいてアメリカの大統領補佐官のような立場のPatrushevこそが、対話に必要な人物である。私と同じような立場としてロシアに仕えるPatrushevとの会話ルートこそ、互いの政策や行動の背景にある関心や意図を探り合える。最初のステップは、消耗的な競争、最近のシリアでの事件のような危険な衝突について、来るべきトランプ─プーチンのトップ会談で具体的で有効な合意を実現するために、より深く準備できる範囲を探ることであった。
 Patrushevとの会談のためにジュネーブに向かう飛行機では、ロシア研究者Dr. Fiona Hillとロシア担当若手官僚のJoe Wongとが同行していた。 Fionaは、プーチンは常に戦略的に考え、計画し、行動するけれども、偶発的でありステップバイステップの青写真はないのが特徴だと。Joeは、差し当たってのアメリカとロシアの関係構築は見通せないという。それはロシア国内の反プーチン派を抑えるために、外に敵をつくり強硬姿勢を貫くことで、国内から関心をそらす必要からだと。2018年3月には、フロリダを攻撃できる新しい核弾道ミサイルのプレゼン用デモ・ビデオまで公開した。
 Patrushevは、1970年代にKGBに入り、その後継組織FSBのトップだったプーチンの跡を継いだ。プーチンもPatrushevも諜報機関の人間こそ真の愛国者であると信じており、また「知識こそが力だ」と信じている。彼らのその「知識」は、不正工作を含めてプーチンをロシアのトップに上りつめさせ、20年以上もその地位を維持させている。探り当てた裏情報で、1990年代のロシアの「自由化」時代に大儲けしたビジネスマンたちを抽出し、独裁的権力で人質に取り込んだ。プーチンは、パトゥルーシェフを新設した経済セキュリティー保安担当部門のトップに任命している。
 会談がはじまった。Patrushevは、部下2名を書記としてともなって現れた。私は彼らにコーヒーを出したが、彼ら全員がまったく手を付けなかった。Patrushevが話すことは、クレムリンの世界観の繰り返しに終始した。クリミア併合とウクライナ侵攻は、すべてアメリカとEUの極右からロシアを護るための自衛のための行動である。NATOの旧ソ連圏への拡張はロシアへの脅威である。アメリカとその同盟国は、アフガニスタン、イラク、リビアへの悪意に満ちた介入によって、広域中東のテロ発生をもたらしている。そして2016年のアメリカ大統領選挙へのサイバー攻撃や西側の民主主義攻撃への、ロシアの関与を否定した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(5)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.1.ロシア安全保障担当者からの会談打診
 私がアメリカ国家安全保障問題大統領補佐官に就任してすぐの2017年前半に、ロシア安全保障協議会のNikolai Patrushevから申し入れがあり、決して友好的な相手ではないが、2018年2月にジュネーブで会うことになった。トランプとプーチンのレベルの下に、ホワイトハウスとクレムリンの間のコミュニケーション・ルートをつくっておくことは必要だと考えた。ロシアとアメリカはもちろん緊張した関係にあるが、まったく関係がないよりなんらかの関係は維持した方がよい。些細な誤解が思いがけない戦争を引き起こすことさえあるのだ。すでにロシアが、アメリカやその他の民主主義国家に対して、密かに転覆を図るようなさまざまな攻撃をしていることはわかっていた。
 2016年のEU選挙とアメリカ大統領選挙では、ヨーロッパとアメリカの民主主義に社会的混乱を導こうと、サイバー攻撃をしかけてきた。2018年には、NotPetyaという身代金詐欺ウェアで、ウクライナ政府関係会社、エネルギー会社、地下鉄、銀行が攻撃を受けた。これはさらにヨーロッパ、アジア、アメリカに拡がり、$10B以上の損害を世界中に与えたが、ロシア政府はいつものように関与を否認している。
 私はRussia new generation warfare(RNGW)を何年間も追跡し、その進化を見てきたので、軍事力、政治、経済、サイバー、情報手段などを駆使し組み合わせて攻撃してくるその背景の動機などについて、Patrushevと話したいと思った。私はPatrushevに、それらのようなロシアの危うい戦略が2国間の衝突につながる危険性があることを理解して欲しかった。実際にシリア内戦など、具体的に懸念は増している。2019年3月ロシアのValery Gerasimov将軍は、シリア内戦を「ロシアにとって、国境を越えた国益の防衛と前進の成功例」と声明を出した。ロシアは、シリアのBashar al-Assad大統領の政権をその誕生から支援しているが、Basharは2013年8月、毒ガス兵器で数百以上の子供を含む4万人以上の罪のない民間人を殺戮した。これが最初ではなく2012年12月、そして2014年8月にも、民間人に対して14回以上殺戮行為を繰り返している。オバマは、2012年このような酷い兵器による虐殺はレッドラインを越えている、と演説したのにも関わらず、結局オバマはいつものようになにもしなかった。プーチンは、アメリカはこれからも何もしてこないと判断したようだ。自信を得たプーチンは、2014年春、クリミアを併合し、東ウクライナに侵攻した。そしてプーチンは2015年9月、虐殺を繰り返すBashar al-Assad大統領を支援するために、シリア内戦に直接介入した。トランプ大統領は2017年4月、アサドが神経ガス(サリン)を使った大量殺戮をしたので59発のミサイルで空爆を行った。この結果、2018年までにロシアのシリアへの軍事支援は縮小した。
 私がPatrushevとあった日の1週間前には、北シリアでロシアの傭兵とアサド支援軍とが、タンクの遠距離砲でアメリカ軍とクルド人軍に攻撃してきた。さいわいこれは敵側のお粗末な行動のお陰で、またシリア解放軍の加勢もあり、アメリカ側は死者なく、敵側に200人以上の死者を出す結果となった。こうして、すでにアメリカとロシアの地上戦が始まりかけていた。長い冷戦時代にも、アメリカとロシアの直接の戦闘はなかったのに。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(4)

Introduction
21世紀の世界
 世紀がかわり2000年代に入ると、3つの大きな問題が発生した。
 最初は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロである。アルカーイダが犯行声明を出したこの事件は、3,000人以上の無辜の死者とそれ以上にのぼる身体的・精神的後遺傷を残した。直接的な物的損害のみでも$36Bを超えるうえ、世界経済に与えた影響ははかり知れない。
 二つ目は、イラクとアフガニスタンでの、予想外に困難と時間を費やす戦争である。
 三つ目は、2008年のサブプライムローン問題に発する世界的大不況である。1929年の大恐慌以来の甚大な経済低迷をもたらした。アメリカのみで$450Bを超える実損が発生し、失業問題も世界的に波及し深刻化した。
 9.11同時多発テロ事件から7年間がすぎた2008年ころには、アメリカの冷戦終結・勝利からの高揚感・楽観主義・自信過剰が色褪せて、悲観主義や諦観すら出てきた。2009年就任したオバマ政権は、もともとイラク戦争に反対していたこともあり、外国への関与に懐疑的な方針に全面的に切り替えた。アフガンからは軍隊を引き揚げ、国内経済低迷への対処、アメリカの国民再建nation building at homeを主張した。オバマは、「世界の問題発生の元凶は、西欧帝国主義である。強すぎるアメリカは、世界の問題を解決するより造り出すことに貢献しやすい」と主張する新左翼New Leftsに同情的だったとジャーナリストJeffrey Goldbergはいう。
 世界をアメリカとの関係のみで考え、世界の将来がアメリカの決断だけで決まる、という思考を戦略的ナルシシズムstrategic narcissism、とMorgenthauは名付けた。自信過剰overconfidenceもその反対の諦念resignationも、ともに戦略的ナルシシズムの産物なのだ。G.W.ブッシュは自信過剰から戦争のリスクを過小評価して2003年のイラク戦争をはじめてしまった。そのあとオバマは、諦念から無作為がもたらすリスクを過小評価して、2011年イラクの戦地から撤退し、2013年には北シリアからも撤退し、シリア・アサド政権の化学兵器による民間人大量殺戮を見捨ててしまった。いずれも希望的観測wishful thinkingと、厳しい現実harsher realitiesからの逃避にもとづく戦略的ナルシシズムの結果なのだ。状況がもとめていることへの対応ではなく、当事者purveyorが好ましく思うことをやってしまっているのだ。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(3)

Introduction
東西冷戦の終結
 1989年まで続いた東西冷戦は、民主主義・自由陣営側が共産主義・全体主義陣営に勝利して終結した。我々は自信を強くした。しかし自信を持ち過ぎた。自信過剰は、独りよがりにつながる。アメリカと同盟国は、開かれた自由な社会を維持していくためには、自由・安全・繁栄を護るために、努力し競争しなければならないことを忘れてしまった。私は、自信過剰が成長していくのを、目の当たりにした人間である。
 1989年に前後して、ドイツのベルリンの壁の崩壊を直接現地で見た。その直後に「鉄のカーテン」から遠い場所で、思いがけない問題が発生した。1979年イラクの独裁的統治者に上りつめたSaddam Husseinが人口2,200万人のイラクで、クルド人18万人を含め、100万人以上の人々を殺戮し、1980~1988年の8年間イラン・イラク戦争を行った。それが勝者のないまま終わると、その戦争で費やした金を不当に挽回しようと、1990年隣国クェートを侵略した。Saddam Husseinは、ロシアからスターリンの全体主義を導入して過酷な独裁国家を支配した。彼のクウェート侵略に対しては、アメリカなど諸国が国連軍を編成し、Saddam Husseinのイラクを、湾岸戦争で短時間に打ち負かした。しかし戦争後の現地の安全を維持し、繫栄させ、安定した統治ができる政府をいかにして構築して残すか、などの重要な戦略が欠如していた。
 冷戦に勝利し、湾岸戦争にまた勝利したアメリカは、世界で無比の唯一のスーパー・パワーとして、独善的境地に入ってしまった。ハンス・モーゲンソーがその著『ナルシシズムのルートThe Roots of Narcissism』で説いたように。
 しかしまもなくアメリカの単独スーパー・パワーに対抗して、かつての独裁国家が戻ってきた。
 最初は、1990年代のプーチンのロシアである。アメリカの研究者は、プーチンがロシアの伝統的な独裁国家の道筋への回帰を明確に目指している、と報告した。ロシアは当初、自由化、市場経済による発展を指向したが、すぐに破綻・失敗が明確になった。それに代わって、独裁国家への意志が復活台頭してきた。かつてのソ連の支援を失った北朝鮮は、飢餓に苦しみ、恐喝で金を得るために核武装を始めた。偉大なる首領Great Leader金日成をDear Leader金正日が継ぎ、その間イランではイスラム革命が起こって、これも独裁体制となった。
 次いで、新しい大国Great Powersの競争がはじまった。中国は1991年の湾岸戦争を注視し、1996年の台湾海峡危機へのアメリカの反応になにも反応できず困惑し、アメリカ海軍の中国に対する圧倒的優位を経験した。そして経済開発に励み、PLA: Peoples Liberation Army(人民解放軍)を成長させた。そして現在は「アメリカ軍の覇権」に対抗するようになった。中東のイスラム諸国のジハード活動も活発化してきた。そのさまざまなテロ事件も発生した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(2)

Preface
 この本を書くことになって、友人、家族、編集者、その他さまざまな人々が私への期待を言ってきた。トランプの支持者たちは、トランプが多少乱暴でも、アメリカの国益を増進することを実行したことを書いてほしいと。またトランプへの反対派の人たちは、トランプが不遜・偏狭・感情的で大統領に不適な人物であることを書いてほしいと。それらのために本を書くことは、売り上げに役立って儲かるかも知れないが、多くのまじめな読者を満足させることはできない。国家の安全、自由、繁栄に対して挑戦(攻撃)があり、国家として対応(防衛)が必要となる問題にかんして、読者に有益なよりよい理解を与えること、それにより読者にその対策についてより有意義な議論をしてもらうことを目指して書いたつもりだ。


Introduction
ホワイトハウスからの電話
 2017年2月17日、ホワイトハウスのKatie Walshから電話があり、アメリカ国家安全保障問題の大統領補佐官National Security Adviserへの就任を打診された。そのときは、私はちょうど2014年のロシアのクリミア併合、ウクライナへの侵入問題にかんする研究状況について、アメリカ外交政策研究所Foreign Policy Research Instituteで、ロシアの多面的な新しい軍事能力Russian new generation warfare (RNGW)に対して、アメリカと同盟国がこれからどのような軍事能力を備えるべきかを議論していた。ロシアのプーチンは、いつもアメリカと同盟国、NATOが対抗的手段を取らざるを得なくなるその閾値の少し下までのレベルで攻勢をかけて目的を達成するよう行動する。プーチンは、第二次世界大戦後世界ではじめてヨーロッパの国境を書き換えたのだ。プーチンは、この成功で自信をつけてこれからますます攻撃的になるだろう。
 この直後、私はすでにアポがあったPhiladelphia Inquirer(軍事外交専門雑誌)記者のTrudy Rubinと話した。彼女は中東問題に詳しく、私もたいへん勉強になっている。第二次イラク戦争以後の多くの困難な問題を早くから予言し、かねてよりアメリカのwillful blindness(恣意的無関心・無視)と準備不足の問題を指摘していた。そして、アメリカがイラクに介入することの良し悪しを延々と議論するより、誰がどういう理由でその介入が容易だと判断したのかを考える方がはるかに有意義だという点で、私たちは同意見だった。
 この直前にホワイトハウスから入った突然の電話のことを伝えると、彼女は私の補佐官就任を支持してくれた。彼女はトランプ支持者ではなかったが、トランプは選挙で選出された大統領であり、私にやるべきことがあるはずだと。
私はこれまで軍で働いてきて、献身的で勇敢な同僚たちと有意義かつ充実した人生を重ねることができた。しかし、同時に素晴らしい仲間が戦場で死ぬのを何度も見て、激しい失望・挫折frustrationsも経験した。その主な要因は、軍の現場の現実realityと、ワシントンで政策の前提となっている仮説・憶測assumptionsとの乖離である。私は、これまでに見られないユニークな新大統領のもとで、私の努力でこの乖離を埋めて、軍の不満・失望frustrationsを少しでも軽減したい、ということが目標であった。そして、私は党派的・政治的な行動をとる気持ちは一切なかった。第二次世界大戦を勝利に導いた尊敬する先輩George C. Marshallは、ついに一度も投票すらしなかった。私は、他の5人の大統領に対してと同じ姿勢で私のやるべきことに全力をつくすと決心した。

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