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2021年5月

H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(29)

第3部 South Asia
5.A One-Year War Twenty Times Over: America’s South Asian Fantasy
(1年の戦争を20回以上: アメリカが抱く南アジアの幻想)
5.1.南アジアの苦悩とアフガンの悲劇
 2017年2月、私はホワイトハウスに初めて入ったが、30年前のウエストポイントの学生時代にベトナムについて議論したくなかったことを思い出しつつ、アフガニスタンの議論に乗り気になれなかった。アフガニスタンに自立した責任を持ち得る政府がないのは、アメリカが長すぎる戦争に興味を失ってしまった結果である。今では、この遠くて山と岩だらけのアフガニスタンで、アメリカ兵がいま何をしているかさえ、ほとんどのアメリカ人は知らない。アフガニスタンから撤退すべきと考える人は、トランプに撤退以外の提案をしないし、引き続きアフガニスタンへの関与が必要と考える人は、なにか言うとトランプが即時撤退を命じてしなわないかと恐れて、やはり言わない。この16年間続くアフガニスタンの戦争に対して、大統領に戦争のリーダーシップを発揮してもらうためには、なにより先ず南アジア全体を包括する戦略を考えた上で提案する必要がある。
 この南アジアには、インドとパキスタンという2つの核保有国があり、たがいに敵対している。インドは世界最大の民主主義国であり、大きな可能性を持つのだが、インドとパキスタンの敵対関係もあって、経済的には世界的に最もうまく行っていない地域である。アフガニスタンには、20もの外国人テロリスト・グループがある。南アジアは、大きな潜在能力と、深刻な危険と、アメリカの安全保障と繁栄に関わる重大な問題を抱えている。
 何十年にもわたる戦争で、アフガンの社会は疲弊している。アメリカの政治家も戦略家も、アメリカがアフガニスタンの国家をいかに分裂させ弱体化させてきたかをよく理解していない。2001年アメリカ軍とNATO軍がタリバーン政権を制圧・追放した後、タリバーンの残党、その後ろのアルカーイダ、新しいテロリスト・グループたちとその支援勢力、そしてパキスタン軍などで複雑な紛争が発生した。皮肉なことに、短い戦争のイメージが心理的に定着するとともに、紛争は全体として長引いて、20年近くが経過した。アメリカもその同盟軍も20年間の戦争を経験したのではなかったが、1年の戦争を20回以上にわたって戦ったのであった。
 2017年までにアフガン戦争は、まるで墜落した無人機のように、誰も関心を払わない見捨てられた戦争となった。何年にもおよぶ方針の不統一と効率のわるい戦術でアメリカ軍が弱体化する一方、タリバーン、アルカーイダさらに他のテロリスト・グループたちが、パキスタンの後方支援もあって勢力を復活してきた。私は、最大の問題は有効な戦略の欠如であり、倫理の欠落であると考えている。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(28)

第2部 China
(中国共産党の自由と安全への脅威
4.Turning Weakness into Strength (弱みを強みに変える)
4.2.アメリカがこれからするべきこと(3)
 国内だけでなく外国にたいしても民主主義的統治を強化していくことが、中国共産党の組み込み・強制・隠ぺいに基づく攻勢に対して、自由でオープンな国を護る最良の方法である。中国共産党は、複数意見にもとづく民主主義に対して、排他的・永久的な力による人民掌握が相対的に強みだと考えている。しかし中国共産党が標的にした国で市民が民主主義を経験したとき、中国共産党の一帯一路の略奪的政策に対して、より有効に抵抗しているとの証拠が蓄積されつつある。2018~2020年以降、中国共産党が仕掛けた債務の罠にかかった人々の動きが、中国共産党の投資をうまく行かなくするようにしている。2019年マレーシアで首相がマハティールに交代すると、北京との「不平等条約」を終わらせた。スリランカ、モルディブ、エクアドルなどの小国の新しい政府は、中国の出資と建設工事がいかに彼らを負債に追い込み、主権を脅かしているかを露呈させた。
 ターゲットにされた国々にとって、民主主義制を強化し成長することこそが、中国の攻撃に対する最強の治療法である。その実現のためには、中国共産党の複雑で巧妙な攻撃戦略を阻止する強力な防衛努力が必要である。
 たとえば華為Huaweiは、1987年に中国人民解放軍の技術将校であった任正非 Ren Zhengfeiが起業し、著しい成功で急成長し、シスコ、エリクソンを抜いて世界最大の通信機器メーカーとなり、世界市場の30%を占めるようになった。外から見れば、典型的な目覚ましい大成功の企業である。その裏では、中国共産党の支援を得た国際的産業スパイによる、世界のハイテク会社からの先端技術および製造ノウハウの盗み出しがある。さらに中国共産党のために、将来のグローバル経済の要となるデータを抽出する役割を担っている。産業データや個人データなど世の中に流通するあらゆるデータを積極的に活用した新たな経済としてデータ経済data economyと呼ばれる新しい分野が目指されているが、華為は、中国共産党のためにこの新分野の尖兵として、合法・非合法を問わず活躍することが期待されているのである。グローバル通信の基幹的システムを握れば、それが可能となるからだ。
 2019年アメリカは華為Huaweiに対して関税規制を追加し、アメリカ企業にその製品の購入・使用を禁止した。そのころ華為CFO孟晚舟Meng Wanzhouはカナダにいて、イランへの経済制裁違反容疑で逮捕された。中国共産党はこの対抗措置として、正当な理由もなく中国訪問中のカナダ市民2人を逮捕し、もう1人のカナダ人を麻薬密輸罪として死刑判決を下した。この中国共産党の報復行動は、明らかに中国が信頼に値しない国であることを露呈しており、また同時に中国が華為を中国政府から独立した民間会社だと言いつのることが虚偽であることを証明している。
 華為への制限・制裁措置に多くの国々が同調する一方で、フランスは3つの内の2つの5Gシステムに華為の導入を許可した。これでフランス市民の個人生活、仕事、インフラ、交通運輸、健康、軍事まで中国政府に筒抜けになった。20年前にアメリカ政府が、China Telecomにカリフォルニアでのネットワーク設置を許可したときと同じ過ちである。北アメリカ全域から、会社、個人、政府の情報が米国とカナダのChina Telecomを介して北京に大量に盗まれた。2019年には詳細な捜索の結果、華為の通信機器から、国家安全保障上の危機の証拠が明白な証拠として確認された。華為の従業員が同時に中国政府の安全保障関係部門と兼務していたり、人民解放軍に籍を持っていたりすることも、独立系の調査会社の調べで判明している。とくに5Gの通信網については、アメリカとその同盟諸国で、信頼できる、機密保持ができるネットワーク・インフラを構築する必要がある。
 アメリカは、中国とさまざまな交渉を試みて中国の通商上の不公正の是正を図っているが、つまるところ中国が国民への圧政の継続を図る限りは、アメリカとの関係の改善も難しい。中国が国家主導経済を護り固執する限り、アメリカとその同盟諸国は強く連携して立ち向かう必要がある。そうしなければ、中国は個別撃破のアプローチで攻撃してくる。中国が密かに崩壊を願っているWTOのような国際機構を護ることも重要だ。WTO加盟時に中国は多くの事項を宣誓したが、20年後の現在に至るまでその多くを遵守していない。中国企業への多額の補助金、外国企業に対して中国市場へのアクセスの見返りに要求する機密コア技術の提供などの報告義務は履行されない。中国の報復を恐れて、ほとんどの国がWTOに訴え出ることを控えてしまう。強制した技術移転を、自発的voluntaryとうそぶく。自らを開発途上国と主張して、グローバル市場にそのルールを守らないまま入り込む。
 不公正な通商・貿易慣行だけでなく、専制国家との取引がはらむリスクからも、中国と自由陣営諸国との間には自然に分離decouplingが生じてくる。ここで重要なのは、民間企業である。中国の不誠実dishonest不正abusesはすでに露見しているので、会社は中国市場にそれを侵してまで参入するだけの利益があるのか否かを真剣に検討して判断すべきである。中国への投資の減少、中国内での製造撤退などの行動のみが、中国共産党のリーダーたちにほんとうの経済改革を、利益を通じて納得させることができる。
 一方で、中国も多面的に重大な問題を抱えている。一帯一路などで冊封国候補とした国の中からも反発が出ている、国内でも習近平体制に疑問や不満をもつ民衆が現れはじめ、香港では騒擾が起こり、中国共産党の抑圧的体制では学術的にも経済的にも行き詰まりの兆候も見えている。どの程度のインパクトが発生するか不明ながら、長期間の一人っ子の結果としてこれまで大きな利点であった人口が減少し始める。
 しかし我々にとって重要なことは、中国の状態如何に関わらず、我々の強みを護ることである。中国の「包括的な国家の強み」の追求の結果から、我々は多くを学ぶことができる。我々は、これから教育改革を根本的な改良から行うこと、自由市場原理に則ったより良い公的投資と私的投資の棲み分け・統合を国として図っていくことが重要である。
 透明性の高い競争こそが不必要な2国間の危機拡大を防ぐことができ、利益が重なるところで協働することも可能にする。しかし経済の低迷は中国共産党の怖れを増し、より激しく国内へ圧力をかけながら、中国の問題をアメリカやその同盟国のせいにする可能性がある。そしてそれが昂じると南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島などで衝突が発生する可能性がある。軍事的のみでなく外交的、経済的にも有効に競争・対応をしていくことが衝突を回避する最良の方法である。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(27)

第2部 China
(中国共産党の自由と安全への脅威)
4.Turning Weakness into Strength (弱みを強みに変える
4.2.アメリカがこれからするべきこと(2)
 中国共産党は、表現の自由を、自国内では抑制すべき、かつ外国に対しては利用できる「弱み」とみている。我々は、中国の代理勢力が情報操作を企むことを防がざるを得ない。しかしその一方で、中国の人々とできる限り前向きの良い効果をもたらす交流を促進すべきでもある。自由な国に来て、自由な人々と交流した中国人は、中国に帰ってから中国の党の方針に疑問を持つ、また表現の自由を求める、などが期待できる。どの国からであれ、留学生は受け入れ、国の歴史や政治を知り、その良いところを理解する。大切なことは、彼らをきちんと受け入れて、学生のなかに溶け込ませることが大切だ。同じことが、アメリカ国内の中華人街などの在留人にも言える。もちろん産業スパイ・軍事スパイなどを排除する上でだが、表現の自由をもつ社会の経験は、中国共産党のプロパガンダに疑問をもつ、さらに中国共産党に対して疑問をもつに至るための有効な方法である。
 2018年11月、アメリカ上院国土安全保障委員会Senate Committee on Homeland Securityは、スパイ抑止のために中国人在留者の雇用を抑制するだけでなく、優れた高学歴の中国人在留者を公平な条件で、十分なインセンティヴを与えて雇用すべきである、と議決した。たとえば、天安門事件でアメリカに逃げてきた学生たちに、当時のGeorge H.W. Bush大統領が特別措置でビザを与えた。彼らはアメリカの大学で学び、その後シリコンヴァレーなどで優れた研究や開発に従事し、その後中国の圧政に対抗する活動を率いているという例も少なくない。
 中国共産党は、独裁的・集権的政府が経済を運営することこそが、力を集結できビジネスでも学術でも効率よく成果を出せると考えている。アメリカのような分散的自由市場経済は、中国のMade in China 2025、一帯一路、軍民融合体には到底勝てない、と考えている。それ故に、アメリカとその同盟国は、強制されない自由な体制が中国の予言のようにはならないことを実証することが必要である。プライベート・セクターがとくに重要だ。先端技術分野で、中国が我々の技術を略奪する行為をまず阻止することが大切である。中国共産党は、きわめて広範囲に在外中国人を把握し、最大限利用している。
 中国共産党は、優れた技術をもつ企業に直接・関節に出資して、影響力を行使・拡大して、やがてその技術をわがものとする、というケースはきわめて多い。成長する企業は出資者を必要とするが、潤沢な資金をもつ中国共産党の餌食になりやすい。さらに直接・間接に中国国内の人権侵害に関与し、国際条約に違反している700社以上の中国企業が、アメリカの株式市場に登録して、アメリカやその他の西側諸国の投資家から利益を得ている。
 中国の集権制が、速い決断、潤沢な投資、政府のリスクヘッジ、そして内部規制と道徳的規制が緩いことのメリットは、すでに官僚組織化が進んで硬直化してしまっている多くの民主主義諸国に比べて、たしかにダイナミックで機動的である。デュアル・ユースのハイテクを、短時間に中国共産党の武器に仕上げてしまうこともできる。
 アメリカのDODの調達システムの官僚主義的硬直化は大きな問題だ。予算は大きくてもあまりに硬直的で融通がきかず、小さなハイテク企業が付き合いにくい構造となってしまっている。多層的な研究・開発・設計・試験などの旧式モデルが、いまや役に立たない。それが中国共産党に対して長く続いたアメリカの軍事的優位性を損ねることになっている。新しいハイテクを積極的に軍事技術に導入するさまざまな工夫が必要であり、さらにインド太平洋地域の多国間の国際協力による新しい軍事力開発も必要である。
 中国共産党は、我々の自由市場が弱みとみるとともに、アメリカとその同盟国の法によるルールの尊重が相対的な弱みだと考えている。中国共産党は、公正な法を至上とする考え、とくに法の下にすべての人々が公平かつ平等に従わねばならないことが、とうてい受け入れられない。しかし公正な法によるルールこそが、我々にとって基本的な武器なのだ。法によるルールによってこそ、中国のスパイ活動espionageを多くの人々、多くの国々に正当に伝え、公表し、連携して戦うことを可能にする。2019年中国の通信インフラがサイバー攻撃に組み込まれていたことが判明し、経済・安全保障のためにアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、台湾が華為Huaweiのネットワーク機器を締め出すことに合意した。これは、法的規制が重要な役割を果たす例である。
 表現の自由、企業活動の自由、そして法による保護の3つは、相互依存関係にある。これらは3つあわせて中国の産業スパイ行為や経済的攻撃のみならず、中国共産党の批判の抑圧や中国共産党の政策方針への共謀者を増やす企てを打ち負かすのに役立つ競争的優位をもたらす。意思を同じくする国々の国際協力は有効だ。たとえば2019年12月、アメリカとその友好諸国は、中国の12か国に対する20年間におよぶサイバー攻撃を暴いて、それに見合う制裁措置と法的起訴を行った。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(26)

第2部 China
(中国共産党の自由と安全への脅威)
4.Turning Weakness into Strength (弱みを強みに変える)
4.2.アメリカがこれからするべきこと(1)
 中国の実体を正確に把握して、我々の政策を決めることが必要だ。
①中国は、政治も経済も自由化する意志はない。
②中国は、国際的なルールに基づいて行動するつもりはなく、既存の国際的ルールを弱体化し、いずれは自分たちに都合の良いルールに置き換えようとしている。
③中国は、不公正な貿易慣行をともなう経済的攻撃と、産業スパイ活動の展開でグローバル経済のキー・セクターと開発を占有することを組み合わせて前進する戦略を継続するであろう。
④中国の攻撃的な態度は、戦略的に狙った地域の独占的支配を確立するために周到に練られたものである。
⑤アメリカとその同盟国が中国に有効な牽制を行わないと、中国は国家主導経済と専制政治を自由市場経済と民主主義統治に対する代替として、とって替わろうとますます攻撃的になるだろう。
 私は、このときの中国訪問で中国に対する従来のアメリカの理解を根本的に改め、アメリカとその同盟国は、中国に対して受け身のままではいけないとの考えを強くした。中国が変わるだろうとのナルシシズムに、もはや執着することは許されないのだ。
 中国共産党がいくら努力しても、中国は堅固な一枚岩の国家ではないし、今後もそうならない。中国共産党の手が及ばない真に企業的、学術的、宗教的、あるいは社会組織ができて、そこと関わり合える可能性もある。アメリカとその同盟国は、歴史的、文化的、構造的に中国に与えうる影響力には限界があるが、中国共産党の国内への圧政、国外への経済的・軍事的攻撃に対して動きがないわけでも、希望がないわけでもない。1989年の天安門事件、その30年後の香港騒擾、台湾の目覚ましい民主主義の成功などをみると、中国人は文化的に専制統治に指向性があるわけでも、おとなしく基本的な権利を諦めるわけでもないことがわかる。我々には、やるべきこと、やらねばならぬことがある。
 私たちが北京を去る前、長い会議の後に記者会見が行われた。トランプ大統領は、中国の不公正な貿易と経済慣行についてまとめをおこなった。そして習近平主席に向かって「私はあなたを責めるつもりはない。私は、私たち自身を責めている。」と言った。中国共産党が民主主義、自由の価値、そして自由市場経済を傷つけ、国内には圧政を強いることに、アメリカとその同盟国が受け身のままであったことこそが不自然であったと反省する、との意味である。
 ただ中国に対する対抗的行動が、ただちに衝突を導くようにとらえるべきではない。アメリカとその同盟国が有効な対抗手段で臨めば、中国共産党が我々の弱みだと思っていることを我々の強みに変えることができる。さらに、我々の自由でオープンな社会が、専制的で閉じられた社会に対して格段にすぐれていることに自信をもつことさえできる。

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森田洋之『うらやましい孤独死』フォレスト出版

 この著者のメールマガジンを愛読していたのがきっかけで、この本を読んだ。
 著者は、当初大学で経済学を学んだのち、就職先や職業選択に悩み、ふとしたきっかけで医学部に入学し直し、研修医時代の些細な経験から財政破綻都市夕張市に赴任し、そこでのさらに意外な経験からまたも多くの医学部卒業生が進む道とは少し異る鹿児島の医療改革を推進する医師のもとに働き、現在の医療の常識や医学のみでない、より正しい医療の本質を追求するようになり、現在はプライマリーケア、訪問介護などに注力しながら、地方の医療改革を進めている人物である。
 書かれている内容は、すべて著者が実際に体験したことに基づいていて、それらの問題に真剣に取り組んだ結果としての成功や失敗にもとづく論考なので、とても迫力があり、説得力があり、素直に感動できる。
 なにより患者の立場に立った思考、判断、対応こそが医療のあるべき姿であること、人間は他者と関わり合ってこそ幸福感・安心感を獲得し、自分の健康を守れるような存在であること、したがって「孤立」「孤独」こそが医療においてももっとも回避すべきことであること、そのため医学でこれまで正しいと認識されてきた原則を、あくまで患者の安全と健康のためと医学的に理由付けされてきたことを、今一度真摯に見直し、患者よりも人間に素直に対峙する医療に変えていくことが必要であること、をさまざまな実例とともに具体的に解説されている。
 ミッシェル・フーコーなどの「生の哲学」「生命政治」などに通底する重要で重いテーマが、抽象的でなくきわめて具体的にわかり易く説かれているのである。たとえば、病院はすべて公営化が望ましいなど、必ずしも同意しかねる部分もあるものの、述べられている内容はすべて傾聴に値するものである。
 個人的には、すでに老境に差し掛かって、死を身近に考える立場となった私としても、とても心に響く論考である。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(25)

第2部 China
4.Turning Weakness into Strength (弱みを強みに変える)
4.1.あまりに長期にわたったアメリカの戦略的ナルシシズム
 北京滞在2日目、人民大会堂での会議の最後の相手は、首相李国強Li Keqiangであった。中国の首相とは、名目的で実権のない立場である。李国強は、トランプ以下を前に、今や中国はアメリカを凌ぐ先進国になったからもはやアメリカの支援など無用であり、将来のアメリカの役割は中国に原材料とエネルギーを供給する程度のことだ、と滔々としゃべり続けた。意味のない長い弁舌を、トランプ大統領は我慢できる範囲で聞いていたが、ついに中断して謝辞とともに会議の終了を提案した。
 中国の取り込みco-option、強制coercion、隠蔽concealment戦略にもとづく中国共産党の行動は、中国共産党のリーダーたちがいずれルールに則った国際秩序に責任ある行動をするようになるはず、との憶測に明らかな疑義を生ぜしめた。
アメリカは中国に対して戦略的ナルシシズムの呪縛からなかなか脱出できなかった。国共内戦と朝鮮戦争を経て、1970年代の中国はニクソンの提案を喜んで受け入れた。アメリカと中国は共通の敵(ソ連)を見ていた。冷戦下で安全保障補佐官Henry Kissingerが目指す三角外交Triangular Diplomacyは中国にメリットがあった。毛沢東でさえ「敵の敵は友だ」と、アメリカとの結託に積極的であった。しかしソ連の崩壊のあとは、アメリカが中国を変えられる、とのアメリカ側からの希望的観測だけが残った。四半世紀以上にわたるGeorge H.W. Bush(父ブッシュ)からObamaに至る歴代のアメリカ政権は、すべて経済・政治・文化での中国への支援・協力が中国を自由化し専制的支配体制を変えると信じてきた。アメリカの希望的観測が、中国の通商貿易慣行上の不公正、技術の盗みだし、人権問題、漸増する軍事的脅威を、寛容に容認してきたのであった。George H.W. Bushは、天安門事件の直後でさえも「中国であれいかなる独裁政権であれ、民主主義への移行は必然だ」とし、Bill Clintonは国家主導経済がグローバル市場を歪めかねないことを無視して中国のWTO加盟を促し、Obamaは「アジアの転換」あるいは「アジアのリバランス」を唱えて中国との協調を加速し、2012年4月の演説では人権と米軍の存在にかかわるコトバを除外し「中国との安定で建設的な関係を推進する」とのコトバを追加した。 2013年11月、国家安全保障補佐官Susan Riceは「アメリカは米中二大国時代の新しいモデルを実現する」と宣言した。この声明を歓迎した習近平は、直ちに南シナ海に人工島を建設し、東アジアの領海侵犯を推し進めた。ついで中国は、東シナ海上空の日本領の尖閣諸島を含む広範囲にわたり、一方的に防空識別圏air defense identification zoneを宣言した。南シナ海での活動も活発化した。これらの侵略的行動について、習近平は、あくまで海洋の安全確保と自然災害への対応のため、と説明している。
 2015年オバマ大統領は、中国にサイバー犯罪をやめるよう要請した。その年末、ホワイトハウス・ローズガーデンでの共同記者会見で、習近平とオバマは、「両政府は、政府および民間の情報へのサイバー犯罪を意図的に支援することはしないことに合意した」と発表した。しかし早くもその翌日には、中国は大規模なサイバー攻撃を実行してきた。オバマは「弱った脅えた中国の方が、成功した興隆する中国よりも恐ろしい」とさえ言った。しかし中国との競争を避けると、中国共産党はますます増長して攻撃的になり、サイバー攻撃も南シナ海侵略も激しくなった。衛星写真では、南シナ海に中国のレーダー施設とミサイル・シェルターが確認されている。
 これまでのアメリカの間違った希望は、中国共産党に目的を隠しつつ他国を侵略して力で強制する行為を許容してきたのである。オバマだけでなく、それまでの歴代政権の過ちではあるが、私とPottingerはこれで終わりにしなければならないと決意した。いまやアメリカは党派を超えて、冷戦以後で最大の基本政策の転換を果たさなければならないのだ。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(24)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.8.台湾
 中国共産党の支配と国家的復興への執着は、結局は台湾併合へ集結する。台湾は、中国の共産主義革命に敗れた中国の分派だが、1960年代に経済の自由化をはじめ、1980年代に政治改革を経て、今では国民一人当たりの所得が$57,000(中国は$21,000)と、ドイツ、イギリス、そして日本より大きい。同じ中国人の国で、中国と異なり自由・民主主義を実践して、全体規模は小さくとも世界的に稀に見る経済成長を実現し、繁栄している事実そのものが、中国にとって大きな脅威である。中国の全体主義、集権主義、独裁体制による偉大な経済成長とその延長線上のChina Dreamにとって、台湾の成功は許容できないのである。
 中国は、台湾に対して大陸への依存度を増加させることに注力し、2000年までに台湾の輸出先として最大の国になった。台湾が中国への依存度を上げたことで、中国は必要に応じてさまざまな圧力をかけることが可能となった。中国は、経済的関係を武器に圧力をかけることで、ガンビア、パナマ、ドミニカ、エルサルバドル、ブルキナファソに対して、台湾との国交断絶を強いた。2020年の台湾総統選挙は、香港問題もあって、蔡英文Tsai Ing-wenが完勝した。しかしこの結果は、習近平に台湾併合をより急がせることになった。退任期限を大幅に延長した習近平は、自分の任期中に力で台湾併合を実行するかも知れない。中国が台湾海峡を越えて武力侵攻すれば、戦争となる可能性が高い。しかし中国にとって台湾はアジア太平洋地域に覇権するという大目標の最初の着手にすぎないのだろう。

3.9.南シナ海
 すでに1995年、中国はフィリピンのEEZにあるミスチーフ礁mischief reefを占領した。干潮時に浅瀬として海上に出現するサンゴ礁の上に、人工島を構築して自分の領土と主張したのであった。南沙諸島の環礁のひとつで、ベトナムの東、フィリピンの西、ブルネイの北に位置する南シナ海の要衝である。南シナ海は、世界の輸送船の1/3が通行する海運の要であり、中国はここを軍事的に支配することを企てている。2016年ハーグ国際調停裁判所は、中国に正当性がないと裁定したが、中国はここに接近する漁船を軍事的に威嚇し続けている。
 中国は経済力を用いてフィリピンに迫り、ドゥテルテ大統領Rodrigo Duterteはハーグ裁判所の結果を無視する見返りに、$24Bの出資と石油探査で中国と協力することを呑んだ。その後、鉄道、橋梁、工業開発などに拡げて$45Bが中国から供与された。
 中国はすでに、南シナ海周辺から、台湾、東シナ海、日本の尖閣諸島にまで活動範囲を広げている。これはアクセス防止とエリア拒否anti-access and area denialと呼ばれる中国の軍事戦略である。中国は、第二島鎖second island chain、すなわち日本の小笠原諸島、火山諸島、アメリカのマリワナ諸島、グアムを含む広域に軍事力を確立しようとしている。これは中国にとって、台湾戦略のためにも重要なのである。

3.10.中国とロシア
 中国の取り込みco-option、強制coercion、隠蔽concealment戦略は、プーチンの手引き書Putin’s Playbookと同様に、アメリカとその同盟諸国がさきの大戦以来実現している自由でオープンなルールにもとづく秩序を、なんとしても破壊しようとする動きなのである。ロシアのクリミア併合とウクライナ侵攻と、中国の南シナ海略取の試みは、同じ目的・性格の軍事行動である。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(23)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.7.軍事・市民融合Military-Civil Fusion
 軍事・市民融合Military-Civil Fusionは、習近平の全体主義的性格をもっともよく現わしている政策であり、鄧小平の市場主義志向との違いが如実にわかるものである。
 要するに、国営企業であれ民間企業であれ、民間人であれ、すべては中国共産党の目指す方向に一致して行動することが強制されるのである。中国のNational Intelligence LawのArticle7に基づくもので、「中国のすべての組織と市民は、国家の諜報活動を支持し、支援し、協働しなければならない」という規定である。これにより、すべての中国人は常に諜報活動に加担することが求められている、という驚くべき、かつ恐るべき制度なのである。
 たとえば外国に留学している中国人留学生は、すべてスパイであり得る。アメリカの会社に勤務する中国人も同様である。2015年深圳Shenzhenに設立されたChina Radical Innovation100(CRI100)という施設は、「新しい国際協力による革新技術のモデル」と謳っているが、真相は海外で活動してきた帰国中国人が、海外の出先で盗み出した最新情報を集結するところなのだ。
 外国から先端技術分野の人材を招聘して、同様の効果を狙う制度もある。千人計画Thousand Talents Programである。ハーバード大学化学学科のCharlie Lieber教授は、月給$50,000、中国の武漢大学の開発プログラムの特別手当$1.5Mを得て中国で働き、FBIに偽証したことで逮捕された。アメリカのDuke Universityでアメリカ空軍の出資により実施された研究成果が、中国の人民解放軍にわたっていたという事実もある。
 中国のサイバー・スパイあるいはサイバーによる窃盗も猛烈であり、アメリカNSA元長官Gen. Keith Alexanderが「史上最大の富の移動」と言った窃盗も行われた。2016年だけで、$109Bもの窃盗が、サイバー犯罪で中国により行われている。中国人民解放軍は、アメリカやその同盟国から盗み出した技術を、超音速ミサイル、対宇宙衛星兵器、レーザー兵器、艦艇、ステルス戦闘機、電磁レール砲、無人兵器などの先端軍事力に応用している。
 中国は市場として大きいため、アメリカの民間企業に対して市場を餌にして接近することは常套手段である。アメリカの民間企業にとって、中国市場を失うことは避けたいという傾向がある。このため、アメリカ企業から中国への技術流出の抑止は容易ではない。
 中国では、政府や党に対して批判的な発言を、たとえばウエブを通じて発すると、社会信用スコアsocial credit scoreを直ちに下げられる。これは銀行の融資条件、不動産購入、保険の加入・保険料などに直接影響するのみならず、鉄道の切符購入などにまで響く。しかもその本人だけでなく、その家族・親族、さらに交友関係の人々までスコアが切り下げられる。連帯責任制なのだ。これは国民の人間関係まで損なうのはいうまでもない。予防のため、反政府的な友人や身内を内部告発することさえある。社会信用スコアsocial credit scoreとインターネットや広域監視システムとの結合は、強力な組み込みco-optionの武器となっている。
 アメリカやその同盟国のオープンさは、中国にとって付け込み易さにもなる。自由陣営諸国の自由なメディアを使って、中国の耳障りの良いプロパガンダを流して、潜在的な中国の味方・シンパを増やす努力は辛抱強く続けられている。「国際友好姉妹都市」なども同様で、ひそかに中国共産党の基本方針に沿った協約条項を認めさせることが多い。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(22)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.6.中国共産党の拡張志向:「冊封体制tributary system」と3つの基本方針
 中国共産党は、その思想・政治の方針を国内のみならず、周辺国、そして世界に拡げようとしている。中国共産党は、21世紀版の「冊封体制tributary system」を構築しようとしている。中国を宗主とする冊封体制に入れば、従属国は平和に体制内で生存できる、というわけだ。しかし実際に多くの国々が中国の冊封体制に取り込まれたら、それらの国々の自由は無くなり、繁栄は阻害され、安全も脅かされることになろう。中国は、虎視眈々と新しい冊封体制の実現を目指して邁進している。①Made in China 2025、②一帯一路One Belt One Road、③軍事・市民融合Military-Civil Fusionである。
 Made in China 2025は、中国を科学・技術で独立にするプロジェクトで、中国共産党は中国国内にハイテクの独占企業を創設し、外国の企業・組織から知的財産を盗み取り、あるいは移転を強制して奪い取る計画である。そのために国営企業State-owned Enterprises(SOE)と民間企業が協力して、党の計画を遂行する。中国で製品を販売する条件として、技術移転を強制することは常套手段である。これらの企業は、中国共産党ときわめて親しい関係にあることが特徴である。このシステムに乗った外国企業は、ときに短期間に大きな利益を享受する。しかし契約により技術や製造ノウハウを中国側に移転すると、その外国企業は市場シェアを失い、入れ替わって中国側企業が世界市場に出て行くことになる。Made in China 2025は、外国の科学・技術の蓄積を最大限利用して中国を利する手段のひとつである。
 一帯一路One Belt One Road Initiative(OBOR)は、中国の国際的復興China Dreamを達成するという真の目論見を隠しつつ、中国中心の世界をグローバルに構築しようとする動きである。インド太平洋とユーラシア大陸を横断する新しい巨大なインフラストラクチャーを実現するとして、$1T(110兆円)以上の投資を用意するものだ。このイニシアティブは、当初は経済成長を希求し進んだインフラを必要とする関連地域の国々に熱狂的に受け入れられたが、2018年ころまでにそれらの多くの国々にとって、中国共産党の投資が多くのヒモ付きであり、その債権の危険性と不公正に気づくようになった。これは債務国を属国化して中国共産党のもとにMiddle Kingdomを構築しようとする企みなのである。建設された輸送網は、エネルギー原料を中国へ運び、製品を中国から諸国へ運ぶ新しい強力なルートとなって、中国を潤す。この一帯一路OBORこそは、新しい植民地政策であり、冊封国への組み込みと強制をもたらす遠大な計画なのである。実際は債権により相手国を縛り付け、冊封国とするものだが、習近平はそれを隠して「ウインウインの関係」と言いつのっている。実は、中国企業は冊封国から営業利益を得る、中国銀行は高い利息を冊封国から稼ぐ、中国政府は冊封国の経済と外交に強い影響力を獲得するのだから、中国だけの一方的なTriple Winsなのだ。すでにこの「債務の罠」に捕まった国が、スリランカ、モルディブ、ラオス、パキスタン、マレーシアなど33か国にものぼっているのだ。

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H.R.McMaster,"Battlegrounds",2020.9(21)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.5.中国共産党の中央集権主義体制authoritarian system
 組み込みco-opting、強制coercion、隠蔽concealmentを戦略とする中国共産党のもと、中国の中央集権主義体制authoritarian systemは、先ず国内に徹底している。絶対的支配権を確保するため、たとえ国民の生活水準の向上が達成できなくても、党指導部はプロパガンダを強調し、George Orwell ”1984”で想像されたよりはるかに厳重な、かつてない徹底した国民監視システムを実現している。実際に中国共産党は「洗脳brainwashing」というコトバを発明し、1951年周恩来が着手して、文化大革命で完成しているが、21世紀の洗脳は、ハイテクの利用によってアップグレードされている。テレビを完全にコントロールし、党幹部のメッセージを常に流し、またアメリカは中国を押さえつけようとしていると執拗に宣伝している。教育機関・カリキュラム、インターネットも同様である。国民は、全員が常に実名とID番号でログインしてすべてのサービスにアクセス可能となり、国民の行動は党が全面的に掌握している。その上で国民社会保障スコアSocial credit scoreが与えられ、国家の保護やサービスの厳格なランクが決まる。こうして掌握した膨大な国民の個人データは、AIを介して党が全面的に把握し活用する。
 中国のかつての王朝と同様に、とくに国境周辺の人民の掌握、反抗には神経を尖らせている。とくに少数民族やイスラム系の人びとを警戒して、その文化、言語、宗教などのアイデンティティの消滅を図っている。洗脳のための施設もあり100万人以上のウィグル自治区の人々が収容されている。民族浄化もある。これらの人権問題に対する国外からの批判を、中国共産党は否定しているが、証拠は山積している。たとえば2019年11月、中国共産党のメンバーからリークされたとされる400ページ以上にわたる機密記録文書がある。中国共産党がすべての少数民族の反政府活動を殲滅することを命じ、100万人以上の人々を収容所に送り込み、洗脳と文化コントロールを精力的に進めていることが具体的に記されている。習近平の「情け容赦なく少数民族の人口を減らせ」との内々の演説も記されている。最近では香港の問題も発生している。
 中国共産党の中央集権制に反する思想は、宗教に限らずあらゆるものが、たとえば西欧的リベラリズム、個人の人権、言論の自由などが排斥される。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(20)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威
3.4.中国共産党の取り込みco-option、強制coercion、隠蔽concealment戦略
 凄惨な天安門事件は、中国共産党の国民掌握を一層強める結果をもたらし、その教訓を習近平は引き継いでいる。天安門事件は、ソ連の崩壊と同じタイミングでもあった。ソ連では、プーチンとSilovikiは、ゴルバチョフでは弱すぎると見た。ゴルバチョフは、折しも天安門事件の最中に、中国共産党40周年記念の祝賀のために北京を訪れていたが、ゴルバチョフの「すべての人々のためのソビエト」との考えが甘く、それがソ連の崩壊を招いた、と習近平たちも考えた。
 国内に向けては、「チャイナドリーム」と呼ぶスローガンが、これまでにない経済成長と、大国の復興への賛同と、国民の強い掌握(強い支配)をもたらし、また国外に向けては、中国の復興の物語が、中国の経済的、政治的、軍事的影響の急激な拡大を導いた。中国共産党の利益に沿うように中国国民、他国民、そして国際的組織を動かすために、中国共産党は取り込みco-optionと強制coercionを基本戦略としている。競争を回避するために党は意図・真意や行動を隠すことが多い。この取り込み・強制・隠ぺいconcealmentの戦略は、文化的、経済的、技術的、軍事的な努力にまで広範囲に及んでいる。この戦略を有効かつ強力なものとするために、アメリカと自由陣営諸国だけでなく、中国国民までもが中国共産党の野望への潜在的脅威とみすことが、中国共産党の政治・産業・学術・軍事などあらゆる面で、その本性となってしみついている。
 毛沢東以後は、国民を強力に支配するために、中国共産党は経済発展で国民を納得させようと邁進した。鄧小平以後の中国の経済成長は目覚ましく、すでに8億人を貧困から救い上げ、2億人以上の中間階層を生み出した。世界で第2位の経済大国・輸出大国になった。2000年代初めには、世界中のクレーン総数の過半数が、中国の急拡大する都市の高層ビル建設に投入されていた。党の目標は、2010~2020年の間に国民所得を倍増する、というものである。しかしこの成長率は持続できない。それは、中国共産党にとって新たな危機になる可能性が高い。
 1980年代以降、鄧小平たちは市場開放・開発、民営化を軸に高度成長を図ってきたが、習近平は今や、国営企業State-owned Enterprises(SOE)の強化に注力している。それは非効率で腐敗の源泉ともなるが、国民を掌握して党が経済を支配するためにはやむを得ないと考えているようだ。ハイエンドの製造業や急拡大しつつあるグローバル経済の要に食い込むためには、党の強力な指導が必須であると考えている。習近平は「より強い、最適化した、拡大する」国営企業を目指して、鉄道、金属、鉱山、造船、核エネルギーなどにおいて国家で最大の企業を実現するために吸収合併を進めている。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(19)

3.3.革命後の中国と習近平の大転換
 紫禁城ツアーの後、私は皇帝と中国の民衆との関係に思いをはせた。国家的ヒエラルキーと習近平と中国共産党が唱える「中国の夢」、すなわち富裕、総力、社会主義、国家の繁栄との隔たりである。中国は国力が大きくなると、それにつれて指導者の不確実性と恐怖が増大してきた。中国の専制制の歴史をたどると、国の繁栄は人口の増加、政治腐敗の増加、飢饉、反乱、内戦などの災難の組み合わせ、そして政治的な停滞、そして体制崩壊、というサイクルが見られる。
 紫禁城は、中国の復興と世界の中心国家への復帰の自信・確信を示すもののように見えるが、私にはそれは中国共産党の大きな野望とともに、深刻な脅えを現わしていると思える。私は、このときの経験から、ますます至急に、アメリカの対中国政策の基本方針を大転換しなければならないと感じた。
 習近平は、革命前の日本の中国侵略とその残酷さを話し、そこから中国国民を救ったのが中国共産党の革命だと繰り返し主張した。実際には、1949年革命のあと1976年に毛沢東が死ぬまでの間に、まちがった政治のために人為的な飢饉や政治的弾圧によって数千万人の国民を死なせたのであった。
 Henry KissingerがNixon大統領の突然の米中合意を導いてから6年後に、鄧小平Deng Xiaopingは毛沢東の跡を継ぐことに成功し、1978年から1989年まで、経済成長、政治の安定化、教育改革、そして現実的な外交に注力し、毛沢東の死後5年の1981年には中国共産党として、文化大革命は重大な失敗で深刻な損害を与えた、と声明した。この後、後継者たちも毛沢東主義を否定した。
 しかし2012年習近平がトップに座ると、毛沢東の評価を変更して「3段階の進歩」として、①毛沢東が「屈辱の世紀を克服」し、②鄧小平とその後継者たちが経済的豊かさをもたらし、③習近平が中国を偉大な国家に復興する、と唱え始めた。習近平は、毛沢東を独裁者ではなく救世主としたのである。
 習近平は、実は文化大革命で親族を殺され、自分も強制労働や拷問を受けるなど、酷い目に逢ったのだが、戦略的に毛沢東を批難することを避け通した。中国共産党の間違いを公認することは、自分の独裁の地盤である党の信頼を傷つけ、結局自分の基本的立場が危うくなることを考慮しての、周到な行動なのである。
 しかし歴史を修正しようとすると、習近平は従来以上に検閲の強化とナショナリズムの教育が必要になる。鄧小平の改革は、富をもたらしたが、同時にイデオロギーの分裂を招いた。鄧小平の「まず人民を豊かにする」「豊かになることは良いことだ」との発言以来、正統的共産主義と高度にグローバル化した経済との矛盾は、かつてない大きなものとなった。さらに、独裁制の下での資本主義は、腐敗とブルジョアを拡大・量産した。習近平は2012年に主導権を掌握すると、中国共産党のイデオロギーを再興し、強烈な愛国主義と国家的運命の修辞rhetoricを主唱した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(18)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):
The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security
(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.2.習近平の野望
 習近平は、北京会談においても、歴史を選択的に最大限利用した。もちろん都合の良い部分を取り入れ、都合の悪い部分を排除して。習近平のこの態度から、彼と中国共産党の情熱と世界観と目標がよくわかる。紫禁城・人民大会堂・天安門広場の3つの場所を、我々に案内することで、中国の偉大さを誇示するとともに、彼らの意思を示したのだ。
 この3カ所訪問のとき、Matt Pottingerは、彼らにより同行を許されなかった。Matt Pottingerは、中国について知りすぎていたのである。習近平が伝えたかったことは、中国の偉大なる復興great rejuvenation of the Chinese nationである。紫禁城は、歴史的展望として「世界を従えて人類に偉大な貢献を果たしその中心となる」という意思を表現するのに絶好の場所である。かつて中国が政治的にも経済的にも世界の中心であった証拠であるこの場所を、再び構築するとの意思表示である。
 この紫禁城を建立した明帝国は、中国の全盛期のひとつとされ、航海士であった鄭和 Zheng Heは、コロンブスより半世紀前に7回の大航海で西太平洋とインド洋を制覇したという。彼の「宝の船」は、世界最大の木造船であり、彼らが知るかぎりの国々から献上品を持ち帰ったとされる。習近平は、その後の19世紀、20世紀が中国にとって異常な悪夢のような暗黒時代であったとする。ヨーロッパ諸国や日本の侵略を受けたのだ。そしてアメリカは世界を軍事的・経済的に圧倒した。中国が訴えようとしたのは、本来あるべき秩序の復興だというのだ。紫禁城は、外国人が中華皇帝の前にひれ伏し、献納物を差し出すべき場所なのだ。習近平は、訪問者に中国の優越性を認めさせ、中国の指導者が世界を支配することは当然で避けられないと思わせようとしていた。2008年の北京オリンピック開幕式からはじまった中国の復権の輝かしい宣言のための儀式として、アメリカ大統領夫妻を紫禁城に招待したのであった。これらは、アメリカ大統領とその一行のみならず、中国国民に対するプレゼンテーションでもあった。アメリカ大統領が献納物を持って参上しているかのように。それは、国内統治のためにも必須であった。
 この映像は中国国内と世界中に放送され、中国の自信を表現したが、半面ではそれは重大な危機の現れでもあった。独裁体制は、腐敗と反乱の源でもある。歴史的にも、中国歴代の専制国家は、常に内部の反乱と外部からの侵攻の的であった。このあと数か月の後、習近平は彼の支配が永久的になるよう制度を変えた。
 紫禁城は、建物の構造からして独裁者のためのものである。何重もの壁のなかに何重もの護衛兵が配置され、その奥深く玉座がある。独裁者は、ここで恐怖と心配を前提として決断をするのだ。私は、紫禁城の豪華さと、そこに住む支配者たちの脅えとの著しいコントラストを思わずにはいられなかった。
 我々は紫禁城のなかを歩き進みながら、習近平主席がますます強くなる大中国の変わることなき強き支配者を演じて、自信に満ちて見えることがわかる。しかしそれは張子の虎であり、その裏に深い憂慮と狂暴な圧政を隠しているのである。

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コロナ騒動と「不要不急」

 ゴールデンウイークの直前に第3回目の緊急事態宣言が出て、「不要不急の外出は、控えるようにしてください」との由である。指示あるいは要請の内容が曖昧だとの批判もあるようだが、それはさておき、この「不要不急」というコトバが多少気になって、少し書き降ろしてみる。
 「不要不急」とは、普通に考えて、無くてもすぐに困らないこと、とくに急いで行う必要が無いこと、というくらいの意味だと思える。私自身は70歳を過ぎた隠居老人であり、生活のための生業は引退しており、子育ての時期をも過ぎているので、ごく一部のパートタイム的な仕事を除いては、社会や身の回りの人びとに対して深刻な責任がない。したがって私の存在そのものが「不要不急」と言えそうである。平凡な老人にもそれぞれ個人的にはしたいこと、行きたいところはあるのだが、「不要不急か否か」と詰問されたら、大部分のことは不要不急ということになってしまうだろう。
 そうであるにしても、である。われわれ市井の凡人は老人に限らず、日常のかなりの部分を「不要不急」の事象に費やし、さらにそこから楽しみ、癒し、安らぎ、もっと大げさに言うなら生き甲斐を感じて生きているのではないだろうか。多少大げさかも知れないが、そういった「不要不急の事象」こそが、文化を養い、先進国らしい材料を提供し、健康で文化的な人間らしい生活を実現しているのだと思う。
 だいぶ前に、あるテレビ番組で「老後は、キョウイクとキョウヨウが大切。今日行くところがある、今日用がある、ということこそが大切」というのを聞いた。老人も、いろいろ行きたいし、用事をしてみたい。それは、むしろとても大切だという見解もあるのだ。
 そして現実の国家の経済構造も、いわゆる第三次産業がスケールアップしており、そのかなりの範囲がひとびとの不要不急の行動で支えられている。「不要不急」とはいえ、「不必要」とは断じがたいものが多いのである。
 そうは言うものの、コロナウイルス感染者が増加し、医療体制が崩壊することは望ましくないので、要請に応じて自分の行いはできるだけ慎みたいとは思う。
 そうであるにしても、である。コトバ尻を捉えたいわけではないが、「不要不急」をキーワードにする限り、私にはやはりオリンピック実施断行というのが、率直に抵抗を感じる。オリンピックは魅力に満ちた世界的行事であり、青少年の健康な成長にも良い影響が多々あり、本来は経済的効果も大きなものが期待できる。なによりオリンピックを目指して、人生の貴重な時間を捧げてきた選手たちがたくさん存在する。少し前に、こんなときはオリンピックなど中止にした方が良いのではないか、と何気なくある知人に話したら、その人はオリンピック強化選手に関わりがあり「とんでもない発言」と厳しく叱られた。それでも「不要不急か否か」、と詰問されたら、やはり「断じて不要不急ではない」とは言えないだろう。オリンピック実施を重視する人たちの気持ちも、私はよく理解できるつもりだが、やはり他の「不要不急」の多くの事象と比較して、オリンピックがそうでないとは言えないと思う。
 私個人の見解としては、コロナ騒動についての多くの無責任なメディアの姿勢に大いに疑問と不満と反感があり、率直に言って思い付きが多くて偏向していて、騒ぎすぎ、煽りすぎだと思っている。政府や自治体の「不要不急」発言も、精一杯の協力要請の表現であることは理解できるし、できるだけ協力するつもりである。それでも、個人的には思うところが残るのである。

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コロナ騒動とワクチン

 新型コロナウイルス肺炎の流行が収まらず、最近はメディアで、ワクチンこそが最後の救いだと、藁にも縋るかのように、まるで「ワクチン大魔神」「ワクチン一神教」の出現のような大騒ぎである。なぜ日本で良いワクチンが開発されていないのか、なぜ早急にワクチン接種が進まないのか、など例によって政府や自治体をなんとかして攻撃したいメディアからの、思いつきの無責任な発言が多い。
 いつからわが国の世論が「ワクチンこそ救世主」というムードになったのだろうか。これまでわが国では、ワクチンの副作用(正しくは「副反応」というらしい)こそがメディアが好む大騒ぎとなり、ポリオ、インフルエンザ、さらに比較的最近では子宮頸がんのワクチンが、いずれも副反応で大きな話題となった。実際に開発した製薬会社や許認可した政府が、法廷闘争で敗訴を重ねた。子宮頸がんワクチンの場合は、長年の開発、疫学的検証を経て、政府も予算化を達成し、無償で希望者全員に接種できる体制を確立したのに、副反応が発生したと煽り立てる(直接の死亡例はないようだが)メディアの貢献で、現在は実質的に接種体制が機能していない。
 他の薬品も基本的・定性的には同様だが、ワクチンにも効用=罹患・病状抑止効果=メリットとともに、かならず危険性=副反応=デメリットがある。かならずリスクがあるのだ。厳密には副反応のないワクチンはないのである。したがって接種するか否かは、病気の罹患を防ぐメリットと、副反応に苦しむデメリットとのバランスで判断するしかない。
 子宮頸がんは、ずっと継続して毎年1万人近い罹患者があり、そのうち毎年3,000人近い死亡者が発生している。罹患したときの死亡率は、コロナウイルス肺炎の日本の実績1.7%と比較してはるかに危険といえるのに、死者の累積絶対数もコロナウイルス肺炎の死者数よりずっと多いのに、なぜかメディアではそれは話題にならない。
 わが国の場合、新型コロナウイルス肺炎の罹患率(本来は発症したもののみで定義するため、ここでは正しくは「検査陽性者の比率」だが)は全国で平均すると0.5%である。いま政府が主に使用する予定のm-RNA型ワクチンは疫学的データとして抑制効果が90%以上とされており、ワクチン接種で罹患率は約1桁改善が期待でき、0.05%程度まで押し下げることが期待できるだろう。しかし一方でワクチンの副反応が出現するだろう。この比率はまだわかっていないが、子宮頸がんワクチンの悲観的(悪いケース)な値0.1%を想定するなら、ワクチン接種件数の0.1%、すなわちワクチンが効いて押し下げられた新型コロナウイルス肺炎の罹患者の2倍程度の比率で副反応患者が出るということになる。
 このバランスを冷静に考えるなら、日本の現状が、メディアが朝から晩まで騒ぎ立てるにも関わらず、幸いにして罹患者がごく少ないので、ワクチン接種を躊躇うひとがいるのも当然である。これに対してヨーロッパ諸国、アメリカ、インドなどの場合は、桁違いに罹患者数が多い、つまり罹患率が大きいので、ワクチンの副反応のリスクを罹患抑止効果が大きく上回ることが期待できるので、人々がワクチン接種に殺到するのも当然なのである。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(17)

第2部 China
3.An Obsession with Control(支配への強迫観念):The Chinese Communist Party’s Threat to Freedom and Security(中国共産党の自由と安全への脅威)
3.1.緊急を要する対中国政策
 2017年11月8日、私は初めて中国を訪問する機会を得た。トランプ大統領一行に随行したのである。その約9か月まえに私は補佐官に就任したのだが、そのときすでに中国問題はアメリカ政府の最優先課題であり、トランプ政権としても最重要テーマであった。
 そのころ中国は、日本の安倍首相がトランプ大統領就任の3週間後に訪問して大成功したのを見て、熱心にトランプ─習会談を求めていた。オバマがトランプに最大の緊急的大問題として引き継いだ北朝鮮の核・ミサイル問題を中国は計算に入れていて、北朝鮮に米中としてどのように対処すべきかが話題となるとみていた。
 1978年、中国は市場経済導入と解放路線を宣言し、アメリカとその同盟国は中国が経済発展したら、自由化し、オープンで国際法に沿った経済活動と政治的行動をするものと期待していた。そのため、アメリカと同盟国は、中国を経済的にも外交的にも懸命に支援し続けた。しかし40年近く経って、その期待は裏切られ、中国は独裁体制で閉鎖的な大国として、友好的な国ではなく、自由でオープンな国家・社会に対する重大な脅威に成長した。しかも、中国は自由陣営を利用して食いつぶして成長することを図り、中国中心のグローバルな国際関係・経済関係の構築をめざしている。アメリカにとっても、対中国政策転換の必要性は、近年のアメリカの歴史でも稀有な規模の重大な問題である。
 私自身は、これまで大部分のキャリアーをヨーロッパと中東に過ごしてきて、中国については知識が乏しい。そこで私は、NSCアジア担当シニアディレクターMatt Pottingerから多くを得ている。彼は、アメリカで学んだ後、北京と台湾に留学し、中国史、中国文学を学び、中国語に堪能な人材である。すでに中国を対象とするジャーナリストとして、Wall Street Journalなどで8年間の経験がある。そしてその能力を私の前任者であったMichael Flynnが見出し抜擢したのであった。
 2017年4月のMar-Largo Summitのときは、主なテーマは米中間の貿易・通商での中国側の不正をただすことであった。会談は不快なものとはならなかったが、中国はこれらのアメリカの指摘、要請は織り込み済みで、かつ対応しなくともアメリカが報復措置をしてくるとは考えていなかったようだ。
 しかし、その7か月後に我々が北京に着陸したときは、中国側では新しい方針が確立していた。中国は、もはやアメリカから支援を受けて成長するのでなく、アメリカと競争することを明確に示した。さらにアメリカは、中国共産党の方針の裏にあるイデオロギー、感情、野心の大きさを正しく把握できていなかったために、競争に敗北する懸念があった。1990年代以降のアメリカの中国政策は、ことごとく戦略的ナルシシズムstrategic narcissism、すなわち希望的観測・思い込みであった。中国が、アメリカの期待の通りにしてくれるとの甘い見込みであった。中国は、アメリカの支援を利用して、意図を隠しつつ国内への圧政を強化した。北京でのたった2日の滞在で、私は事態が緊急を要することをますます確信した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(16)

2.Parrying Putin’s Playbook
2.6.我々がするべきこと
 ロシアの弱点のひとつは、ロシア経済の過度のエネルギー資源への依存である。ドイツをはじめEUがロシアのエネルギー資源に依存し過ぎないことが、安全保障の面からも重要である。
 プーチンは2020年憲法を変更し、さらに政権人事を更新して、長期にわたる権力維持を着々と図っているが、アメリカと自由陣営にとって大切なことは、プーチン以後のロシアを真剣に考えるということである。いずれにしろ、新ロシアもソ連崩壊、力による国境変更、政治・経済体制の強引な変更などを経て、混沌とした背景を背負った国家である。前国務長官コンドリーサ・ライスが言った通り「too much to overcome」の国である。ロシアの変化に対して西側諸国が与えうる影響力は、けして大きなものとはならないが、どのように支えるかを準備しておくことは意味がある。ロシアの失敗から、ヒントがある。ポスト・プーチン政権に3つの可能性がある。①力による抑圧、②大改革、そして③そのいずれかの不徹底である。
 西側としては、ポスト・プーチンのロシアが、平和と繁栄を目指してユーラシアの安全保障のために歓迎されることを目指すようにアプローチしたい。ロシア人が特殊でそのDNAが民主主義や開かれた社会を先天的に受け付けない、ということではない。我々自由陣営は、つねにロシアに対してオープンであり続ける努力は重要である。たとえばフルブライト奨学金のような形で、多くのロシア人に我々の自由や開かれた社会を経験から理解してもらうことも意義が大きい。
 我々は、ロシアに対してオープンであり続ける姿勢は大切だが、あわせてロシアが引き続き敵対的な攻撃をしかけ、自由社会を破壊しようとする可能性をも考慮して、それらの攻撃を抑止する努力の継続が必要だ。ポスト・プーチンがいかなるものであろうと、ロシアにとってこれ以上の拡張工作や破壊行為は、これからますますロシアにとって割に合わない高いコストを要するものなることを、ロシアが思い知るようにしなければならない。


2.7.ロシアと中国の連携
 近年になって、ロシアのプーチンと中国の習近平は、たがいに戦略的パートナーだと宣言するようになった。二つの専制国家は、連携してさきの大戦後の世界的な政治・経済・安全保障の秩序を壊そうとしている。
 2017年にバルト海で実行された中露合同軍事演習が、この新しい連携関係の宣言であった。2018年には、中国ははじめてシベリアでの合同軍事演習に参加した。2019年には、その合同軍事演習にインドとパキスタンが招待された。同じ年には、中露の数百機の軍用機が、バルト海から日本海にわたる広範囲の軍事的領空権を侵害した。2019年6月23日、中露の爆撃機が韓国と日本の領空を侵犯し、日本と韓国の軍用機が出動を余儀なくされた。2019年12月、イラン軍艦が中露軍艦隊に加わって、インド洋とオマーン湾に侵入した。
 中露間の貿易も急激に増加している。2016年$69.6Bが2018年には$107.1Bとなり、かつ決済は米ドルを避けて自国通貨としている。
 プーチンと習は、専制国家のリーダー同志として、自由とオーブンな国家をなんとしても弱体化したい、という宿命的意志を共有している。プーチンの自由陣営への攻撃は、危険ではあるが、その悪質さ、大きさ、さらに複雑さからすると、中国の危険性の方がはるかに大きい。

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