H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(29)
第3部 South Asia
5.A One-Year War Twenty Times Over: America’s South Asian Fantasy
(1年の戦争を20回以上: アメリカが抱く南アジアの幻想)
5.1.南アジアの苦悩とアフガンの悲劇
2017年2月、私はホワイトハウスに初めて入ったが、30年前のウエストポイントの学生時代にベトナムについて議論したくなかったことを思い出しつつ、アフガニスタンの議論に乗り気になれなかった。アフガニスタンに自立した責任を持ち得る政府がないのは、アメリカが長すぎる戦争に興味を失ってしまった結果である。今では、この遠くて山と岩だらけのアフガニスタンで、アメリカ兵がいま何をしているかさえ、ほとんどのアメリカ人は知らない。アフガニスタンから撤退すべきと考える人は、トランプに撤退以外の提案をしないし、引き続きアフガニスタンへの関与が必要と考える人は、なにか言うとトランプが即時撤退を命じてしなわないかと恐れて、やはり言わない。この16年間続くアフガニスタンの戦争に対して、大統領に戦争のリーダーシップを発揮してもらうためには、なにより先ず南アジア全体を包括する戦略を考えた上で提案する必要がある。
この南アジアには、インドとパキスタンという2つの核保有国があり、たがいに敵対している。インドは世界最大の民主主義国であり、大きな可能性を持つのだが、インドとパキスタンの敵対関係もあって、経済的には世界的に最もうまく行っていない地域である。アフガニスタンには、20もの外国人テロリスト・グループがある。南アジアは、大きな潜在能力と、深刻な危険と、アメリカの安全保障と繁栄に関わる重大な問題を抱えている。
何十年にもわたる戦争で、アフガンの社会は疲弊している。アメリカの政治家も戦略家も、アメリカがアフガニスタンの国家をいかに分裂させ弱体化させてきたかをよく理解していない。2001年アメリカ軍とNATO軍がタリバーン政権を制圧・追放した後、タリバーンの残党、その後ろのアルカーイダ、新しいテロリスト・グループたちとその支援勢力、そしてパキスタン軍などで複雑な紛争が発生した。皮肉なことに、短い戦争のイメージが心理的に定着するとともに、紛争は全体として長引いて、20年近くが経過した。アメリカもその同盟軍も20年間の戦争を経験したのではなかったが、1年の戦争を20回以上にわたって戦ったのであった。
2017年までにアフガン戦争は、まるで墜落した無人機のように、誰も関心を払わない見捨てられた戦争となった。何年にもおよぶ方針の不統一と効率のわるい戦術でアメリカ軍が弱体化する一方、タリバーン、アルカーイダさらに他のテロリスト・グループたちが、パキスタンの後方支援もあって勢力を復活してきた。私は、最大の問題は有効な戦略の欠如であり、倫理の欠落であると考えている。

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