コロナ騒動とワクチン
新型コロナウイルス肺炎の流行が収まらず、最近はメディアで、ワクチンこそが最後の救いだと、藁にも縋るかのように、まるで「ワクチン大魔神」「ワクチン一神教」の出現のような大騒ぎである。なぜ日本で良いワクチンが開発されていないのか、なぜ早急にワクチン接種が進まないのか、など例によって政府や自治体をなんとかして攻撃したいメディアからの、思いつきの無責任な発言が多い。
いつからわが国の世論が「ワクチンこそ救世主」というムードになったのだろうか。これまでわが国では、ワクチンの副作用(正しくは「副反応」というらしい)こそがメディアが好む大騒ぎとなり、ポリオ、インフルエンザ、さらに比較的最近では子宮頸がんのワクチンが、いずれも副反応で大きな話題となった。実際に開発した製薬会社や許認可した政府が、法廷闘争で敗訴を重ねた。子宮頸がんワクチンの場合は、長年の開発、疫学的検証を経て、政府も予算化を達成し、無償で希望者全員に接種できる体制を確立したのに、副反応が発生したと煽り立てる(直接の死亡例はないようだが)メディアの貢献で、現在は実質的に接種体制が機能していない。
他の薬品も基本的・定性的には同様だが、ワクチンにも効用=罹患・病状抑止効果=メリットとともに、かならず危険性=副反応=デメリットがある。かならずリスクがあるのだ。厳密には副反応のないワクチンはないのである。したがって接種するか否かは、病気の罹患を防ぐメリットと、副反応に苦しむデメリットとのバランスで判断するしかない。
子宮頸がんは、ずっと継続して毎年1万人近い罹患者があり、そのうち毎年3,000人近い死亡者が発生している。罹患したときの死亡率は、コロナウイルス肺炎の日本の実績1.7%と比較してはるかに危険といえるのに、死者の累積絶対数もコロナウイルス肺炎の死者数よりずっと多いのに、なぜかメディアではそれは話題にならない。
わが国の場合、新型コロナウイルス肺炎の罹患率(本来は発症したもののみで定義するため、ここでは正しくは「検査陽性者の比率」だが)は全国で平均すると0.5%である。いま政府が主に使用する予定のm-RNA型ワクチンは疫学的データとして抑制効果が90%以上とされており、ワクチン接種で罹患率は約1桁改善が期待でき、0.05%程度まで押し下げることが期待できるだろう。しかし一方でワクチンの副反応が出現するだろう。この比率はまだわかっていないが、子宮頸がんワクチンの悲観的(悪いケース)な値0.1%を想定するなら、ワクチン接種件数の0.1%、すなわちワクチンが効いて押し下げられた新型コロナウイルス肺炎の罹患者の2倍程度の比率で副反応患者が出るということになる。
このバランスを冷静に考えるなら、日本の現状が、メディアが朝から晩まで騒ぎ立てるにも関わらず、幸いにして罹患者がごく少ないので、ワクチン接種を躊躇うひとがいるのも当然である。これに対してヨーロッパ諸国、アメリカ、インドなどの場合は、桁違いに罹患者数が多い、つまり罹患率が大きいので、ワクチンの副反応のリスクを罹患抑止効果が大きく上回ることが期待できるので、人々がワクチン接種に殺到するのも当然なのである。
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