H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(43)
第3部 South Asia
6.Fighting for Peace(平和を求める闘い)
6.10. 2017年4月南アジア歴訪のまとめ
私は、今回の外遊の宿題事項への解答を下記にまとめた。
①狭義のテロ対策の戦略は、アフガニスタンの安全が保障できない限り無意味である。アフガンの人々は大変な闘いを続けている。アフガニスタン国家は、タリバーンの再生に対してより強化し、体制転覆、麻薬組織、国をまたがる犯罪組織の連鎖に有効に対抗できなければならない。
②タリバーン、アルカーイダ、その他のテロリスト・グループたちは、相互に密接な関係にあり、切り離すことはできない。
③タリバーンは、信頼して交渉できる相手ではない。とくにアメリが撤退することを知れば、ますます自信を強めて攻勢にでる相手である。
④パキスタンは、タリバーンやハッカニー・グループ、他のテロリスト・グループへの支援をやめる、あるいは大幅に減らすことは期待できない。
6.11.南アジア歴訪から帰国とトランプ大統領の南アジア政策表明
戦争で死んだ、あるいは負傷した兵士やその家族に同情を表明しながら、その一方で方向性のない戦争を継続するというのは、この上ない皮肉cynicismである。私が2017年4月20日に南アジアから帰国してから、トランプ大統領が2017年8月21日、キャンプデーヴィッドで南アジアに対する方針を演説するまで、予想以上に長時間を要した。その間、アフガニスタンの北バルク地区だけで、タリバーンや自殺テロリストが140人以上を殺戮し160人以上を負傷させていた。5月31日、ハッカニー・グループがカブールを襲撃し、150人を殺し、400人以上を負傷させた。
トランプ大統領は、以下のように方針を説明した。
アフガニスタンの戦争について、国民は長い期間にわたる勝利のない戦いに、本能的に嫌になっている。しかしISIS、アルカーイダ、その他アメリカが知る20のテロリスト・グループが強勢となるなか、期が熟さない撤退が危険であることを述べ、また南アジアには核兵器の存在も懸念事項であることを述べた。パキスタンがテロリスト・グループを否定しながら、密かに支援し、その安息地を与える矛盾した政策をとっていることを指摘した。そして、テロリストが領土を支配することを否定し、資金の流入を切り、イデオロギー的支援からも孤立させる方針であることを明言した。新しい方針は、意思の闘いであり、アメリカを脅かす組織を打ち負かすことを目的とする。時間を限らず、またタリバーンとは交渉しない。アメリカ大統領として、アフガンが自らの国とその将来を所有し責任を持ち、その社会を統治し、永続する平和を達成するように、アフガニスタン政府とその軍への支援を約束する。国力を外交、経済、軍事のすべてにおいて育むべきことが強調された。
16年間の戦争を経て、トランプ大統領は、はじめてアメリカの現実的で持続可能な戦略を提示したのである。
しかしながら、恐れていたとおり、これは長続きしなかったのだ。アフガニスタンでの長い戦争に非常に懐疑的な人々がトランプ大統領に、戦争から早く引き揚げるよう説得したのだ。私が2018年ホワイトハウスから離れてすぐ、戦争の本質を理解できず、脅威を過小評価し、「永遠の戦争」をイデオロギー的に嫌う人たちが、持続的で維持できるアフガニスタンでの軍事的努力を無益で無駄なものと決めつけて、トランプ大統領を説き伏せたのであった。
2019年6月、パキスタンの首相になったImran Khanがワシントンを訪れてトランプ大統領に会談した。明らかに反米的な、軍に据えられた名前だけの首相だ。トランプ大統領は、公式の場でこのKhanに、戦争を終わらせるように頼んだ。これはテロ対策でアメリカに協力するポーズを取るだけのパキスタンに、アメリカのリーダーが屈したように見えてしまった。その上さらに、トランプはパキスタンとインドのカシミール問題を調停するとまで言って、Khanにボーナスを贈ったのだ。インドのモディ首相から頼まれたとまで言った。しかし、かつて国連がイニシアティブをとったカシミール問題の処理がインドに利益がなかったために、インドは長らく外部の仲介を嫌っていて、インドの首相が到底そんなことを言うわけがないことを、南アジア情勢を知る誰もが知っていた。パキスタンはインドの領有が少しでも弱まることを願うが、インドはカシミールに関する限り徹底して現状維持派なのだ。この会談は、Khanにとって、まったく予想以上の成果だったろう。パキスタンは、アフガンと南アジアでマッチ・ポンプにまたも成功したのだ。
Khanが帰国したのちも、トランプは間違った理解に耽ってしまい、「私は1週間で戦争に勝てる。一千万人ものひとたちを殺すのを望まないだけだ。」と言った。彼の発言は、アフガニスタンとパキスタンの闘争の本質への誤解を吐露している。アメリカと同盟諸国は、アフガンを、恐怖と狂暴で残酷な支配を企てるテロ勢力から護るために、そんなテロ勢力の復活を抑えるために戦ってきたのだ。アフガンのみならず、南アジア全域、さらに中東までの広範囲が、タリバーンなどジハード主義テロリスト・グループの被害者となっている。残念なことにこの大統領の発言は、58,000人のアフガン兵士と警察官たちが国と社会と家族を護るために死んだことだけでなく、その戦争で死んだ2,300人のアメリカ軍人たちの犠牲までも貶めている。アフガニスタンを維持しようとする意志の喪失は、現地から撤退する決定の合理化を導き、アメリカの戦略の傷と矛盾をほとんど全くの最初からやり直させるものである。2019年には、アメリカはタリバーンと平和交渉さえ始めているのだ。そして悲しいことに、まったく先の見えないアフガニスタンで、2001年のアメリカ同時多発テロ事件時にはまだ生まれていなかった若者を含むアメリカ兵士が、今でも戦っている。

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