鈴木涼美『ニッポンのおじさん』
人間関係は多面的・多角的に観ないとダメ
私は「おじさん」というのも最早いささか憚られる後期高齢者予備軍の「じいさん」だが、最近の趣味のひとつとしてたまにカラオケに行く。するといわゆる演歌と呼ばれる歌に多いのだが、歌詞が到底現実味のないような歌が結構あるのに気付いた。ひとことで言えば、男の作詞家のまったく勝手な妄想だろうと、私ですら思ってしまうような歌詞が意外に多いのである。そんなに男に恋焦がれて、男のことばかり考えて生きてくれるような、男にとって都合の良い女は実在しないだろう。この本を読んで、最初に連想したのが、このカラオケでの感想であった。
著者は、題材として著名人のなかから25人余りの中年あるいは初老の男性を取りあげて、その言動に対して世の一般的な批評や反応に対して異議を申し立てる。もっと違う視角があるじゃないか、というものである。批判の前提として、「おじさん」連中こそが現代の日本に蔓延る「価値観」を形成し、独占し、他の立場、とりわけ女性たちを不当に処断している、悪の源泉だ、というのである。カラオケで聴く男と女の捉え方も、それに通じる。男の女に対する見方に、女性からみたとき大きな違和感があろうことは、私にも理解できるところが多々ある。著者は、普通のフェミニズムとは少し違う観点から、世間的・通俗的な社会常識、心理認識、そして道徳やマナーでは把握できない人間の繊細な機微を訴える。偏見を捨ててもっと事態の裏側に注目せよ、と説くが、要するにもっとさまざまな側面を考えよ、との指摘だと理解する。とくにセクハラなどを含めて、性的な感情、性愛に通じる価値観にまで鋭く言及する。
この著者の政治に対する見方や感覚は、ほぼ安易な体制批判派の学者やメディアの水準を出ずほとんど共感・理解ができないが、他の批評にかんしては、たしかにタブーとされてきた範囲も含めて、私たちももっと多面的に考えた方が良いと気づかされることが多々あった。
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コメント
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こんばんは。
鈴木涼美なる女は記事で初めて知りましたが、検索したらかなり香ばしい経歴の持ち主ですね。
同性から見てもAV女優上がりの際物作家にしか思えません。
経歴ゆえにタブーに切り込めるのでしょうけど、これもフェミニストの変種に見えます。
そもそも、おじさん連中を悪の源泉と断言するだけで、繊細な機微が感じられません。
総じて日本のおじさんは女に甘いので、付け入っているのです。
投稿: mugi | 2021年7月 7日 (水) 22時27分