パレルモの挑戦
1969年の作品に「無題(布絵画:緑/青)」というのがある。一見、マーク・レスコーの作品などに似通っているように見えたが、よくみるとことは既製商品として販売されている染色された布地2枚を、白色の布地の上に貼り付けただけの、制作過程からいえばレディメードの一種と言える。「布絵画」と名付けられたこの作品は、色彩の選択と絶妙な組み合わせで、独特の静謐かつ上品な抽象表現を達成しており、彫刻家ウルリッヒ・リュックリームは「布絵画はまったく愉快な作品だよ、何といっても絵具も絵筆も使わずに、絵画をご破算にしてしまったのだから」と高く評価したという。
「青い三角形」(1969)という作品がある。この群青色で底辺に比べて少し高さを抑えた三角形は、パレルモがさまざまな作品でモチーフとしているそうだ。この「独自の」三角形を、誰もが購入しさえすれば自分で描けるように、三角形の型のステンシルと、絵の具と、筆と、さらにパレルモ自身がそのステンシルを使って制作した青い三角形のシートとをセットにした制作キットが、ひとつの作品となっている。これには注意書が添付されていて、この描画セットを使って自分の三角形を制作したら、使用者はただちにパレルモから与えられた三角形の原型を破棄しなければならない、と書いてある。こうしてパレルモの青い三角形は、購入者の数以上には増えてしまわないようになっている。
1977年の作品に「無題」として、アルミ板の上に、黒いラインの枠と、黄色のアクリル絵具でかなり荒っぽく塗った4枚を並べたものがある。パレルモ自身は、この出来栄えにとても満足していたらしく、友人にその率直な満足感を興奮して伝えていたという。金属板の上に描くということ、そしてとくにこの作品の場合、大きな白い壁を背景とすることが大きなポイントであったのだろう、となんとなく思う。

気軽にちょっと観て、適当なところで終わりにすればよい、と軽く考えていたのだったが、見つめても、改めて眺め直しても、わからないことだらけで、ところが不思議に退屈一辺倒とはならず、ついつい深入りして眺め続け、思案し続けることとなり、時間の経つのを忘れていたようだ。ようやく展覧会の終わりに近づいたかなと思ったら、突然場内アナウンスがあり、あと15分で展示を終了して閉館となります、と知らされ、慌ただしく最後の展示コーナーを駆け足で観て、短い秋の日がとっぷり暮れてから美術館を後にすることになった。
今回の展示は、正直なところあまりわからなくて、いつもは観るのにすっかりくたびれても満足感に満たされて帰ることが多いのに、この度はとても満足感などなく、頭のなかにクエスチョン・マークがいくつもならんだまま会場を出ることとなった。でもその反面で、不思議にわからないものを見続けながら、とりとめもなく観たり考たりしていると、その間他のことは一切忘れて、不思議な「気持ちの集中」があったようにも思う。作家の真摯な創作が、私にも自覚できないような不思議な魅力を持ちえたのだろうか。あるいは、それこそが作家の目論みだったのだろうか。島敦彦館長がいうごとく、分からないままに余韻を残して帰るのも、もしかしたら次の新しい発見の準備なのかも知れないと、ごくかすかにではあるけれども、思えた。
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