「大阪の日本画」展 中之島美術館(9)
第六章 新しい表現の探索と女性画家の飛躍(上) 明治時代になってから、新聞社や出版社がたくさん集まってきた大阪には、全国から多くの画家たちが集まった。彼らは挿絵画家などとして企業に勤務する一方で、展覧会に出品したり研究会に参加したりして研鑽を重ね、画家として活動を続けた。また、大阪では江戸時代から女性画家が活躍していたことに加え、富裕層を中心に子女に教養として絵画を習わせる文化があり、多くの優れた女性画家が登場した。様々な経歴で集まった人々や女流画家の活躍によって、大阪の日本画には、新しい感性に基づく魅力的な表現が生まれた。
山田秋坪「柘榴花白鸚鵡図」(大正9年1920)がある。花鳥図であるが、さすがに近代の日本画らしく、新しい表現と感じられるような、濃い鮮やかな色彩とともに、とてもクリアーで鮮明な描写である。
作者の山田秋坪(やまだしゅうへい、明治10年1877-歿年未詳)については、あまりよくわかっていないらしい。大分県に中津藩士の子として生まれ、姫島竹外に師事に師事した。大阪に住み、大阪で活動したと伝える。花鳥画を能くすることは広く知られていた。
代表的な女流画家として、島成園(しませいえん、明治25年1892-昭和45年1970)がいる。
島成園は、大阪府堺市熊野町に生まれた。旧姓は諏訪成榮であった。父は襖などに絵を描く画工であり、兄は引札や団扇などに絵を描く画工を生業とするかたわら浅田一舟に師事し、御風(または一翠)と号して日本画家としても活動していた。 遊廓街のなかにある茶屋が母の実家であったため、そこが幼少時の日常を過ごした環境であった。堺市立宿院尋常小学校を経て、明治37年(1904)堺女子高等小学校を卒業した。この翌年に一家で大阪市南区鍛治屋町に転居したが、そこもまた大阪の「ミナミ」に近い場所であり、花柳界の習俗に親しんで育った。
15歳ごろから父や兄の仕事に興味を示し、見よう見まねで絵を独習しはじめ、ほどなく「大阪絵画春秋展」に小野小町を描いた絵を出品した。その一方で北野恒富、野田九浦らにも私淑して日本画の基礎を学んだ。私的な友人としての彼らから指導、助言を受けた外には、正式には誰にも師事していなかった。いくつかの図案競技会に作品を出品したのち、大正元年の第12回巽画会展に「見真似」が、同年10月の第6回文部省美術展覧会(文展)では「宗右エ門町の夕」がそれぞれ入選して、弱冠20歳で中央画壇へのデビューを果たした。東京、京都が本場とされていた当時の日本画壇において、大阪からの若年の女性画家の出現は画期的なこととして迎えられ、京都の上村松園、東京の池田蕉園とともに「三都三園」と並び称されるようになった。制作依頼が急増するとともに、入門を志望する若い女性たちが多数自宅を訪れるようになった。
翌大正2年(1913)にも、今回の展覧会でも展示されている「祭りのよそおい」で文展に入選し、朝香宮允子内親王などの皇族からも制作依頼が寄せられたりしたほか、大正4年(1915)第13回三越絵画展覧会では、作品が横山大観、竹内栖鳳、北野恒富ら有名画家の作品とともに展示され、さらに同年の第10回文展では「稽古のひま」が兄・御風の「村のわらべ」と一緒に入選して、大きな話題となった。
大正5年(1916)5月、かねてから親交のあった同年代の女流日本画家であった木谷千種、岡本更園、松本華羊と、「女四人の会」を結成した。「女四人の会」の第一回展が大阪で開催され、他の三人とともに井原西鶴の『好色一代女』に取材した諸作を出品、妙齢の女流画家たちによる意欲的な展覧会として話題を呼んだ。しかし、身分違いの恋や不倫の恋、心中、性的倒錯、犯罪など、恋愛感情に駆られての反社会的、反道徳的行動を主題とする文学作品を題材とする絵画を、若い女流画家が描き、それらを発表する展覧会を開いた、ということが、識者からは生意気な、挑発的行動と受け止められ「斬うした遊戯を嬉しんで囃し立てる大阪の好事家というのもまたつらいもの(『中央美術』大正5年6月)と揶揄された。また同じ頃から北野恒富、谷崎潤一郎の弟谷崎精二、人気力士の大錦卯一郎らとの恋愛ゴシップを書き立てられるようになり、有名人としての苦悩も味わった。
今回は前期・後期あわせて5点が展示されている。「影絵の図」(大正8年1919)がある。振袖を着た若い女性が、手指を使って動物の影絵を懸命に演じているシーンである。さすがに「三園」と称されるだけの優れた力量が素人にもよくわかる。
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