2024年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
フォト
無料ブログはココログ

« エゴン・シーレ展 東京都美術館(3) | トップページ | エゴン・シーレ展 東京都美術館(5) »

エゴン・シーレ展 東京都美術館(4)

アイデンティティーの探求
 20歳を過ぎて1911年ころから、シーレは表現方法が大きく変貌した作品を、相次いで制作した。Photo_20230520054401
 人体に関する研究も、単に人体構造を作品に反映させるだけでは飽き足らず、性の表現などタブー視されていた事象も作品に積極的に取り込もうとした。死や性行為など倫理的に避けられるテーマをむしろ強調するような作品を制作したのである。
自画像として「抒情詩人」(1911)がある。
 画面の中心に左腕があり、痛々しく節くれだった手を開いている。顔を不自然なまでに右に倒して、深い苦悩をあらわしている。下半身には、赤く色づいたペニスがある。あえてこれを描いたのは、生命あるいは欲望の儚さの表現なのだろうか。描かれた自画像は、かなり極端にデフォルメされて、全体の印象は美しさよりもグロテスクな印象だが、近づいてよくみると、ある意味汚く描かれた顔の細部、額、目元、鼻、頬などのいずれもが、驚くほどに緻密かつ丁寧に描きこまれている。技術が稚拙なために絵が汚く見えるのではなく、きわめて高度な技量で丁寧に汚く見える表現を実現したとでも言おうか。
 Ii 「自分を見つめる人II(死と男)」(1911)がある。
 中央の赤・緑・黒と複数の複雑な色彩で表わされた人物は、画家自身のようだが、目を閉じて瞑想にふけっているかのようである。背後に迫る人物の顔は、手前の人物の顔とは対照的に蒼白で、まぶたは窪み目もよくわからず、頬はこけている。まるで死人のような顔である。画家は自分自身が、近づいてくる自分の死の運命と対峙しているのをあらわしている。世紀末から20世紀にかけてのヨーロッパでは、生と死をテーマとする作品が数多く制作された。シーレもまた、自分自身の姿を重ねこの主題をたびたび取り上げたが、シーレが21歳という若さで、普遍的な死の表現に到達しているという点できわめて興味深いと言える。
 

Photo_20230520054501

 そしてその翌年、シーレのひとつの代表作とされる「ほおずきの実のある自画像」(1912)が制作された。この作品は、シーレの自画像のなかでもっともよく知られた作品とされていて、今回の展覧会のポスターともなっている。クローズアップで描かれた画家は、頭部を傾け、鑑賞者を睨んでいるかのようだ。シーレのまなざしは挑発的にも、いぶかしげにも、あるいは何かに怯えているようにも見える。青白い顔には赤、青、緑のごく細いラインが、まるで浮き上がった血管のように、繊細かつすばやい筆致で描きこまれている。高さの不揃いな人物の肩と、ほおずきの蔓がおりなす構図からは、この絵の主張を支える独特の緊張感が生み出されている。生涯にわたり自画像を描き続けたシーレは、世紀末のウィーンという多様な価値観が交錯し対立する世界に生きながら、自画像を通して自己のアイデンティティーを模索し続けたのであった。

人気ブログランキングへお気に召せばクリックください

« エゴン・シーレ展 東京都美術館(3) | トップページ | エゴン・シーレ展 東京都美術館(5) »

美術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« エゴン・シーレ展 東京都美術館(3) | トップページ | エゴン・シーレ展 東京都美術館(5) »