佐伯祐三展 中之島美術館(14)
4.第二次パリ留学時代: 1927~1928年
広告と文字への関心
第一次パリ留学時代のマチエールへの腐心の後退に比べて、祐三の文字への関心はますます強化されたようだ。秋の深まりにともない、これらの文字は判別不可能なリズミカルな線となり、壁などの構造物のマチエールを凌駕する勢いで画面全体に躍動するようになった。佐伯祐三芸術の代名詞ともされる「画面を飛び跳ねる繊細な線」が最大限に展開されたのがこのころであった。
「門の広告」(1927)がある。
この場面と同じ場所は、第一次パリ留学時代の1925年に「広告のある門」(1925)として、ほぼ同じ構図ですでに描いていた。1925年の作品では門や柱が構造物として立体的に表現されているのに対して、ここでは奥行きがなくなり、貼られたポスターのみならず扉や塀の形から舗装道路まで、現実のあらゆるものが平面的に還元されて線で表現されている。さらにポスターやその文字を除いて、空も道路もあらゆるものが無彩色に近い灰褐色で描かれるなかに、点在するポスターの赤、緑、黄色が鮮やかな色彩で描かれて際立っていて、抽象絵画に近づいた印象がある。
「ガス灯と広告」(1927)がある。
これは佐伯祐三の第二次パリ留学時代を代表する作品のひとつとされている。画面は赤・黄・緑などの鮮明な色彩をあしらった、ほとんど文字ばかりのポスターで占められている。素早い筆さばきで書きとられたと思われる文字は、もはや判読不可能な線描の連鎖となり、複雑で繊細なパターンと化している。壁の存在ももはや希薄で、躍動する線が浮かび上がり飛び跳ねているかのようだ。右上のサインも勢いある筆致で描き込まれ、動きのある画面に同化している。横長の構図を引き締めているのは、右側に立つガス灯の黒くまっすぐな線である。この力強い縦の線は、一時帰国時代の模索から得られた視点なのかも知れない。
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