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杉森久英『大風呂敷』集英社文庫

政治に挑戦した先見性に秀でた事業家の人間像
 著者の杉森久英という名は、どこかで見たことがあると思ったが、数年前に見た『天皇の料理番』というテレビドラマの作者であった。
 少し前に北岡伸一『後藤新平』中公新書 を読んだが、それにかんしてある友人から、後藤新平の伝記本としておもしろいのがあるよ、と紹介してもらったのがこの本であった。文庫本で上下2巻計700ページほどのボリウムがある。
 北岡伸一『後藤新平』が政治学者による後藤新平の政治家としての評伝・評論で、それなりに興味深い好書であるのに対して、こちらはいわゆる伝記小説で、資料と調査による詳細な情報にもとづきながらも、後藤新平の人間性、すなわち心理・感情・息遣いまでを、小説のストーリーとして表現しているという違いがある。幼少期から成人し、活躍して死ぬまで、詳しくかつ生き生きと描いていて、読んでいてとてもおもしろい。政治家としてだけでなく、生身の人間として、後藤新平がどのような人格、性格、才能などを持ち合わせていたか、が丁寧に描かれている。卓越した才能をベースとして、強烈な情熱、それにもとづくずば抜けた発想力・創造力・集中力で難関に挑戦し克服して行く一方で、奔放・粗雑・わがままな側面を持ちつつ、その人間臭さもあいまって多くの敵とともに、熱狂的なファンを虜にした、稀代の人物像がいかんなく描かれている。
 後藤新平は、著者も言うとおり、優れた政治家というよりは、困難な政治的問題に果敢に挑戦した優れた事業家であった。優れた事業家の特性は、将来を長いスパンで見通すこと、すなわち先見性である。一般民衆は、そんなことはしないしできない。民主主義・議会主義であるかぎり「民意」を尊重すべきだが、民意が後藤の先見性と大きく食い違うことがしばしば発生する。そのとき後藤は、民のためと信じて民意を棄て、自分の構想の実現に邁進する。後藤が多数派主義の政党制、普通の意味での「民主主義」を嫌ったのも、理解できないではない。
 たとえば現代の日本の政治においても、マスコミの記者、「識者」、「専門家」、コメンテーターなどを名乗る連中が、ろくに知識も知性も思考もないまま無責任に言いつのることが「世論」を誘導し、悪しき集団ヒステリーが発生して、ほとんど意味の無い、ときに有害な「民衆の声」が蔓延したりすることがある。そうであっても最終的には、チャーチルが言うように「実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。」ということが真理であり、民主主義を尊重せねばならない。
 それにしても、「政治」という営みはとても複雑怪奇で難しいものであることが描かれている。この後藤新平にしても、卓越した事業家であり政治家であったことは間違いないが、彼の判断と行動がどこまで正しかったのか、果たしてどこまでが良い判断・行動・成果であったのか、長い時間が経過したからこそようやくわかるような範囲も多々ある。政治は、論ずるは易く、実行するのは難しいと、あらためて思う。

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