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松本清張『神々の乱心』文春文庫

さきの大戦前の高揚感と不安の時代
 昭和8年、埼玉県比企郡の町で、特高警察の警部が新興宗教の周辺を探っているなかで、ふとした偶然から関わった参考人質問が、ある自殺事件を招いた。その解明を進めようとする特高警察が、皇室周辺の秘密にまでおよぶ問題に深入りしていく。このころ日本は、日露戦争で戦勝の結果、ロシアからの賠償金も取れずに、思わず列強国に加えられ、軍事費の増大と厳しい歳入の不足に苦しみ、そんな中で原敬総理は懸命に国家インフラ整備を進めたが、暗殺されてしまった。その間に関東軍が満州に進出し、日本では満州ブームが起こって多数の日本人が移住し、五一五事件が起こる、などそれまでにない高揚感と不安感がただよう時期であった。社会的にも、左翼と右翼の両方から「革新」を目指す運動が高揚していて、日本全体が浮足立ち、特高警察は緊張していた。
 東京、奈良、広島、関東諸県、さらに満州ときわめて広域にわたってさまざまに発生した事件に、警察、華族、皇室周辺、宗教家、軍隊、満州特務機関、満州移住者、満州浪人、匪賊、などなどきわめて広範囲の多様な人物たちが登場し、複雑に関わっていく。それらが思いがけない相関関係をもっていたのである。
 大連阿片事件、不審な連続殺人事件、その捜査で浮上するケイズ買いの骨董屋(偽物を知ったうえで商売のために購入する骨董屋)、不思議な新興宗教の卜占と宗教団体、華族の赤化、憲兵組織の介入など、当時の社会の複雑怪奇な様相が描かれる。
 ストーリー・テラーとしては、特高警察の中堅警部と華族の次男つまり非相続者たる華族の二人が、相互に警戒しあいながら独立に真相解明を進め、それらを統合すればより早く問題の真相がわかるだろうにそうはならない、という展開となる。殺人事件の経過と犯人については最後のほうでほぼ判明するが、登場人物の運命の結末はこの小説の著者たる松本清張の死によって未完となり、書かれないままとなっている。
 さきの大戦直前の波乱にみちた時代を、新興宗教を軸に、歴史的事実をできるだけ追跡しながら、ノンフィクション的な小説として描き出している。私はこれまで、いわゆる小説類を意識的に避けてきたので、他の推理小説など比較対象をよく知らないが、この小説がとても緻密に調査し、考え抜かれて書かれたものであることはよくわかる。
 文庫本で900ページほどの、単にボリウムだけでなく、内容的にもとても読みごたえのある小説であった。

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