2024年2月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29    
フォト
無料ブログはココログ

« 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(5) | トップページ | 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(6) »

エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか』上巻

人類の歴史を動かす基層意識としての家族・宗教・教育
 歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッドの主著だという。
 まず、この書の梗概をごく大雑把にまとめる。
 人間(ホモ・サピエンス)の歴史を動かし規定する主要因は、経済ではない。
 人間を規定する3つの階層を持つ意識が人間を規定し、したがって歴史を規定している。
1.無意識層: 家族、5000年の歴史を持ち、もっとも深い層を形成する
2.下意識層: 識字と教育、500年の歴史を持ち、意識層の基を支える
3.意識層: 経済的グローバリゼーションの階層、発生して50年の新しい浅い階層。
(1)家族構造の類型
 直系家族型: 子供のうち一人は親元に残るか、あるいは相続し、兄弟の平等性は低く親の権威が重視される。(ドイツ、スウェーデン、オーストリア、スイス、ベルギー、フランス南部、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会、など)
 絶対核家族型: 子は結婚すると親元を離れて独立する。兄弟の平等性に親が無関心で自由を最重要視する。(イングランド、アメリカのイングランド系、オランダ、ノルウェー南部、デンマーク、フランスの周縁部、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)
 平等主義的核家族型: 子は結婚すると親元を離れて独立するが、兄弟を平等視することが特徴である。(フランス中央・北部、ギリシア、イタリア南部、ポーランド、ルーマニア、ラテンアメリカなど)
 外婚制共同体家族型: 息子はすべて親元に残り大家族をつくり、兄弟は平等である。親族あるいは部族内の婚姻を禁止する。この家族制をもつ地域は、共産主義に親和性があって、実際に共産主義化が達成されたのは、ソ連の軍事的強制によるもの以外はすべてこの地域である。(ロシア、フィンランド、旧ユーゴスラヴィア、ブルガリア、ハンガリー、中国、モンゴル、ベトナム、キューバなど)
 内婚制共同体家族型: 息子はすべて親元に残り大家族をつくり、兄弟は平等である。血縁結婚、具体的にはいとこ婚が多い。イスラム教との親和性が高い。(トルコ、アラブなどの西アジア一帯、中央アジア、北アフリカなど)
Photo_20231106060101  これらが、現実の社会・経済・政治の深層で重要な規定要因となっている。
(2)宗教の位置づけ
 人間に大きな規定を与える「宗教」は、無意識層に関わり、「家族」の半分程度の時間で変化している。宗教は性や性行為を規定することにより、無意識層たる家族の生成に深く関与する。また、ホモ・サピエンスは、究極的には死よりも孤独を恐れるので、同じ宗教に帰属することで孤独から救われるのであり、来世ではなくその現世での救済効果こそが宗教の本質である。
(3)識字と教育と変革
 16世紀キリスト教宗教改革で、プロテスタンティズムが活版印刷を布教のツールとして、識字率の向上に大きな貢献をした。家族類型としては、父親の権威が強いドイツや日本の直系家族は、識字率向上に有利であった。
 読むことを覚えた人間は、頭脳の機能がいちじるしく拡張した。識字化は頭の構造が変わると言い得るほどに世界との関係が変わる。これにより前よりも複合的な内面生活が可能になり、人格が大きく変わった。
 イギリスでは、1688年(日本の元禄元年)のピューリタン革命で、1789年のフランス革命に1世紀先立って、近代的な国民意識、後の資本主義を支える自由主義的ナショナリズムを生んだ。絶対核家族 、プロテスタンティズム、識字化、そして親族類の崩壊が、1770~1780年のイギリス産業革命を導き、経済的離陸に寄与した。教育のグローバリゼーションは経済のグローバリゼーションに先立つのであり、経済が歴史を推進したのではない。制度的ダイナミズムも、教育の離陸と宗教由来のモラルなしには機能しない。
 イギリスは、絶対核家族というきわめてフレキシブルな社会構造に恵まれたことが、いち早く産業革命を達成するのに貢献した。
 識字化、世俗化、出生率の低下、イデオロギー的危機のシーケンスこそが歴史の進む本質であった。
(4)イギリスと絶対核家族
 イギリスは、古代にはローマに征服され、その後フランス系ノルマン人に支配されたが、そのなかで独自の絶対核家族が定着した。13世紀には、ローマ帝国のヴィッラに系譜をもつ荘園(マナーmanor)が、小規模で限定的ながら私有財産権・遺産相続権をもつ農奴を生成し、独自の貧民救済機能を維持し得る農村共同体を実現していた。国家権力も行政遂行能力も強くはなかったが、絶対核家族の権威重視傾向に支えられて、ある種の上位の権威(ノルマン人、貴族階級、ジェントリー、農民の寡頭支配層)により統治と行政は安定していた。
(5)アメリカの原初的(原始的)傾向
 アメリカは、イギリスからの独立以来、イギリス絶対核家族がもつ権威主義を否定した。独立後の農業経営の必要から、最小単位の核家族のみの生活・生産は困難であり、複数家族の同居あるいは近接居住が普及した。イギリスから受け継いだ双系性・核家族性・外婚制に原初的人間集団に存在していた水平性のある種の回帰を付け加えたのである。これは、歴史的にはイギリスの絶対核家族に対して原初的ホモ・サピエンスに戻る傾向を含み、現在のアメリカは、経済的には世界最高水準を誇りながら、暴力性や差別性など、原初的ホモ・サピエンスの基層的性格を併せ持つという傾向がみられる。
 著者エマニュエル・トッドは、(おそらくマルクス主義史学が大きな原因と思われるが)通常の歴史学が、歴史の推進力の中心に経済的要因を取りあげる傾向に対して、真っ向から反論する。人間が営み紡ぐ歴史は、人間の深層にある「家族」(そのデータ発現としての人口)と、識字、教育、宗教、家族システムなどの要因が社会的影響を導き、政治・経済を規定するというメカニズムに注目した検討が重要なのだ、と説く。
 最初の4章ほどは、その家族の類型がいかにして発生・変容してきたのかを人類学的・人口学的観点から説いているが、正直なところこのあたりは、私にはわかりにくい。
 それに続く、識字、教育、宗教などに関わる問題となって、ようやくトッドが主張したいことがわかってくる。
 エマニュエル・トッドの著書は、主に新書版だが何点か読んで、その斬新な着目点と発想に感銘を受けてきた。ただ本人も言う通り、あまりに基層・深層の問題で、並大抵の努力や時間ではどうしようもないような問題の立て方や解説をするので、まるで運命論であるかのような融通性のない主張に思えることもある。
 この書は、エマニュエル・トッドの主著であるというので、なかなかしんどいけれども、あと残り半分の下巻を読んでみようと思う。

人気ブログランキングへお気に召せばクリックください

 

« 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(5) | トップページ | 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(6) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(5) | トップページ | 「少女たち-夢と希望・そのはざまで」展(6) »