テート美術館展(2)
19世紀の光と闇の宗教的世界の表現
光をはじめて創造したのは神である、というのがユダヤ教とキリスト教の教えである。光は、善と純粋を表わし、暗闇は悪と破滅を意味する。イギリスでは、18世紀末から19世紀初頭にかけて、宗教を主題とする作品が再び人気を得た。芸術家は深い精神性をあらわすために画面を闇に包み、そのなかに鮮烈な光を取り入れて、苦しみと希望を対照的に表現した。
ウイリアム・ブレイク「アダムを裁く神」(1795)が展示されている。ウイリアム・ブレイクは、当時の先駆的な画家であり、神秘思想家であり、詩人であった。ブレイクは、産業革命の根底にある効率主義や科学万能主義、そして当時の思想の主流であった理性や秩序を重んじる啓蒙主義や合理主義に反発した。ブレイクは、神が創り出した人間の精神や魂の追求に向かった。この絵は、彼自身が創作した神話『ユリゼンの書』(1794)が背景となっている。炎の光のなかに現れる旧約聖書の神の姿は、その神話に登場する専制的な立法学者ユリゼンを思わせる。膝に置いた「永遠の真理の書」の掟を宣言する神は、頭を垂れるアダムに「ひとつの命令、ひとつの歓楽、ひとつの願望」に従うように命じている。
ジョゼフ・マロード・ウイリアム・ターナー「陽光の中に立つ天使」(1846出品)が展示されている。1775年ロンドンの下町に理髪店の子として生まれたターナーは、ろくに学校へも行けなかったが、14歳のころ風景画家トーマス・モルトンに弟子入りして絵を習ったことで絵の才能を見出され、ロイヤル・アカデミー附属美術学校に学ぶことができた。
画家として初期は、パトロンの好むロマン主義的な具象画を描いていたが、44歳でイタリアに行ったとき、大気と光の表現に目覚めた。それ以来、描かれる事物の形はあいまいになり、抽象に近づくような作品も出てきた。この作品でも、天使は太陽の光を背景として、まるで黄色い炎のなかから姿をあらわすかのように、詩的で抽象的なイメージで描かれている。
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