テート美術館展(7)
ヨーロッパの画家たちの自然界への強い関心
19世紀後半になると、ヨーロッパの画家たちは、自然界への関心が一層強くなったようである。急激に変化する技術や社会への反応とも考えられる。
イギリス出身のジョン・ブレットは、画家活動の初期には明るく繊細な風景画の名手として名を馳せていた。ラファエル前派とも交流を持ち、宗教的モチーフも作品に取り入れていた。その後、航海の旅を好むようになり、海や海岸などをなじみ深いテーマとして制作するようになった。1870年夏、スクーナー船(帆船)「ヴァイキング号」でイングランド南西の沿岸を航海し、そのときに記録したスケッチや情報をもとに描かれたのが「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」(1871)である。海に差し込む陽光を丹念に描写するが、これは19世紀初頭にラファエル前派が推進した思想に基づくものと思われる。
ブレットは、画家であると同時に天文学者でもあったので、科学的な観点からも対象にアプローチしている。
アメリカで生まれたジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラーは、ロンドンとパリを主な拠点として活躍した。「シンフォニー」や「ノクターン」といった音楽用語を作品名に取り入れ、絵画によって教訓や物語を伝えることよりも、色彩と形の調和を重視した。「ペールオレンジと緑の黄昏」(1866)は、スペインと南米との間に起きた戦争(1865~79)の舞台となったチリの港町バルパライソの海辺の風景を描いている。穏やかな海と船を照らす薄暗い光を表現するために、青、緑、灰色の淡い色調を活かしている。近づいてよく見ると、帆や帆柱に細く薄い水平線が細かく描きこまれ、隠し味のように画面の安定感を増している。ホイッスラーは、細部を注目させることより全体の印象を創り出すことに注力したことが窺える。
印象派として知られるフランス人画家たちにとっては、光そのものが作品の主題となった。クロード・モネ(1840~1926)、カミーユ・ピサロ(1830~1930)、アルフレッド・シスレー(1839~99)等は、風景を描くために郊外へ積極的に出かけた。 彼らは自然のなかで光や大気、さらにそれらの束の間の動きをとらえ、スケッチや下絵にとどまらず仕上げまでのすべての制作の行程を屋外で行った。当時は、風景画は屋外でスケッチ、せいぜい下絵くらいまでをすませ、あとの仕上げはアトリエに戻ってからするのが通常であったので、彼らの制作手法は当時としては画期的であった。印象派はそれまでの伝統から脱却し、キャンバス表面の絵具を強調し、遠近法に拘泥せず平面的な表現をも駆使し、奇抜な方法も取り入れて構図を切り取った。
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