テート美術館展(6)
「ラファエル前派兄弟団」のイギリス近代化への反発
19世紀イギリスのめざましい地方経済の産業化と都市への人口流出など、イギリス社会の劇的な変化に反発して、15世紀のイタリア美術への回帰を訴える動きがあった。
ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~96)、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828~82)、ウイリアム・ホルマン・ハント(1827~1910)が設立した、イギリスの画家たちが緩やかに結束する集団「ラファエル前派兄弟団(ラファエル前派)」は、生活に密着した作品を制作しながら、光の効果をとらえることに細心の注意を払った。細密描写と強烈な色彩、そして複雑な構図が特徴であった。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「露に濡れたハリエニシダ」(1889-90)が展示されている。ミレイが「木霊の力強い声」に触発されたというこのテーマは、森の朝露と朝日が主題となっている。画面中央から照らし出す陽光と、それを受けて光るハリエニシダの葉の露が精細に描写されている。
エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ「愛と巡礼者」(1896)が展示されている。キリスト教の天使や古典的な愛の神であるキューピットの姿をした愛の化身が、巡礼者を孤独の闇から救い出そうとする場面が描かれている。画家はこの制作にあたり、中世フランスの詩『薔薇物語』から着想を得たという。この物語は14世紀のイギリス詩人、『カンタベリー物語』を書いたジェフリー・チョーサーが翻訳していた。鳥にかこまれた天使の羽は、巡礼者の解放と自由を象徴し、愛に導かれた巡礼者は光に照らされている。バーン=ジョーンズは、絵画のみならずデザインの分野でも活躍した芸術家で、この作品には20年以上を費やし、完成まで至った最後の代表作とされている。
ウイリアム・ホルマン・ハント「無垢なる幼児たちの勝利」(1883)が展示されている。
ハントは、1870年代に聖地エルサレムを訪れてこの絵を描きはじめたという。この絵では、ヘロデ王がベツレヘムに生まれたすべての長男、いわゆる「無垢なる幼児たち」を皆殺しにするなか、マリア、ヨセフ、幼子イエスがエジプトに逃れる様子が描かれている。ハントは、画面中央に描かれた泡、すなわち「空気のような球体」で「永遠の生命の流れ」を表現しているという。
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