古澤明『量子もつれとは何か』講談社ブルーバックス
わかりやすく図解説明も多い優れた入門書
前に藤井啓祐『驚異の量子コンピュータ』岩波科学ライブラリーを読んで、量子コンピュータ実現のうえで、量子もつれが重要であるとの記載があった。しかし私はこの「量子もつれ」なるものの内容にまったく不案内であった。それがこの本を選んだ理由であった。
この書は、光の量子化、レーザー光と量子揺らぎ、そして量子エンタングルメント(=量子もつれ)とはなにか、量子もつれを形成する方法、それができたか否かの検証法、量子もつれの具体的応用の例、という順序で、とてもわかりやすく論じている。
量子力学の原点である不確定性原理からはじまる。すなわちある特定の関係にある(古典力学的には)独立した2つの物理量(位置と運動量、あるいはエネルギーと時間など)は同じひとつの量子のなかでは同時に(正しくは「一緒に」)決められない。この物理量の関係を共役関係という。しかし2つの量子のそれぞれ共役関係にある2組4つの物理量を取り出し、2組の物理量のある種の組み合わせとしての相対関係(たとえば位置の差と運動量の和)は、同時に決めることができる。これが量子エンタングルメント(=量子もつれ)である。これらの現象を解析するとき、量子力学に基づく量子の波動現象としての性質が基礎になっている。
そして、この書では量子もつれの当事者たる量子の具体例として、光(=光子)をもちいて解説している。光は電磁波たる波動であるため、4分の1波長ずらした2つの独立な波、すなわち正弦波と余弦波があり、それらが相互に独立でありかつ共役関係にあること、が説明される。
光は量子の1種たる光子であり、振動数(=周波数)が高いために1個の量子のエネルギーが熱エネルギーより格段に大きいので、熱によるノイズの影響を相対的に受けにくい。その半面では、量子を加工するのに大きなエネルギーを要するので、実験においては、非線形光学素子とレーザーを用いた光パラメトリック過程などが必要となる。
光は電磁波であり、電磁波で操作する手法が活用できて、極端に周波数が高いラジオのような考え方と手段で推論と実験検証ができることが示される。
説明の順序も的確で飛躍が無く、簡明な図解が多く、わかりやすい入門書である。
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