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深谷散策 ─渋沢栄一関連を軸に(8)

誠之堂と清風亭
 尾高惇忠生家を出て下手計(しもてばか)交差点を右折して14号線に入り、小山川の橋を渡ってすぐのところに大寄公民館がある。この公民館の敷地に、誠之堂と清風亭がある。Photo_20241130054901
 これらはともに東京都世田谷区瀬田にあった第一銀行の保養・スポーツ施設「清和園」の敷地内に建てられていた建物を、この地に移築・復元したものである。清和園にあったときはあまり公開されることがない建造物であったが、建築研究者や建築関係者の間では、いずれも日本建築史上、大正期建築を代表するものとして注目されていた。
Photo_20241130055001  しかし昭和46年(1971)清和園の敷地の過半は、聖マリア学園(セント・メリーズ・インターナショナルスクール)に売却された。建物と敷地は第一勧業銀行の所有であったが、平成9年(1997)学園の施設拡張にともない、これらの建物は取り壊しの危機に瀕することとなった。渋沢栄一を輩出した深谷市としては、貴重な文化遺産が取り壊されるのを看過できず、譲り受けに乗り出したのであった。
 ただ、このような繊細な煉瓦構造物の移築はわが国でも先例がなく、移築方法に検討が必要であった。深谷市につくった移築保存検討委員会の研究・検討の結果、煉瓦壁をなるべく大きな単位で切断して搬送し、移築先で組み直す「大ばらし」という新規な工法を採用することとした。2年間の解体・復元の工事を経て、平成11年(1999)8月移築・復元が完了した。
 誠之堂は、大正5年(1916)渋沢栄一の喜寿を記念して第一銀行の行員たちの出資により建築されたものである。
 渋沢栄一の大きな業績のひとつが第一国立銀行の創設であり、渋沢栄一は自らその初代頭取を勤めた。栄一は、喜寿を迎えるのを機に、第一銀行頭取を辞任したが、こうして誠之堂建設の出資にその行員たちの多数が関わったことから、栄一が行員たちから深く敬愛されていたことがわかる。
 「誠之堂」の命名は栄一自身によるもので、儒教の「中庸」の一節「誠者天之道也、誠之者人之道也」、すなわち、誠は天の道なり、これを誠にするは人の道なり、のことばに因んだものである。
 設計は、当時の代表的建築家のひとり田辺淳吉が担当した。設計の条件として、西洋風の田舎屋で、建坪は30坪程度とされ、田辺淳吉独自の発想を凝縮してこの建物が実現した。建築面積112㎡、煉瓦造平屋建て、外観はイギリス農家風ながらも、室内や裏面のところどころに日本風あるいは中国・朝鮮の東洋風のデザインを取り入れ、独特の魅力的な建物を実現している。Photo_20241130055101
 外部壁面には白色・薄茶色・褐色の3色の煉瓦をリズミカルに配置して、装飾性と心地よい軽快さを与えている。いずれも深谷市内の日本煉瓦製造株式会社で焼かれたもので、実は白色や薄茶色の色の薄いものは、製品規格から外れた不合格品を有効活用したという。
 化粧の間や大広間には、森谷延雄のデザインによるステンドグラスを取り入れた窓がある。大広間の円筒型漆喰天井(ヴォールト天井)は、石膏レリーフで雲、鶴、松葉の緑、寿の文字が配され、次之間の天井は、日本的な網代天井で数寄屋造りを取り入れている。
 清風亭は、大正15年(1926)当時第一銀行頭取であった佐々木勇之助の古希を記念して、誠之堂に並べて建てられたものであった。建築資金は、誠之堂と同様に行員たちの出資による。
Photo_20241130055102  佐々木は、28歳の若さで第一国立銀行本店支配人に就き、大正5年(1916)渋沢栄一を継いで第一銀行第2代頭取となった人物であった。勤勉精励、謹厳方正な人柄で、終始栄一を補佐したという。
 清風亭は、当初佐々木の雅号をとって「茗香記念館(めいこうきねんかん)」と称されたが、後に「清風亭」と呼ばれるようになった。
 設計者は、銀行建築で高名な西村好時である。建築面積168㎡で鉄筋コンクリート造り平屋建、外壁は人造石掻落し仕上げの白壁に黒いスクラッチタイルと鼻黒煉瓦がアクセントを加えている。「南欧田園趣味」として当時流行していたスペイン風の様式が取り入れられている。大正12年(1923)関東大震災を契機に、建築は煉瓦造りから鉄筋コンクリートに主流が代わったが、その最初期の建造物として建築史上貴重なものとされる。

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