「わたしのいる場所─みるわたし」兵庫県立美術館コレクション展(4)
2.女性と生活
吉原英里「夏の影─七本のチューリップ」平成18年(2006)がある。
吉原英里(よしはらえり、昭和34年1959~)は、大阪に生まれ、昭和58年(1983)嵯峨美術短期大学版画専攻科を修了した。
昭和59年(1984)大阪の画廊で初個展を開催し華々しいデビューを飾った。帽子やティーバッグ、ワインの瓶など身近なものをモチーフに、独自の「ラミネート技法」で銅版画を制作した。版画紙と雁皮紙の間に本物のティーバッグや荷札、新聞記事などを挟んでプレスする手法で、版画にコラージュ的な要素を導入することで表現の幅を拡大した。
実物の帽子などを版画や絵画に組み合わせたインスタレーション作品も展開している。2000年代からは寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれる平織の布を組み合わせた絵画作品も発表している。
この「夏の影─七本のチューリップ」にも見られる「影」の表現によって、描かれたモチーフや人物の不在と時間の経過が表現されるとともに、生花の瑞々しさが際立つ作品となっている。
田菊ふみ「15:30の石」平成19年(2007)がある。
田菊ふみは、昭和15年(1940)新潟県に生れ、昭和35年(1960)ブラジルに移った。1980年ころからサンパウロ在住の廣田健一に師事していた。廣田健一は抽象的な繰り返しのモチーフを特徴としたが、田菊ふみは具象的な表現で作画している。
この作品は、タイトルの「15:30の石」が示すように、昼下がりの強い日差しを受けて大きな画面が色面によって分割されている。石、鍵、蝶番、スパナなどの生活に結びついた道具が描かれているが、自然物と人工物が平面と奥行きの表現で、全体として軽やかなリズムを感じさせる作品となっている。題材はごく地味な生活用品だが、画面全体に明るく、活動的で前向きな意欲が感じられる作品である。
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