「わたしのいる場所─みるわたし」兵庫県立美術館コレクション展(6)
3.女性と身体
ルイーズ・ネヴェルスン「セルフ・ポートレイト─サイレント ミュージックⅣ」(1964)がある。
ルイーズ・ネヴェルスン(1899~1988)は、ロシアのキエフ(現在のウクライナの首都キーウ)に生まれ、後にアメリカへ家族とともに移住し、1920年結婚を機にニューヨークに住んだ。既製品や廃材を寄せ集めて芸術作品に昇華させるアッサンブラージュの手法で、1940年代には立体作品を制作し、1957年ころからは、この作品のように箱状の形態を積み重ねる手法を確立した。
具体的な形を持たず、木箱のなかで黒一色に調和された小片は、タイトルの「サイレント ミュージック」を奏でているように思わせる。1950年代から発表された黒や白で塗装された木材による作品は、一色で統一されてもなお、塗りつぶされることのない作家自身の主張と個性が投影されているようだ。
木下佳通代「88-CA497」昭和63年(1988)がある。
昭和14年(1939)神戸に生まれた木下佳通代は、すでに別記事で書いた通り生涯を通じて「存在」を問いかける制作を続けた。京都市立芸術大学で学んだ後、1970年代は写真を用いた作品を主に発表し、1980年ころからはキャンパスに油彩で描いた絵具を拭うことで画面にニュアンスを形成する方法で絵画に取り組んだ。
この「88-CA497」は、そうした拭う絵画を経た後、線の描写が目立ち始めた時期の作品である。線が往復する画面の制作論を、木下佳通代は以下のように語っている。
私には、ひとつのイメージとして成り立たないことが必要でした。見えかけたと思ってもすぐなくなってしまう、それでいて存在する。何も見えなくて、どんなイメージにもならない、描かれた線とか色とか形が、空間の緊張感をつくっていて、それぞれが必然的にそこに必要になれば、作品が完成するのです。
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