松竹新喜劇「流れ星ひとつ」京都南座
京都南座の初笑い新春お年玉講演として、松竹新喜劇「流れ星ひとつ」を観た。
松竹新喜劇の劇団メンバーに、客演の久本雅美が主演を務める「流れ星ひとつ」は、今から半世紀余り昔の昭和30年代の大阪を舞台にした、職人が住む下町の人びとが織りなす人情劇である。40歳ほどらしい刺繍職人の未婚の長女が、偶然の成り行きで容姿に劣るが人柄の良い袋物職人の男を見直して、ようやく結婚にこぎつけるという、ドタバタ喜劇である。
職人気質のがんこな親父、濃密な近所づきあい、おせっかいな隣人たち、貧しいが明るく朗らかに生きようとする人々、玄関に隣接した卓袱台のある畳敷きの座敷、二階の物干しの欄干とそこから眺める星空、などなど昭和の下町の雰囲気を濃厚に取り入れた芝居である。
当時の庶民には、結婚適齢期というものがあり、とくに女性はある程度の年齢になれば結婚するのが普通として通っていた。現在の男性の未婚率30%、女性は20%弱という数値に対して、昭和35年時点では男女とも未婚は2%に満たなかったと言い、まさに隔世の感がある。
この物語では、「行き遅れ」の長女が、紆余曲折の騒動の末にようやく幸せをつかむ、というお話しだが、現代の「多様性」「人権重視」の時代には、おそらく炎上もあり得るテーマではある。それでも、ひとつの時代劇として、他愛のない正月らしいハッピーエンドで、めでたしめでたしと、後味は悪くない。形はどうであれ、人間はひとりで生きて行くよりは、パートナーとともに生きるほうが幸せだろう。
主人公の40歳ほどとの設定の長女を、60歳半ばになった久本雅美が演じるが、これもそれなりに好演である。
芝居の後に渋谷天外、藤山扇治郎、久本雅美の3人による新春挨拶があったが、全体で1時間半余りのごく短い舞台であった。率直に言っていささかあっけなかったが、気の置けない娯楽のひとときとして、まあ良しとしたい。
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