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文化・芸術

新作歌舞伎「NARUTO」京都南座

 京都南座に、家人と一緒に、新作歌舞伎「NARUTO」を鑑賞した。
 ちょうど1年余り前に「ワンピース」という、やはり人気マンガを歌舞伎にした公演を観たが、なかなか良かったので今回も観ることとしたのであった。Photo_55
 落ちこぼれの若手忍者ナルトが、ライバルでかつ親友のサスケと、協力したり対決したりしながら、忍者の  里を侵略しようとする悪の忍者集団と必死に戦い、忍者としてまた人間として逞しく成長していく物語りである。
 私たちは原作のマンガ作品を知らないので、物語の進行内容そのものがなかなかわかりにくいという難点がある。名前も普通の演劇で使用されるような名前でなく、またマンガの画面に類似した特殊な衣装とメークで登場するそれぞれの配役の区別も容易ではないことがある。そういういくつかの困難があるにもかかわらず、若手の魅力あふれる歌舞伎俳優たちのエネルギッシュな演技は、観ていて飽きることが無く、たしかに楽しめる。
 主人公ナルトを坂東巳之助、ライバルでほとんど主人公とおなじ重要度をもつサスケを中村隼人、悪の首魁マダラを中村梅玉が、それぞれ演ずる。終盤のナルトとサスケの目まぐるしい殺陣のカラミは見応えがあり、とくに滝の下でびしょ濡れで水しぶきの中で取っ組み合う場面は、若手俳優ならではの大変な重労働の演技である。ヒール役のイタチを演ずる客演俳優市瀬秀和も、なかなか魅力的である。
 観客席は、平日なのにほぼ満員で、人気の高い演目だということがわかる。西欧人らしい客もかなりいる。イヤホンガイドには、英語版もあるらしく、歌舞伎のためにはとても良いことだと思う。
 初夏の一日、延べ5時間あまりをすっかり堪能した。

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松竹演劇「三婆」

 大阪松竹座で「三婆」を家人と一緒に鑑賞した。昭和36年(1961)有吉佐和子原作で、若いころにテレビドラマや舞台中継として、テレビを通じて何度か見たかすかな記憶があるが、話の内容はほとんど覚えていない。
Photo_49    一代で大きな金融業を立ち上げた社長が、突然妾宅で亡くなった。実は最近彼の金融事業はうまくゆかず、大きな借金を残しての急死であった。その社長の本妻と、唯一の肉親である妹、そして妾の3人の中高年女性があとに残された。
 長らく自宅に寄り付かず寂しい思いをさせられた本妻は、当然妾を快く思っていない。妹は長らく身体が弱かったこともあり、初老の現在にいたるまで独身だが、住処を兄の借金の抵当に取り上げられて、本妻宅に押しかけてくる。肉親の妹として妻に劣らぬ相続権が、自分にはあると信じている。妾も住処を失い、自分が経営することになっている料亭の建築が落成するまでのひと月だけ置いてほしいと、これまた本妻宅へ押しかけてくる。互いにいがみ合う立場の3人の初老の女たちが、問題だらけの奇妙な同居生活をはじめる。
 本妻宅には、妙齢の女中がいて、これももはや身寄りのない本妻の幼女になって財産を乗っ取ろうと狙っている。みんなほんとうのワルではないが、人並みの欲にとらわれた人たちである。このややこしい女性たちを脇から支えたり調整したりできる唯一の人物が、死んだ社長の側近であった専務の重助であった。
 波乱続きの同居は数年続き、ついに同居解消と合意したものの・・・
 ストーリーの本質は、人間は憎み合ったり、嫌ったりしても、しょせん一人きりでは生きられない、嫌うのも十分意識しているからであり、誰も本心ではひとりきりになりたいとは思っていない、というごくありきたりのものである。演劇としてのポイントは、3人の老女たちの達者な掛け合いである。もしへたな女優たちが演じたら、おもしろくもなんともない、味気ない演劇になるだろう。しかし幸いにして今回の舞台は、死んだ社長の本妻を大竹しのぶ、妹を渡辺えり、妾をキムラ緑子 という錚々たる練達ぞろいである。この舞台の見ものは、偏にこの3人のベテラン女優たちのあの手この手の名演であった。
 脇を固める重助役の佐藤B助、女中役の三倉茉奈も、とても良かった。なんの難しいところもなく、只管良い女優たちの演技を堪能し、満足できたひとときであった。

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2019年度の高槻ジャズストリート (2)

高槻ジャズストリート 2日目
 京都にでかけての帰途、阪急高槻市駅の高架下の会場で、2つのセッションだけ聴いた。Photo_48
 まずはヴァイオリニスト牧山純子の演奏である。キーボードとドラムが適宜参加しての演奏であった。この人の演奏は、昨年の高槻ジャズストリートでも聴いたが、そのときはビッグバンドとの共演で、野外会場で風が強く、衣装や髪のみでなく、楽譜が飛び去るハプニングもあったが、なかなか充実した演奏であったことを思い出す。
 平原綾香の「ジュピター」、牧山純子自身のヒット作「ミストラル」、数年来彼女が力を入れているスロベニア共和国との音楽交流から生まれた「スロベニア組曲」から「風」、そして昨年6月の高槻直下型地震をスロバキア滞在中に知り、その直後に作曲したという「心の光」を演奏した。思い入れを非常に強く感じさせる情熱的なパフォーマンスで、ヴァイオリンの特性を生かして熱烈に歌い上げるような、とても魅力的な演奏であった。牧山純子は、クラシックをベースにして、ジャズには珍しいヴァイオリンを用いてジャズとクラシックを融合して、新しい音楽を創ることをめざしているらしい。この人はルックスにも恵まれ、品性も良さそうで、音楽も容貌が優れるとやはり有利だと率直に感じる。最後は「サニーサイドアップ」という、ヴァイオリンなのに手拍子が似合うように意図して作曲した、というオリジナル曲で快活に締めくくった。
Super  続くセッションは、風間三姉妹SUPER!という名のグループで、よくはわからないが、かつて劇画コミックとテレビで一世を風靡した「スケバン刑事」の風間三姉妹からとった命名のようだ。ヴォ―カル宮藤晃妃、テナーサックス西村有香里、キーボード大野綾子である。これにドラム三夜陽一郎、ベース西川サトシが加わっている。関西弁でよくしゃべる宮藤のヴォ―カルが軸だが、歌いだすと音域も声量も豊かで、エネルギッシュで迫力たっぷりの演奏を聴かせてくれる。女性には重すぎるのではと心配させるテナーサックスを抱えて、迫力ある演奏をする西村有香里も素晴らしい。私もよく知っているようなポピュラーな曲目も交えて、重量感溢れる充実したセッションであった。
 今年は、他の事情のため聴いたセッションは少なかったが、全体としてアタリに恵まれて、私の個人的には、少数精鋭の印象で終えることができて幸いであった。

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2019年度の高槻ジャズストリート (1)

  高槻ジャズストリート 1日目
 今年は21回目となる高槻ジャズストリートである。時間的制約から、ごく一部のみ楽しむこととした。Photo_47
 初日は、4つのセッションを聴いた。まずJR高槻駅西側のレンタル音楽スタジオWoooで加納星子クインテットの演奏を聴いた。いつもは加納星子のサキソフォンを軸にカルテットで活動しているそうだが、この日はピアノ、コントラバス、ドラム、パーカッションが加わってクインテットでの演奏であった。加納星子のサックスの演奏は、メリハリがありキリっと引き締まって、なかなか魅力がある。そしてきびきびしてエネルギッシュな高尾飛のピアノが良かった。演奏された演目は、いずれも私にははじめてのものであったが、心地よいリズムに乗せられて、身体を循環する血液が気持ちよく流れていくような感触で、きわめて気持ちの良いひとときであった。またこの会場は、音楽専門のレンタルスペースということで、決して広くはないが、音響機器の整備や調整が行き届いて、演奏者もやり易かったようだ。こういう場所が高槻にもあることを、私ははじめて知った。
Westtree   2つめは、JR高槻駅東側のジャズバーMarinnaである。ここでは、音楽専門学校で同期であったという2人、ギターの木曽義明とピアノの西口英生によるジャズである。2人がそれぞれ自作のナンバーを持ち、いずれも2人で共演した。ギターは主にアクセントを与え、ピアノは主に優しく全体を包み込むような演奏で、たった2人だが十分楽しめる美しい演奏であった。10年以上も一緒に活動しているというが、気心の知れた仲の良さそうな2人で、終始なごやかで気持ちの良い時間であった。Nhorhm
 3番目は、少し歩いて市役所まで行き、生涯学習センターのホールのセッションを聴こうとしたが、すでに満員ということで、代替案として人数制限がない野外会場である高槻市立桃園小学校グランドに移動した。ここでは西山瞳NHORHMという名のトリオを聴いた。このグループは、主にヘビーメタルのナンバーをジャズとして演奏するのが特徴らしい。西山瞳のピアノはもちろん、織原良次のベースも橋本学のドラムも完成度の高いプロらしい演奏で、安心感がある。野外ステージだが音量は十分大きく、運動場をぎっしり埋め尽くす大勢の聴衆も聴き入っていた。
91trio1  この日の最後は、高槻駅への帰り道、城北通り商店街にあるJKカフェである。これまで高槻ジャズストリートで、何度かこの会場に入ろうとして、いつも満員で果たせなかった。この日もなかば期待できずに覗いてみると、一つだけ椅子が残っていた。ここで聴いたのは、91Trio+1というおもしろい名のポップス・グループの演奏である。このグループのメンバーは、1991年生まれの器楽3人と、1997年生まれのボーカル1人の構成で、互いによく知り合ってはいるが、この4人の構成で演奏するのは初めてで、高槻ジャズストリートに対応した特別のものであるという。若いグループで、元気でエネルギーがあり、活気が漲るのが特長と言える。私もよく知っているナンバーがいくつか含まれていて、それなりに楽しめた。

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映画「8年越しの花嫁」

 岡山県に住むカップルに起こった実話をもとにした映画作品である。
 自動車整備工場に勤める尚志は、合コンで麻衣と出会い、結婚を誓った。その幸福の絶頂のとき、麻衣を病魔が襲った。「抗NMDA受容体脳炎」という珍しい重篤な病で、麻衣は昏睡状態に陥る。結婚を認め祝福していた麻衣の両親も、尚志に結婚を諦めるよう勧めた。しかし尚志はプロポーズ直後に予約した結婚式場を8年間解約せず、麻衣の回復を待っていた。
 病気のために二人を襲う繰り返す試練に、なんども挫けそうになりながらも耐えて、ついに8年後に車椅子生活ができるようになった麻衣は、尚志と念願の結婚式を実現した。
 ずいぶん古くから、病気と闘うカップルを取り上げる純愛ドラマがあり、私もいくつか観たことがあるが、それでも見るものに訴えるものがある。健康に大した問題がない、というごく普通のことが、いかに貴重でありがたいことかと思う。
 なにより主演の佐藤健の、朴訥で素朴な演技は秀逸である。彼はまだ若いのに、若さと美貌が主題の青春ドラマ、身体能力がカギのアクション映画、ある道一筋の職人の生涯の物語など、多彩な役柄を立派に演じ切ると思っていたが、内面の葛藤をしずかに表現する今回のような地味な役柄でも、じつに見事であった。土屋太鳳も、難病に襲われた不自由な女性の役を好演していた。この二人の俳優の魅力だけでも、観る側はじゅうぶん満足できた。

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「喜劇 有頂天団地」南座

 「喜劇 有頂天団地」が、新春の南座で上演された。「喜劇 有頂天旅館」「喜劇 有頂天一座」に続く、渡辺えり・キムラ緑子コンビが取り組む“有頂天シリーズ”第3弾として、小幡欣治の戯曲「喜劇・隣人戦争」をもとに、俳優・脚本・演出家であるマギーが松竹で初めて演出を担当する舞台である。
Photo 時代は高度成長期の昭和50年代、京都郊外の住宅地を舞台としている。環境がよいことで評判の高い住宅地の一角に、狭い敷地にミニ開発で軒を並べて6棟の戸建て住宅が新築された。そこに入居してきた新参の住民と、地元の古参の住民とのささやかな諍いから近隣住民の間に騒動が勃発する。先住者は、せっかくここまで大事にしてきた環境を新参の住民たちが乱さないか気になって、つい小言を申し入れて反発を買う。新参の住人たちも、お互いに外見や世間体を気にして、ついつい見得を張って、無理をしてしまう。それぞれの家庭内でも、どこにでもあるような小競り合いが起こる。ごく些細なことで、近所同士にいがみ合いが生ずる。それでもみんな、それぞれ懸命に働き、家族を大事に守って生きている普通の人々であり、結局は和解もできるし、助け合うこともできる。ごく普通の庶民の人情を、平凡な日常のなかにユーモアを含めて切り出している。
 いつもながら、渡辺えりとキムラ緑子の達者な演技に魅了される。どこまでが台本で、どこからがアドリブなのか判然としないが、自由奔放で快活な、観る者を圧倒するようなエネルギッシュな演技である。もちろんわき役も良い。
 テレビや映画にはない緊張感と臨場感と空気感をたっぷり味わい、じゅうぶん笑って楽しんだひとときであった。

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映画「坂道のアポロン」

 人気漫画の実写版だそうだ。1960年代の佐世保の町が舞台で、その高校に転入してきた薫は、家庭に事情があって親戚の家から学校に通う、医師をめざす少年である。薫は、同級生として不良少年風の仙太郎と、しっかり者の律子と知り合う。律子の家は町のレコード店で、律子の父は熱心なジャズ好き。その家の地下室は、実は父や仙太郎が溜まってジャズ演奏に明け暮れるアジトであった。偶然そこに来た薫は、それまでクラシック・ビアノをしていたが、ジャズに魅せられて、性格も生活態度もまったく違う仙太郎と親友になっていく。薫は律子に好意をよせるようになるが、律子は仙太郎の理解者でかつ好意をよせている。しかし仙太郎は年長の百合香に憧れ、百合香は大学で学生運動にはしる淳一に惚れている。ジャズの絆でむすばれた友情と、微妙に行違う恋愛模様が絡まって青春を描く。
 とくにきわだった独創性はないが、青春映画としては十分訴えるものがあり、劇のなかで演奏されるジャズの魅力もある。私たち団塊の世代は、登場人物とほぼ同世代に相当し、物語の舞台背景が懐かしいこともあって、しばらく見入ることができた映画であった。

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松竹新喜劇新春お年玉公演

 新開場なった京都南座の新春興行として、また劇団創立70周年を記念して、元旦から8日まで毎日2回の公演があった開催された。Photo
 松竹新喜劇は、喜劇の祖といわれた曽我廼家五郎が昭和24年(1948)他界し、松竹の名の下に渋谷天外(二代目)、曽我廼家十吾、浪花千栄子、曽我廼家大磯、曽我廼家明蝶、曽我廼家五郎八、藤山寛美等が集まって、昭和24年12月中座で旗揚げしたものである。私たち団塊世代にとっては、子供時代からテレビを介してよく観たものであり、名前を聞くと、おぼろげながら懐かしい風貌がふと脳裏に浮かぶ。現在は三代目渋谷天外、高田次郎、小島慶四郎、藤山扇治郎が中心となって、私たちはあまり知らない顔ぶれも増えたが、現代劇から時代劇に至るまでの、いわば伝統的な人情喜劇を上演している劇団である。
 茂林寺文福・舘直志作による「裏町の友情」一場と、舘直志作・星四郎脚色による「お祭り提灯」二場で、少しの休憩時間を含めて3時間弱の舞台であった。
 「裏町の友情」は、いまや半世紀前1970年ころの大阪下町を舞台に、高度成長の時流に乗って繁盛する洗濯屋と、その隣の時流に乘れなかった炭屋との、喧嘩友達同士の人情話である。先代以来の「犬猿の仲」の両家の口論のやり取りに、「ロメオとジュリエット」よろしく両家の子供世代の恋愛をかみ合わせ、大阪下町の人情を滑稽に演じる。
 「お祭り提灯」は、江戸時代の正月を背景に、実直な提灯屋徳兵衛が偶然拾った祭りの寄付金をめぐり、それを狙う町内一の強欲張り山路屋おぎん、寄付金の回収を願う町役人、それに丁稚の三太郎などが絡んで、善と悪との追っかけっこが、花道の駆け足での往復場面とともに展開する。山路屋おぎんを演じるゲスト出演の久本雅美の演技も、観衆の大喝采をあびて冴えわたる。
 いわゆるドタバタ喜劇が悪いというわけではないが、久しぶりに「正統派」ともいえる新喜劇を見て、おおいに楽しめた。

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アニメ映画「ザ・ブレッドウイナー」

 日本語版のタイトルは「生きのびるために」となっているようだ。
 舞台は、タリバンが実効支配するアフガニスタンの町である。主人公の少女パヴァーナが、イスラム原理主義をタリバンから強制され、本を読んでも、ブルカを着用せずに顔を出しても、ひとりで歩いても、物を買っても、すべてが禁止されて咎められる。男もほんのわずかのことでイスラムの教えに背いたとして逮捕され、殴られ、戦場に捨てられる。男手や親を失った子供たちは、自分で食べ物を手に入れなければ生きて行けないが、イスラム原理主義の制約のために、できることはほとんど残されていない。少女は、生きのびるために髪を切り男の子に変装して行動を始める。しかしタリバンの監視、戦争の災禍から身を守ることは、奇跡を追うにひとしい。
 アフガニスタンの現場で、実際に起こったことを当事者からインタビューを重ね、タリバン支配下の人々の生活の実態を描いた、ドキュメンタリー的要素の強いアメリカのアニメ作品である。
 かわいい絵から、そしてアニメ作品なので、つい子供対象の楽しい映画かと気軽に見始めたが、内容は重く、暗く、恐ろしい。なんとも感想を表わしにくいが、よくできた作品ではあるだろう。

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吉例顔見世12月興行 南座

 南座での顔見世の12月興行を鑑賞した。夜の部はいつもより遅い午後4時50分の開演であった。

12 最初の演目は「義経千本桜 木の実・小金吾討死・すし屋」である。これは『平家物語』を底本としながら、平治の乱で源氏に敗れた平氏一族の残党に対する源氏の追討の一環のエピソードの物語である。平清盛の子で武勇・人格に際立って優れ人望を集めていた平重盛には維盛(これもり)という嫡子がいたが、源平合戦で敗れて自死したと伝えられている。しかし、この舞台では、実は生きて高野山に逃れた、ということになっている。
 維盛の妻若葉の内侍と、その子六代の君が、重盛にかつて仕えていた主馬小金五という若侍に連れられて、高野山の維盛をたずねる旅の途中、大和国吉野の街道筋の茶店に立ち寄っているところから「木の実」の舞台が始まる。幼い六代の君が、木から落ちた木の実を拾って遊んでいると、遊び人風の男が通りかかって、礫で木の枝を打ち、たくさんの木の実を落として六代の君を喜ばせる。ここまでは、ごく平穏な風景である。しかし実はこの男「いがみの権太」とあだ名の名うてのワルで、謀って小金吾から金を巻き上げる。この茶屋は実は、権太の女房である小せんが営む茶店で、六代の君と同じくらいの年頃の男の子が遊んでいて、後の展開の伏線となっている。
 「小金吾討死」の場では、若葉の内侍の一行が旅を行く途中で、大勢の源氏の追手に襲われ、大立ち回りの末、小金吾はついに切り殺されてしまう。舞台はさまざまな派手な振り付けが見もので、とくにたくさんの縄をつかった殺陣の振り付けがおもしろい。そこへ近くの村のすし屋の親父弥左衛門が通りかかり、死んだ小金吾を発見して、なにやら不審なふるまいを始めるところでこの場は終わる。
 最後の「すし屋」の場では、この店の主人弥左衛門が権太の父であり、ここに維盛が店の見習いの使用人に身を窶して滞在している。ここへ偶然若葉の内侍と六代の君が迷い込み、維盛と喜びの再会を果たす。その事情を、たまたま金の無心に来ていた放蕩息子の権太が立ち聞きして、悪知恵を働かそうと動き出す。親父の弥左衛門は、かつて重盛に命を救われたことがあり、命がけで重盛の子の維盛を救おうとしていた。この店の鮨は、桶に米を入れて発酵させる押し鮨で、そのため多数の空桶が置いてあるが、この取り違えがストーリー展開の鍵となり、悪だくみを図っていた権太は、弥左衛門にその罪を咎められて刺殺される。しかし、死に臨んだ権太は、実は父の意志を理解しており、弥左衛門が切り取って桶に隠していた小金吾の首を、維盛の首と偽って、さらに自分の女房と息子を、若葉の内侍と六代の君に取り換えて源氏の追手に差出して、自分と家族を犠牲にしてまで維盛とその妻子を救おうとしていたのであった。
 ワルの権太が肉親への愛情から、自己と妻子を犠牲にしてまで改心を示し、さらには褒美として与えたられ頼朝の陣羽織のなかに、維盛に対する「出家すれば放免する」とのメッセージがあって、頼朝の度量の大きさが表現されたり、とストーリーはかなり複雑である。
 さらに、父親に刺されて出血しつつも、その瀕死の苦しみの中で事情と心情を説明する権太の長い長い往生際は、百川敬仁『日本のエロティシズム』ちくま新書、2000によれば、日本特有の「もののあわれ」に関連して、観衆の情動を喚起する演出として古くからよく用いられた演出であるという。断末魔の苦しみにあえぎながら告白することが、権太の真心の真実を証明するのであり、劇中の権太という配役は、死を目前にしたこの短い時間のためにこそ生きている。歌舞伎舞台としては、やはり仁左衛門の年齢を感じさせない溌溂として機敏な美しさが際立つ。
 2番目の演目は、「面かぶり」という長唄囃子による舞踏である。13人の囃子をバックに、ただ一人鴈治郎が踊る。観衆全員の視線を、まさに一身に集めてのかなり長時間の演技は、さすがにプレッシャーがあると思うが、鴈治郎はさすがに安定感と安心感のある舞台であった。
 3番目は「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ めおのしらなみ)」で、「浜松屋見世先より」と「稲瀬川勢揃い」の2場である。女に化けて商店を荒らす弁天小僧菊之助が、店に寓居していた日本駄右衛門に正体を見破られ、それでも意地を張って金を奪おうとするお話しで、弁天小僧演じる愛之助のコミカルで軽妙な演技と、最近はテレビでもすっかりお馴染みとなった南郷力丸演ずる右團次との掛け合いが見せ場である。日本駄右衛門演ずる芝翫は、いまではすっかり貫録がついて、老練で重厚な演技といえる。勢揃いでの、それぞれゆかりの地名を随所に取り入れた口上は、やはり山場として聴きごたえがある。
 最後は「三社祭」で、清元による悪玉・善玉2人の掛け合い舞踊である。善玉の片岡千之助は孝太郎の子だが、祖父仁左衛門に似て美貌で、期待の18歳である。悪玉を演じた中村鷹之資は、五代目中村富十郎の古希のときの子で、少しぽっちゃりしているが、この人もまだ19歳の新鋭である。鷹之資の舞踏はとてもキレがあって、なかなか良かった。
 夜の部が終わったのは、午後10時少し前であった。さすがに顔見世だけあって、とても充実した、延べ5時間にわたる中身の濃い舞台であった。

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