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書籍・雑誌

ドミニク・フリスビー『税金の世界史』河出書房新社、2021

 税金の歴史の本だというタイトルで、しかもまだ発刊されて3か月の新しい本でもあり、読んでみることにした。私は、最近の話題としてアフガニスタンのタリバンによる政府打倒にともなう現地の混乱を典型とする、まともな税金徴収システムの無い、成熟からほど遠い未完成国家の危うさに関心があり、その意味で後進国や開発途上国の問題が関心対象であり、その観点からの税金徴収システムの歴史を見たかったのであった。
 この本はイギリス人によって書かれた、税制の不合理に対する批判と、望ましい税制を説くもので、対象となる国はおもに税金徴収システムをそれぞれなりに確立した先進国である。納税者も、ある程度担税能力を蓄積した国民を前提としている。そういう意味では、私の求める方向とはほとんどすれ違い、私が求める知見は得られなかった。もちろんそれは、この本や著者の責任ではなく、私の本の選択の間違いである。
 ただ、最後に著者が主張する「立地使用税(LUT)」や、公的サービスへのサブスクリプション導入の提案は、少なくともわが国を含む先進国にとっては、検討の価値はあると思った。

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柿埜真吾『自由と成長の経済学』PHP選書

 最近話題になっているという斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)を読んでみようかと思ったが、大学でも地元でも人気が高いためか図書館から借り出すことができず、代わりに地元の図書館ですぐにその話題についての新刊書を借りることができたという経緯で、この本を読むことになった。
 著者は、最近コロナ禍の蔓延などもあってか、急に「社会主義・共産主義を見直そう」という論者が頻出してきて、それなりに読者を獲得する事態になってしまっているという。池上彰、的場昭弘、中野剛志などがいて、なかでもベストセラーとなった斎藤幸平の本が注目を引いている。著者は、とくに斎藤幸平の著書を批判する目的でこの本を書いたとしている。
 私はまだ斎藤幸平の『人新世の「資本論」』を読んでいないが、もし柿埜が適冝引用しているとおりの内容なのであるなら、柿埜の批判は至極もっともである。
 まずは、現在のいわゆる資本主義経済・経済成長を悪とする見方に対して、社会主義・共産主義を除外してきた多くの国々での社会的成果をデータで示している。パンデミックが2000年近く以前から人類を襲い、今回のコロナ騒動とは比較にならない甚大な被害を与えてきたが、近年の経済成長で被害の程度が100分の1以下に改善したこと、感染症・新生児の死亡率・栄養失調などに対する著しい改善が進められてきたこと、気候変動に対してもデータが存在する近年100年程度の範囲でさえ被害(死者数)は100分の1程度まで激減していること、などの具体的データが示されている。マスコミが好んで取り上げるスウェーデンの少女の「気候変動で多くの人が苦しんで、死につつある。私たちは大量絶滅の淵にいる。」という根拠のない感覚的な訴えが何の意味を持たないことは以前からわかっていたが、ここではデータを示されているのでより鮮明に理解できる。
 そして、「脱成長」を目指し達成し「政府を離れた民間の『コモン』で経済を遂行する」というようなコンセプトでは、結局全体主義的独裁を招き、単に貧困と不幸になるだけだ、というのも当然である。柿埜は、決してソビエト連邦の失敗だけを論っているのではない。
 まあしかし、これから斎藤幸平『人新世の「資本論」』も読んでみて、柿埜の論考を再検証しておきたいと思う。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(68)

Conclusion
 私は歴史を読むことを日常avocationとしている。とくに軍を率いるときは歴史に学ぶ。軍人として戦争に関わる以上、私の仕事は常に部下の生死に直接かかわるのだから、自分個人の経験だけで判断して指示を出すのは、指令者として無責任だと思っている。ホワイトハウスに勤務するようになると、私の新しい任務に関わる先人の歴史上の行動や判断から、常に学んだ。
 私は20年前に、ベトナム戦争に対するホワイトハウスの思考と判断、そして決断の過程を批判する書“Dereliction of Duty(任務への怠慢): Lyndon Johnson, Robert McNamara, the Joint Chiefs of Staff, and the Lies that Led to Vietnam“ を書いた。しかし私自身が後にアメリカの国家安全保障の決定に直接かかわるようになるとは、想像もしなかった。
 私は、着任にあたって、ベトナム戦争をめぐる考察を参考にして、アメリカの戦略的競争力のために4つの方針を考えた。
①大統領に、唯一でなく必ず複数のオプションを提供する。大統領はその提案をもとに閣僚たちに意見を聞いて決断するだろう。そのとき複数の案があれば評価と議論に多面性と拡がりが期待できる。
②アメリカが直面する挑戦とその問題の本質の理解のためにできるだけ時間を使って、行動の目的を明確に設定する。ベトナム戦争では、これを怠って本質を理解しないために戦争の目的がアイマイなままで、負けるべくして負けたのだ。
③政府内のすべての部門で議論しつくした最良の結果として、複数のオプションを提示する。勝手に誰かを排除して立案してはならない。
④事態が目的に向かって直線的に進むとは考えず、なんらかの他からの介入が今後あることを前提に考える。
 歴史で学んだこととともに、私の実体験も私の責任の遂行を支えた。私自身が参加したアフガン戦争とイラク戦争での、戦略の過ちと一貫性の欠如の問題は、アメリカの軍事教育機関で学べる戦略、すなわち特定の目的のために役に立つものを理性的に組み合わせて利用する、といったような戦略の問題ではなかった。実際に行われた戦争の戦略が、アメリカ国民の息子や娘が血も財産も捧げて達成しようとする結果が、いかに価値あるものであるのかを、アメリカ国民に説明するものではなかったので、道徳的に筋道の立たないものであったと私は信じる。
 ベトナム戦争やアフガン戦争の経験から、4つの教訓を導ける。
①戦争は政治である。そして政治は戦争の期間を超えて継続する。戦争を繰り返すと、最初の戦争の政治的要素は次の戦争に残っているため、ふたつの戦争は独立ではない。
②戦争は人間である。ヒトは、怖れ・名誉・利益のために戦う。敵が何を考え、求めて戦っているのか、その信条・感情・怨念にまで遡って理解しないと、戦いを終わらせることはできない。だから戦略的主観化strategic empathyが必要なのだ。
③戦争は先が見えない。戦争は政治であり、人間であり、さらのそれらの、味方側と敵側の両方の動きを含めた相互作用の結果なのだから。だから撤退のスケジュールの宣言も、短期戦を前提したlight pootprint approachも、誤りである。
④戦争は意志のぶつかり合いである。勝つ見込みを納得できない軍は勝てない。
 ベトナム症候群Vietnam syndoromeというコトバが広く伝わり、誤った、勝てない戦争の代表のようになっている。ノーモア・ベトナムno more Vietnamはマントラとなって、この戦争経験からなにを学び取るべきか、の重要な議論を遮ってさえいる。アフガン戦争とイラク戦争に対しても、ベトナム症候群のアナロジーであまりに単純化して、一緒くたに評価してしまうのは、戦争の正しい意味や成果を無視するのみでなく、誤った方針、間違った判断をうやむやにしてしまう。
 アメリカ国内にも、現実主義者realistや新しい左派New Leftと呼ばれる人たちがいて、アメリカが外国に対して不干渉retrenchmentでありさえすれば、いずれの国も地域もアメリカを恐れずに済むから、軍事的な備えをやめて、安心して平和に暮らすだろう。戦争の費用も節約できる。アメリカの外国への介入こそが諸悪の根源であり、ジハード主義テロリストも発生する、と主張している。しかしそのような考えが間違っていることは、この書で縷々述べたとおりである。
 民主主義と外国に対して開かれた社会こそが、どんな人々にも幸福をもたらし経済的にも文化的にも繁栄できるという基本は譲れない。それを脅かす敵たる閉鎖的な独裁国家、専制体制国家、国家的泥棒、暴力的集団に対して自然な防衛力を保持し、同じ目標をもつ諸国と連携するのは、当然かつ必要なことである。
 私はこの書で、アメリカの戦略的競争力優位に貢献し、現状においても歴史的にも、少しでもアメリカの立場に対する理解を広めることに役立ちたいと思う。【完】

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(67)

第7部 Arenas
13. Entering the Arena
 2001年の初め、クリントン大統領は、インターネットやAIの普及が、中国を解放し民主主義化が進むだろう、と高らかに演説した。そのころそう考えたのは、クリントンだけではなかった。しかしサイバー技術も他の技術と同じで、それ自体は価値中立であり、その利用の仕方、使い方によって善にも悪にも役立つ。いまや中国は、サイバー技術やソーシャルメディアなどのAIを駆使して、歴史上なかった完成度の高い民衆掌握にもとづく独裁体制を実現した。インターネットソーシャルメディアを純然たる善ではなく、競争の場と捉えることは、危険を回避して自由な情報交換を実現するために必要な思考態度mind-setである。民主主義は、中国のGreat Firewallやイランのインターネット規制をバイパスする手段を開発しなければならない。しかしもっと大切なことは、そのような技術進歩を待つだけでなく、個人が自分で間違った情報、害悪を含む情報を選別する努力を継続し、その能力を磨くことである。
 宇宙も20世紀以降、戦場となった。1957年ソ連が人工衛星スプートニクを打ち上げてから、宇宙開発が軍事開発の競争の場となった。しかし冷戦が終わると、宇宙は世界に共通の利益を与える恵み深く希望にあふれたものと想定され、アメリカは宇宙開発に注力しなくなり、それまでの優位が消え去った。インターネットやサイバー技術にかんしてと同様に、ここでも戦略的ナルシシズムと希望的観測が、アメリカの立場を弱くしていった。2011年に有人衛星開発からアメリカが撤退したのちは、有人宇宙飛行計画はロシアに依存することになった。この分野でも開発を継続するロシアと中国は、その技術を拡張してアメリカとその同盟諸国を攻撃できる軍事技術のレベルアップを続けている。
 2017年宇宙技術の重要性を認識したトランプ政権は、副大統領Mike Penceの下に、1993年クリントン大統領が解散させた国家宇宙会議National Space Councilを再建した。私はNSCスタッフに、アメリカの宇宙計画の再活性化について国家宇宙会議を支援するよう依頼した。民間企業との協力関係を強化して官民一体で、中国とロシアにアメリカとその同盟諸国に対する攻撃を諦めさせるような、十分に高度な技術の獲得がアメリカに必須である。ただ、Tencentのように、アメリカのハイテク、とくに宇宙関連企業に大きな出資をしている中国企業もあり、警戒と対策が必要だ。
 冷戦時代のアメリカの軍事技術開発は、基本的に閉鎖的であり、技術に必要な秘密レベルのランクを付け、特許、応用の範囲、技術情報管理など、厳しく国の管理下に置いていた。しかし21世紀の先端技術開発は、基本的に開放性から始まっていて、目覚ましい革新的技術は、多方面から出資を得たオープンな研究から生まれている。一方で、中国はトップダウンの官民融合戦略のもと、アメリカなどから技術を盗み出し、戦略的新興産業Strategic Emerging Indestries (SEI‘s)に直接かつ集中的に投資して、アメリカに勝つことを目的に軍事能力向上を推進している。アメリカで開発された技術を中国=敵が盗み出し、安全保障と人権を脅かす技術に応用していることを、多くの学術関係者、民間セクター、そして政府がこれまで知らなかったのである。その大部分が国家保有あるいは中国共産党支配下である700社の中国企業が、アメリカが出資・運営するアメリカ株式市場で取引し、アメリカ市民はそれらに出資し、その会社は中国人民解放軍のために最先端技術を搭載した戦闘機、戦艦、潜水艦、無人攻撃システム、飛行兵器を供給するのである。2018年には、アメリカのベンチャーキャピタルの中国AI企業への出資額が、アメリカ企業への出資額を超えた。かつてレーニンが「資本家は我々に、彼らを吊るすロープを売りにくるだろう」と言ったが。
 これからは、データを支配することが決定的に重要となる。AI技術を結合したデータ支配こそ、グローバル経済の中枢を支配する。
 そして、最後に若者だけでなく生涯にわたる「教育」が、健全な社会、政治、さらに国の安全保障のために重要である。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(66)

第6部 North Koria
12.Making Him Safer Without Them
12.3.私の辞任とその後
 このすぐあとの2018年4月9日、私はホワイトハウスを去った。それまでにもっとしておけばよかったと思うこともあるが、ワシントンでも各部署でも、ホワイトハウスの嫌な雰囲気が感じられて、私が大統領や国家へもっと貢献できるのを妨げたことが残念だ。
 あれから2年が経つが、トランプ大統領のブレイクスルーを目指す最善の努力にも関わらず、北朝鮮の核・ミサイル問題は引き続き悪化の一途である。
 北朝鮮のチュチェ思想(主体思想)Jusheは、北朝鮮の自主独立前進・発展とともに欠乏=貧困を朝鮮民族の徳の中心に据えているため、金正恩は民衆に経済的繁栄を提示せずともよいとも考えられ、民衆の経済的繁栄がむしろ偉大なる首領の地位を危うくするかも知れず、そういう観点からもトランプ大統領が金正恩に薦める「繁栄」が、必ずしも北朝鮮側には外から考えるほどには歓迎されない可能性もある。
 現在でも圧力最大化戦略maximum pressureは生き残っているが、不完全にしか実行されていない。中国やロシアが北朝鮮の下層民を低コストの労働力として利用したり、密輸を助けたり、さまざまな不正な方法で北朝鮮への経済制裁に隙を提供している。他の国々は、この中国やロシアの行動を罰することが必要である。
 当面は北朝鮮の核・ミサイル問題にブレイクスルーが見込めないとするなら、制裁の強化、つまり現在の範囲の制裁実施の強化、人権問題の違法の摘発・糾弾、サイバー犯罪・情報犯罪の摘発・罰則の強化、などを圧力として追加すべきタイミングである。たとえば、すでにリストにあがっている範囲の制裁も現実には漏れがたくさんあり、それを忠実に厳格に実施するだけでも効果はかなり増大できる。2017年に決められた制裁は、規則の通りに実施されたならこれまでにないレベルの厳しい制裁となるはずのものであった。
 これらの制裁による外交の成否は、アメリカとその同盟諸国が北朝鮮の核・ミサイル保有を抑え込もうとする本気の度合いが、金正恩の核・ミサイルを獲得しようとする意欲に勝ると、金正恩に信じさせ得るか否かにかかっている。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(65)

第6部 North Koria
12.Making Him Safer Without Them
12.2.北朝鮮への対応方針
 北朝鮮に対する基本方針として、3つの原則で合意する。
①圧力最大化戦略maximum pressureを維持すること。ただ交渉のテーブルにつくだけのために妥協してはならない。Freeze for freezeを受け入れてはならない。
②必要なら北朝鮮に軍事力を行使する意志と実力を示したうえで外交すること。
③未熟な段階で、制裁を緩和してはならない。核・ミサイル計画に後戻りできる段階ではダメなのである。
 2017年9月の北朝鮮の核実験のあとの状況は、我々の圧力最大化戦略の効果が表れはじめていた。国連安全保障理事会が、これまでにないレベルの経済制裁を認めた。アメリカ・韓国・日本は、不測の事態に備えて訓練をして準備した。18か月間のトランプ政権の制裁は、8年間に行ったオバマ政権の制裁を上まわるものであった。金正恩は孤立し、圧力緩和を申し入れる判断を迫られた。金正恩が最初にアプローチしたのは、文在寅であった。
 2018年1月9日、DMZで北朝鮮と韓国の閣僚級会談が3年ぶりに行われ、文在寅が提案・招待する平昌冬季オリンピックへの招待を北朝鮮が受けることで合意し発表した。急いで女子アイスホッケーでの韓国・北朝鮮合同チーム参加が決められた。文在寅大統領は、平昌冬季オリンピック合同開催を契機として、一気に韓国・北朝鮮トップ会談を唱え、4月27日DMZで金正恩と文在寅の会談が実現し、二人の握手の写真が世界に報道された。このあと、韓国はワシントンに官吏を派遣し、金正恩がトランプ大統領に会いたがっていること、文在寅がトランプ大統領に北朝鮮対応への参加をのぞんでいること、を伝えた。私はトランプ-金正恩首脳会談に懐疑的であった。これは金正恩の制裁緩和の要請が目的に違いないからだ。中国やロシアは、制裁緩和に前向きだろうし、圧力最大化作戦はまだ始まったばかで、2019年末ころまで経たないと十分な効果は見込めない。金正恩は、平昌冬季オリンピックを利用して、文在寅の助けを借りてトランプ大統領に交渉しようとしている。トランプ大統領に直接会うことができれば、金正恩にとっては他の国々のリーダーたちから注目を浴びることもでき、彼にとって利益は大きい。
 しかし私はまた一方で、トランプ大統領がこの提案をきっと受け入れるだろうことも知っていた。北朝鮮の新しいリーダーと会う世界最初のトップとなることは、抵抗しがたいだろう。彼は個人的関係のなかで問題を解決するスキルに大きな自信を持っている。私たちは、来るべき首脳会談で、いかに圧力を維持できるか、国務省他の諸部署の人たちと話し合った。しかし私はその一方で、期待もあった。北朝鮮は従来知る限りのアプローチでは変化させるのは難しいかも知れないし、またトランプは普通のヒトではない。思い切ったトップダウンの結果が生まれるかも知れない。金正恩にしても、彼の父とは違うキャリアーを持ち、すべてを独断で決められる立場にある。
 鄭、谷内と私の3人も、このトランプ-金正恩首脳会談について議論した。下記の3点がそのまとめである。
① 朝鮮半島内の関係改善は緊張を緩和するだろうが、我々は後戻りできない検証可能な非核化への前進があるまでは、制裁を維持するべきだ。
② 国連安保理の決定事項は、北朝鮮の行動に対するものであり、アメリカ・韓国の対応や行動を律するものではない。とくに我々はfreeze for freezeや予備的なpreliminary合意には応じるべきでない。圧力最大化の方針に反するからである。
③我々は中国、ロシアを含むすべての国々がともに、金正恩が平和と繁栄に我慢することがより良い機会となる、と促すことを望む。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(64)

第6部 North Koria
12.Making Him Safer Without Them
12.1 北朝鮮の核・ミサイル保有の目的
 私は、韓国の鄭義溶とも日本の谷内正太郎とも直接に数回会ったし、三人の会談も行った。いずれもきわめて優れた外交官である。しかし現在のところ韓国と日本のあいだには、歴史的経緯から互いに強い反感がある。従軍売春婦問題confort lady as wartime sex slavesと徴用工問題forced lavor in Japanese indestriesなどである。しかし韓国、日本、そしてアメリカにとって、3か国のゆるぎない結束は安全保障のために必須である。3か国の分裂を狙い、望んでいるのは中国であり、北朝鮮、さらにロシアである。中国は、韓国と日本に対して衰退していくアメリカと連携するのは冷戦の名残にすぎず、これからは発展していく中国に服従するべきだと考えて両国に迫っている。
 私がアメリカ・韓国・日本の上記メンバーで懇談したかったのは3点であった。
①北朝鮮の核の脅威の本質を正確に理解すること
②北朝鮮の金体制が我々の安全保障の危機となるのを回避するために合意すべきこと
③事態を進めるために我々のリーダーたちおよび政府が、より一層注力すべきことを明確にすること
先ず北朝鮮の金正恩体制が何故核兵器とミサイルを欲しがるのか、その動機と目的についての理解が重要である。
 北朝鮮は自衛のために核・ミサイル保有を求めているのだから、最もコストがかからずリスクも少ない対応策は、北朝鮮の核・ミサイル保有を認めたうえで、専らその使用を阻止することだ、と考える人たちがいる。アメリカやその同盟諸国が北朝鮮を敵視し攻撃してくることを恐れて、それを防ぐために、自衛のために最終兵器を所有する、との考えである。私はこれに賛成できない。これは、冷戦時代の核バランスの系譜をひく危ういアナロジーだ。私たちは、金正恩体制が防衛を超える目的で核・ミサイルを使用する可能性を考える必要がある。金正恩はウルトラナショナリスト・リーダーの3代目として、国民に向けて「最終勝利」、とくに南朝鮮の併合を約束することで権力の正統性を主張している。少なくとも、それが核・ミサイルに、他を犠牲にしてまでも莫大な資源を投入する言い訳になっていることに注目すべきだ。韓国を護ることがアメリカにとってリスクが大きすぎることを、アメリカに知らしめて、朝鮮半島から引き揚げさせ、金正恩の下に朝鮮半島を統一することが、北朝鮮が目指すことであろう。すでに大規模な通常兵力を保有している北朝鮮は、もし本当に防衛だけが目的なら、核・ミサイルは必要ない。21,000もの遠距離火器は、境界非武装地帯DMZからわずか31マイルのソウルを直ちに爆破できるのだ。朝鮮戦争は、先に北が侵攻して始まった。朝鮮戦争のあとも、なんども韓国に攻撃を仕掛けており、スパイ、誘拐、テロも実行している。もし金正恩体制が核・ミサイルを完全に所有したら、侵略戦争を引き起こさないとは決して言えない。アメリカまで届く核ミサイルを所有したら、アメリカに朝鮮半島や日本から出て行けと脅迫することもできる。
 もう一つの懸念は、核・ミサイルとその技術を他国、さらにテロ組織など非国家的武装集団へ販売することである。たとえばイスラエルの諜報機関は、すでにシリアに対して北朝鮮の核関連技術の提供の具体的な証拠を把握している。北朝鮮は、すでにイエメン、リビア、スーダンなどへ国連の禁止条項に違反して武器を販売している。核技術をイランと共有していることも知られている。人気ブログランキングへお気に召せばクリックください

H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(63)

第6部 North Koria
11. The Definition of Insanity
11.5.根本的な北朝鮮対策の転換の試みと挫折
 韓国はアメリカが提案したTHAAD(終末高高度防衛ミサイルTHAAD:Terminal High Altitude Area Defense missile)の韓国内配備について、中国から強力な圧力をかけられ、実施に慎重になっていた。これは費用が大きいため、アメリカ国内からも、とくにアメリカ孤立主義的な人々からアメリカの負担で韓国に設置・運用することに否定的な意見もあった。韓国とのこれら種々の紛糾から米韓自由貿易協定(KORUS FTA)の是非についても議論が波及していた。
 2017年4月鄭義溶が、恐る恐るTHAADの延期を私に打診してきたときは、丁寧にTHAAD配備の必要性を説明して、なんとか理解してもらえたと思っていた。この件は、6月に文在寅大統領がワシントンにトランプ大統領を訪れたときにも、4月に私が説得した方向と内容で合意があったので、ひとまず安心していたが、文在寅大統領は、韓国に戻ると発言を翻してTHAADに慎重になり、トランプ大統領を怒らせることになった。
 いろいろ心懸かりのこともありつつ、北朝鮮への方針を戦略的忍耐strategic patienceから圧力最大化maximum pressureに転換することについては、トランプ大統領をはじめとするワシントン内の合意を固めて、良いスタートを実現できたと思っていた。実際、秋ごろまでに北朝鮮に対する経済制裁の効果は次第に厳しくなり、中国でさえあからさまな支援を抑制し、北朝鮮をかなり厳しく追い詰めた。しかし北朝鮮の苦境が現実に深まると、ワシントン内の一部から規制緩和をほのめかすような発言も出てきた。「圧力」を「平和的圧力」と言い換えるなどの小さな綻びである。
 そして圧力最大化の努力は、ついに2018年6月シンガポールのトランプ-金正恩会談でのトランプ大統領の北朝鮮批難の停止と「金正恩は国民を大事にするいいヤツだ」のツイッターで停止してしまったのである。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(62)

第6部 North Koria
11. The Definition of Insanity
11.4.朝鮮半島の現代史
 第二次世界大戦が終わって、朝鮮半島は日本支配から解放された。アメリカとソ連は、国連の合意のもとに、それぞれ南半分と北半分を占領統治した。1948年に国連の信託統治の期限が尽きたが、アメリカとソ連は、以後の統治について朝鮮半島を統一することに合意できなかった。南朝鮮は、総選挙で選ばれた、プリンストン大学から政治学博士号をとった外交官李承晩Syngman Rheeが、アメリカからそれまでの占領地を引き継いだ。北朝鮮は、ソ連が「朝鮮民主主義人民共和国Democratic People‘s Republic of North Koria(DPRK)」をつくり、野心的な共産主義ゲリラ出身の若きリーダー金日成Kim Il-Sungをリーダーに据えた。理念的に初めから相いれない2つの朝鮮は、たがいに相手を自分の支配下に統一することを目指して対立・競争した。
 南北間で戦争発生の可能性を知りながらも、新しく着任したアメリカ軍司令官James Forrestalは、アメリカ軍の韓国駐留はアメリカ軍の資源の流出だと、懐疑的であった。駐留を命じられた兵士やその両親たちは、不満を感じ楽しくないだろうとも言った。これを知ったスターリンは、自信を増して、金日成に韓国への大規模侵略の準備許可を発した。1950年6月25日、北朝鮮軍は38度線を超えて南朝鮮に侵攻してきた。それは驚くべきことでもなく、すでに1949年2月CIAの極秘調査は、「韓国からのアメリカ軍撤退は、すぐに侵略を呼び込むだろう。妥当な規模のアメリカ軍の存在は、侵略をくじくだけでなく、将来のあらゆる侵略に対して、南朝鮮に防衛の意志と能力を与える。」としていた。1976年8月、韓国・北朝鮮の境界線上の板門店で、視界の妨げとなるポプラの木を切ろうとしたアメリカ軍工兵と北朝鮮軍兵士が乱闘となり、米軍将校2名が伐採用の斧で殺害された。この事件はポプラ事件と呼ばれるが、ときのカーター大統領は、アメリカ軍の韓国からの撤退を真剣に提案した。このように、孤立主義あるいは対外不干渉の指向は、アメリカの歴史に常に付きまとっている。しかしそれが行き過ぎて実行されてしまうと、この書でもすでに種々述べたように、大きな問題が発生することがある。それを防ぐためには、当事国とたがいに労力や痛みを分け合う真の協力の構築が必要なのである。
 もし北朝鮮が崩壊して韓国が統一国家に併合したとすると、中国は西側の影響を防ぐために最善の手段として、なんとしても韓国とアメリカの間に楔を打ち込もうとするだろう。その最大の壁が、アメリカと韓国の同盟である。アメリカ軍の韓国からの撤退で、もつとも利益を得るのは中国であることは明確である。中国は、西側との緩衝地帯として北朝鮮を最大限に利用する。北朝鮮問題は北朝鮮とアメリカの間の問題だと主張しながら、北朝鮮の理不尽な行動、つまり核兵器開発やミサイル発射などに対して、中国は誠実な仲介者のふりをして、いつも「凍結のための凍結freez for freez」を繰り返し提案する。北朝鮮が実験を一時的に中断する見返りに多額の資金を北朝鮮に得させ、そのうえ韓国とアメリカの同盟にかかわる、たとえば合同演習を中止させようとするのだ。
 中国は、北朝鮮の核武装が中国にも、世界全体にも、とても悪いということを認識しなければならない。北朝鮮の核兵器は、単に直接中国に脅威をあたえるだけでなく、他の国々、たとえば日本に、北朝鮮から防衛するために自国も核武装が必要だと考えさせるものだ。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(61)

第6部 North Koria
11. The Definition of Insanity
11.3.アメリカと韓国の協調
 アメリカと韓国は、意見不一致のままで新しい戦略を進めてはならない、と鄭義溶と私は意見が一致した。
私は2つの誤った前提条件をまず否定しなければならないと言った。
①太陽政策Sunshine Policy
北朝鮮を経済的にオープンにすれば、体制の性格が自然に変革するとの考え。
②戦略的忍耐strategic patience
北朝鮮の体制は崩壊の危機に瀕しており、核武装実現までは続かないとの考え。
 先ず、アメリカ・韓国・日本が戦略で完全に一致して、北朝鮮非核化のために、多国間協力により北朝鮮に圧力を加え続けることがスタート点である。北朝鮮に、体制維持よりも核・ミサイル計画の方がより危険であることを理解させる現実的な戦略が必要だ。
 懸念されるのは、韓国とアメリカとの合意だ。まず、文在寅大統領Moon Jae-inの太陽政策あるいはMoonlight Policyは、アメリカにとって採用が難しい。トランプ大統領の支持者には、経済的民族主義者economic nationalistがいて、アメリカ孤立主義の傾向がある場合がある。一方韓国の文在寅Moon Jae-inを支持する人たちのなかには、左派的傾向からアメリカ資本主義、アメリカ帝国主義に反発してアメリカへの依存を嫌う傾向がある。これらが対立・衝突すると北朝鮮に対抗することがきわめて難しくなるだけでなく、同盟に致命的なダメージを与えかねない。朝鮮半島はアメリカから遠く離れているけれども、アメリカが世界での役割を考えるときの議論の中心でもある。

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