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書籍・雑誌

H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(7)

第1部 Russia
1. Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.2. Patrushevとの会談
 Patrushevの発言は、なんら新しいことも驚くような中身もない。私は時間の浪費をしないために、なんとかして互いの関心を意味のある理解に導こうと、4つの提案をした。
 1つめは、両国は互いに衝突を防ごうとしているのに、クリミア併合とウクライナ侵攻は、第二次世界大戦後初めての力による変更であるのみならず、これまでにない軍事力の行使であり、あきらかに平和維持への脅威である。些細なきっかけで、思いがけず甚大な被害をすべての当事者にもたらした第一次世界大戦の例がある。モスクワもワシントンも、次のロシアの試みが、それはたとえロシアがNATO発動の閾値を下回ることを意図していたとしても、本格的軍事衝突のトリガーとなりかねない深刻なリスクを認識しなければならない。ロシアのウクライナ侵攻とクリミア併合に対するアメリカとEUの制裁が、単にロシアを罰したいのではなく、ロシアがこれ以上の行動に出ることのないようにしたいがためであることを、私はPatrushevにわかって欲しかった。Patrushevは、われわれがきわめて危険な流動的な状況に入っていることについては理解したと思う。さらにもうひとつPatrushevにわかって欲しいのは、アメリカはプーチンのやり方Putin’s Playbookの危険性、とくにRGNW(Russian new generation warfare)の危険性にすでに気づいている、ということである。ロシアのクリミア併合・ウクライナ侵攻は、昔からのロシアの軍事戦略maskirovka(マスキロフカ)、すなわち戦術的欺瞞、騙し、否定、虚偽の軍事的応用戦略に則っているといえる。Putin’s Playbookも、否定の準備としての偽情報が駆使されていて、さらに破壊的軍事技術とサイバー空間を利用して、従来のあるいは新しい軍事力を行使することが加えられている。ロシアは、アメリカが大国間のパワー競争が過去のものとなったとの幻想で独りよがりになって油断しているのを見て、攻撃的になってきている。
 2つめは、ロシアもアメリカも、それぞれ独立した国家として主権を維持して自分の国を統治し続けたいと思っている。しかしロシアの執拗な偽情報、プロパガンダ、政権転覆の攻撃は、我々の同盟国にとって直接的で深刻な脅威である。このような行為は、ロシアから被害を受ける西欧などの国々を対ロシアで結束させることになるので、こんなことをやめることこそがクレムリンにとって利益となるはずである。最近のロシアの行為は、失敗したり逆効果を招来している。たとえば2017年フランス大統領選挙で、ロシアはマクロンを妨害したが、結果はむしろマクロン支持票を増やしてしまった。2016年のモンテネグロのNATO加盟を問う議会選挙でロシアはクーデターを煽ったが、失敗してモンテネグロはNATO加盟を果たし、EU加盟をも目指している。クリミア併合・ウクライナ侵攻は、トランプ大統領によるロシア経済制裁を結果した。これらの話題に対して、Patrushevは思わず苦笑いを漏らした。おそらく自分が先ほど否認したロシアのそれらの妨害行為の存在を、よく知っているという証しだろう。
 3つめは、アメリカ、ロシアともにジハード主義のテロ組織から、我々の国民を護らなければならない。そのためには、ロシアがタリバーンへ武器を提供したり、アメリカがテロ組織を支援しているとの偽情報を拡散することは、ロシアにとって長期的利益にはならない。さらにロシアがイラン、イラクの代理戦闘グループ、Bashar al-Assad軍などに対して支援することは、人権問題や難民問題を長引かせるのみでなく、ISISやAl-Qaedaなどの宗派的ジハード活動を助長することになる。ロシアのイランへの支援が、イランに後押しされるジハード・テロ組織の活動を助長していることをPatrushevに理解して欲しかった。
 最後は、アメリカと協調すればロシアにも利益があるような場合に、ロシアが反対の行動をとるケースを取りあげた。ロシアが国連の北朝鮮への制裁に反対することがひとつの例である。北朝鮮の核ミサイル獲得は、直接的にロシアに脅威となるのみでなく、近隣諸国、たとえば日本に核兵器保有の必要性を与える。また北朝鮮は、他国あるいはテロ組織に核兵器を売る、あるいは技術支援をする可能性も大いにある。すでにシリアに核兵器を売ろうとしていて、2007年イスラエルがシリアの建設途中の核施設を爆撃したとき、北朝鮮の技術者から死者がでた。もし北朝鮮が核兵器をテロ組織に売るようになれば、世界でどの国が安全を確保できるだろうか。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(6)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.2. Patrushevとの会談
 私がPatrushevと会ったのは、彼の申し入れから1年も後となった。それはRex Tillerson国務長官に遠慮していたからであった。ティラソンは、トランプ─プーチンのトップ会談の前に、自身とLavrovラブロフ外相との間にルートを確立して、事前になんらかの有効な合意を形成しておきたいと考えていたからである。しかしラブロフはソ連時代の旧式の外交官で、新しいイニシアティブに懐疑的で、かたくなに西欧を批難し、2003年以降のアラブの春と呼ばれる一連の政変をアメリカの策謀と断定している。ラブロフは、自律的に新しい解決を見つけるつもりも、基本的な決断をする器量にも欠けている。いまでは、プーチンにごく近いところにいてアメリカの大統領補佐官のような立場のPatrushevこそが、対話に必要な人物である。私と同じような立場としてロシアに仕えるPatrushevとの会話ルートこそ、互いの政策や行動の背景にある関心や意図を探り合える。最初のステップは、消耗的な競争、最近のシリアでの事件のような危険な衝突について、来るべきトランプ─プーチンのトップ会談で具体的で有効な合意を実現するために、より深く準備できる範囲を探ることであった。
 Patrushevとの会談のためにジュネーブに向かう飛行機では、ロシア研究者Dr. Fiona Hillとロシア担当若手官僚のJoe Wongとが同行していた。 Fionaは、プーチンは常に戦略的に考え、計画し、行動するけれども、偶発的でありステップバイステップの青写真はないのが特徴だと。Joeは、差し当たってのアメリカとロシアの関係構築は見通せないという。それはロシア国内の反プーチン派を抑えるために、外に敵をつくり強硬姿勢を貫くことで、国内から関心をそらす必要からだと。2018年3月には、フロリダを攻撃できる新しい核弾道ミサイルのプレゼン用デモ・ビデオまで公開した。
 Patrushevは、1970年代にKGBに入り、その後継組織FSBのトップだったプーチンの跡を継いだ。プーチンもPatrushevも諜報機関の人間こそ真の愛国者であると信じており、また「知識こそが力だ」と信じている。彼らのその「知識」は、不正工作を含めてプーチンをロシアのトップに上りつめさせ、20年以上もその地位を維持させている。探り当てた裏情報で、1990年代のロシアの「自由化」時代に大儲けしたビジネスマンたちを抽出し、独裁的権力で人質に取り込んだ。プーチンは、パトゥルーシェフを新設した経済セキュリティー保安担当部門のトップに任命している。
 会談がはじまった。Patrushevは、部下2名を書記としてともなって現れた。私は彼らにコーヒーを出したが、彼ら全員がまったく手を付けなかった。Patrushevが話すことは、クレムリンの世界観の繰り返しに終始した。クリミア併合とウクライナ侵攻は、すべてアメリカとEUの極右からロシアを護るための自衛のための行動である。NATOの旧ソ連圏への拡張はロシアへの脅威である。アメリカとその同盟国は、アフガニスタン、イラク、リビアへの悪意に満ちた介入によって、広域中東のテロ発生をもたらしている。そして2016年のアメリカ大統領選挙へのサイバー攻撃や西側の民主主義攻撃への、ロシアの関与を否定した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(5)

第1部 Russia
1.Fear. Honor, and Ambition: Mr. Putin’s Campaign to Kill the West’s Cow
1.1.ロシア安全保障担当者からの会談打診
 私がアメリカ国家安全保障問題大統領補佐官に就任してすぐの2017年前半に、ロシア安全保障協議会のNikolai Patrushevから申し入れがあり、決して友好的な相手ではないが、2018年2月にジュネーブで会うことになった。トランプとプーチンのレベルの下に、ホワイトハウスとクレムリンの間のコミュニケーション・ルートをつくっておくことは必要だと考えた。ロシアとアメリカはもちろん緊張した関係にあるが、まったく関係がないよりなんらかの関係は維持した方がよい。些細な誤解が思いがけない戦争を引き起こすことさえあるのだ。すでにロシアが、アメリカやその他の民主主義国家に対して、密かに転覆を図るようなさまざまな攻撃をしていることはわかっていた。
 2016年のEU選挙とアメリカ大統領選挙では、ヨーロッパとアメリカの民主主義に社会的混乱を導こうと、サイバー攻撃をしかけてきた。2018年には、NotPetyaという身代金詐欺ウェアで、ウクライナ政府関係会社、エネルギー会社、地下鉄、銀行が攻撃を受けた。これはさらにヨーロッパ、アジア、アメリカに拡がり、$10B以上の損害を世界中に与えたが、ロシア政府はいつものように関与を否認している。
 私はRussia new generation warfare(RNGW)を何年間も追跡し、その進化を見てきたので、軍事力、政治、経済、サイバー、情報手段などを駆使し組み合わせて攻撃してくるその背景の動機などについて、Patrushevと話したいと思った。私はPatrushevに、それらのようなロシアの危うい戦略が2国間の衝突につながる危険性があることを理解して欲しかった。実際にシリア内戦など、具体的に懸念は増している。2019年3月ロシアのValery Gerasimov将軍は、シリア内戦を「ロシアにとって、国境を越えた国益の防衛と前進の成功例」と声明を出した。ロシアは、シリアのBashar al-Assad大統領の政権をその誕生から支援しているが、Basharは2013年8月、毒ガス兵器で数百以上の子供を含む4万人以上の罪のない民間人を殺戮した。これが最初ではなく2012年12月、そして2014年8月にも、民間人に対して14回以上殺戮行為を繰り返している。オバマは、2012年このような酷い兵器による虐殺はレッドラインを越えている、と演説したのにも関わらず、結局オバマはいつものようになにもしなかった。プーチンは、アメリカはこれからも何もしてこないと判断したようだ。自信を得たプーチンは、2014年春、クリミアを併合し、東ウクライナに侵攻した。そしてプーチンは2015年9月、虐殺を繰り返すBashar al-Assad大統領を支援するために、シリア内戦に直接介入した。トランプ大統領は2017年4月、アサドが神経ガス(サリン)を使った大量殺戮をしたので59発のミサイルで空爆を行った。この結果、2018年までにロシアのシリアへの軍事支援は縮小した。
 私がPatrushevとあった日の1週間前には、北シリアでロシアの傭兵とアサド支援軍とが、タンクの遠距離砲でアメリカ軍とクルド人軍に攻撃してきた。さいわいこれは敵側のお粗末な行動のお陰で、またシリア解放軍の加勢もあり、アメリカ側は死者なく、敵側に200人以上の死者を出す結果となった。こうして、すでにアメリカとロシアの地上戦が始まりかけていた。長い冷戦時代にも、アメリカとロシアの直接の戦闘はなかったのに。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(4)

Introduction
21世紀の世界
 世紀がかわり2000年代に入ると、3つの大きな問題が発生した。
 最初は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロである。アルカーイダが犯行声明を出したこの事件は、3,000人以上の無辜の死者とそれ以上にのぼる身体的・精神的後遺傷を残した。直接的な物的損害のみでも$36Bを超えるうえ、世界経済に与えた影響ははかり知れない。
 二つ目は、イラクとアフガニスタンでの、予想外に困難と時間を費やす戦争である。
 三つ目は、2008年のサブプライムローン問題に発する世界的大不況である。1929年の大恐慌以来の甚大な経済低迷をもたらした。アメリカのみで$450Bを超える実損が発生し、失業問題も世界的に波及し深刻化した。
 9.11同時多発テロ事件から7年間がすぎた2008年ころには、アメリカの冷戦終結・勝利からの高揚感・楽観主義・自信過剰が色褪せて、悲観主義や諦観すら出てきた。2009年就任したオバマ政権は、もともとイラク戦争に反対していたこともあり、外国への関与に懐疑的な方針に全面的に切り替えた。アフガンからは軍隊を引き揚げ、国内経済低迷への対処、アメリカの国民再建nation building at homeを主張した。オバマは、「世界の問題発生の元凶は、西欧帝国主義である。強すぎるアメリカは、世界の問題を解決するより造り出すことに貢献しやすい」と主張する新左翼New Leftsに同情的だったとジャーナリストJeffrey Goldbergはいう。
 世界をアメリカとの関係のみで考え、世界の将来がアメリカの決断だけで決まる、という思考を戦略的ナルシシズムstrategic narcissism、とMorgenthauは名付けた。自信過剰overconfidenceもその反対の諦念resignationも、ともに戦略的ナルシシズムの産物なのだ。G.W.ブッシュは自信過剰から戦争のリスクを過小評価して2003年のイラク戦争をはじめてしまった。そのあとオバマは、諦念から無作為がもたらすリスクを過小評価して、2011年イラクの戦地から撤退し、2013年には北シリアからも撤退し、シリア・アサド政権の化学兵器による民間人大量殺戮を見捨ててしまった。いずれも希望的観測wishful thinkingと、厳しい現実harsher realitiesからの逃避にもとづく戦略的ナルシシズムの結果なのだ。状況がもとめていることへの対応ではなく、当事者purveyorが好ましく思うことをやってしまっているのだ。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(3)

Introduction
東西冷戦の終結
 1989年まで続いた東西冷戦は、民主主義・自由陣営側が共産主義・全体主義陣営に勝利して終結した。我々は自信を強くした。しかし自信を持ち過ぎた。自信過剰は、独りよがりにつながる。アメリカと同盟国は、開かれた自由な社会を維持していくためには、自由・安全・繁栄を護るために、努力し競争しなければならないことを忘れてしまった。私は、自信過剰が成長していくのを、目の当たりにした人間である。
 1989年に前後して、ドイツのベルリンの壁の崩壊を直接現地で見た。その直後に「鉄のカーテン」から遠い場所で、思いがけない問題が発生した。1979年イラクの独裁的統治者に上りつめたSaddam Husseinが人口2,200万人のイラクで、クルド人18万人を含め、100万人以上の人々を殺戮し、1980~1988年の8年間イラン・イラク戦争を行った。それが勝者のないまま終わると、その戦争で費やした金を不当に挽回しようと、1990年隣国クェートを侵略した。Saddam Husseinは、ロシアからスターリンの全体主義を導入して過酷な独裁国家を支配した。彼のクウェート侵略に対しては、アメリカなど諸国が国連軍を編成し、Saddam Husseinのイラクを、湾岸戦争で短時間に打ち負かした。しかし戦争後の現地の安全を維持し、繫栄させ、安定した統治ができる政府をいかにして構築して残すか、などの重要な戦略が欠如していた。
 冷戦に勝利し、湾岸戦争にまた勝利したアメリカは、世界で無比の唯一のスーパー・パワーとして、独善的境地に入ってしまった。ハンス・モーゲンソーがその著『ナルシシズムのルートThe Roots of Narcissism』で説いたように。
 しかしまもなくアメリカの単独スーパー・パワーに対抗して、かつての独裁国家が戻ってきた。
 最初は、1990年代のプーチンのロシアである。アメリカの研究者は、プーチンがロシアの伝統的な独裁国家の道筋への回帰を明確に目指している、と報告した。ロシアは当初、自由化、市場経済による発展を指向したが、すぐに破綻・失敗が明確になった。それに代わって、独裁国家への意志が復活台頭してきた。かつてのソ連の支援を失った北朝鮮は、飢餓に苦しみ、恐喝で金を得るために核武装を始めた。偉大なる首領Great Leader金日成をDear Leader金正日が継ぎ、その間イランではイスラム革命が起こって、これも独裁体制となった。
 次いで、新しい大国Great Powersの競争がはじまった。中国は1991年の湾岸戦争を注視し、1996年の台湾海峡危機へのアメリカの反応になにも反応できず困惑し、アメリカ海軍の中国に対する圧倒的優位を経験した。そして経済開発に励み、PLA: Peoples Liberation Army(人民解放軍)を成長させた。そして現在は「アメリカ軍の覇権」に対抗するようになった。中東のイスラム諸国のジハード活動も活発化してきた。そのさまざまなテロ事件も発生した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(2)

Preface
 この本を書くことになって、友人、家族、編集者、その他さまざまな人々が私への期待を言ってきた。トランプの支持者たちは、トランプが多少乱暴でも、アメリカの国益を増進することを実行したことを書いてほしいと。またトランプへの反対派の人たちは、トランプが不遜・偏狭・感情的で大統領に不適な人物であることを書いてほしいと。それらのために本を書くことは、売り上げに役立って儲かるかも知れないが、多くのまじめな読者を満足させることはできない。国家の安全、自由、繁栄に対して挑戦(攻撃)があり、国家として対応(防衛)が必要となる問題にかんして、読者に有益なよりよい理解を与えること、それにより読者にその対策についてより有意義な議論をしてもらうことを目指して書いたつもりだ。


Introduction
ホワイトハウスからの電話
 2017年2月17日、ホワイトハウスのKatie Walshから電話があり、アメリカ国家安全保障問題の大統領補佐官National Security Adviserへの就任を打診された。そのときは、私はちょうど2014年のロシアのクリミア併合、ウクライナへの侵入問題にかんする研究状況について、アメリカ外交政策研究所Foreign Policy Research Instituteで、ロシアの多面的な新しい軍事能力Russian new generation warfare (RNGW)に対して、アメリカと同盟国がこれからどのような軍事能力を備えるべきかを議論していた。ロシアのプーチンは、いつもアメリカと同盟国、NATOが対抗的手段を取らざるを得なくなるその閾値の少し下までのレベルで攻勢をかけて目的を達成するよう行動する。プーチンは、第二次世界大戦後世界ではじめてヨーロッパの国境を書き換えたのだ。プーチンは、この成功で自信をつけてこれからますます攻撃的になるだろう。
 この直後、私はすでにアポがあったPhiladelphia Inquirer(軍事外交専門雑誌)記者のTrudy Rubinと話した。彼女は中東問題に詳しく、私もたいへん勉強になっている。第二次イラク戦争以後の多くの困難な問題を早くから予言し、かねてよりアメリカのwillful blindness(恣意的無関心・無視)と準備不足の問題を指摘していた。そして、アメリカがイラクに介入することの良し悪しを延々と議論するより、誰がどういう理由でその介入が容易だと判断したのかを考える方がはるかに有意義だという点で、私たちは同意見だった。
 この直前にホワイトハウスから入った突然の電話のことを伝えると、彼女は私の補佐官就任を支持してくれた。彼女はトランプ支持者ではなかったが、トランプは選挙で選出された大統領であり、私にやるべきことがあるはずだと。
私はこれまで軍で働いてきて、献身的で勇敢な同僚たちと有意義かつ充実した人生を重ねることができた。しかし、同時に素晴らしい仲間が戦場で死ぬのを何度も見て、激しい失望・挫折frustrationsも経験した。その主な要因は、軍の現場の現実realityと、ワシントンで政策の前提となっている仮説・憶測assumptionsとの乖離である。私は、これまでに見られないユニークな新大統領のもとで、私の努力でこの乖離を埋めて、軍の不満・失望frustrationsを少しでも軽減したい、ということが目標であった。そして、私は党派的・政治的な行動をとる気持ちは一切なかった。第二次世界大戦を勝利に導いた尊敬する先輩George C. Marshallは、ついに一度も投票すらしなかった。私は、他の5人の大統領に対してと同じ姿勢で私のやるべきことに全力をつくすと決心した。

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H.R.McMaster"Battlegrounds",2020.9(1)

まとめ
 アメリカに在住する友人から薦められてこの書を知り、読んでみることにした。ただ、いろいろ当面の雑事があったりして、教えてもらってから購入して読み始めるまでに何か月かが経った。
 さて読み始めると、この書は著者自身が実際に問題の最前線に従事していたこと、しかもこの場合自他の生命に直接関わる軍および戦争の最前線を経験したことを前提に思考して書いていることから迫力も興味深さも申し分なかった。ただ、テーマの内容は、平和ボケともいわれる日本に住んで安穏な日々を過ごす平凡な市民の私には、日常的でないものが多く、読み進めることが容易であったとは言えない。Battlegrounds
 著者が軍隊に勤務して、もっともフラストレーションを感じるのは、軍事や戦争の現場の真実の状況を、文民統制に基づいて軍に指示を与える立場のワシントンの人たちに正確に伝えることの難しさであり、実際にはその間にかなりの乖離があるという現実である。さらにその延長として、軍事・戦争の理解と決断において、ワシントンの思考の視野が現実には狭すぎること、すなわち考える対象の範囲が、その時点の国内政治の懸念事項と個別の軍事的行動の周辺のみに限定されがちで、時間的(歴史的)にも空間的(影響がおよぶ地政学的拡がり)にも、近視眼的思考に陥り易いという問題である。
 この書は、560ページというボリューム以上に記述が豊富で内容が多く、簡単にまとめづらいけれど、著者の主張の要点は以下のようなことだと思う。
 戦争などの軍事的活動を計画するにあたっては、問題の現象を議論するより前に、まずは問題の本質を徹底的に深く追及して、その問題の原因を明らかにし、当事者すべてが共有できるわかりやすい目的を定義し、成否が評価可能な形として目標を明確に設定する。その上で戦略と戦術を立案する。最終的になにを求めて軍事的行動を進めているのか、当時者の全員がしっかり理解できなければ、戦争に勝つことはできない。
 問題の本質を考えるには、歴史的な時間軸、地理的な空間の拡がりのなかに、当該の問題を位置づけることが大切である。そして問題を理解するためには、strategic empathy(私は仮に「戦略的主観化」と訳した)、すなわちその問題に対して客観的にヒトゴトとして考えるだけでは足りず、主体的思い入れをともなう、感情、情念、愛憎にまでおよぶ理解を求めることが必要だ。
 戦争は、戦いに勝つだけで終戦ではない。戦争は政治的行動の一部であり、その政治的目標が達成できて初めて終了となる。戦争の政治的目標を明確に設定し、その実現方法を予めよく考えて、必要な準備作業をしておくことが重要である。この部分は、直接戦争とは関わらない作業を含むが、とくに文民統制を指令する側には非常に重要で必要なことである。
 そして戦争の遂行に於いては、一貫性のある戦略を貫くことが重要で、途中でそれが揺らいではならない。さらには戦闘が終わってからも、上記の真の「戦争の終わり」までは、戦略を変わらず維持して継続的にその問題に関わることが必要である。
 その上で、著者がとくにアメリカの軍事と外交について重大な問題としてなんども厳しく指摘し批判するのが「戦略的ナルシシズムstrategic narcissism」である。これは冷戦がアメリカなど西側自由主義陣営の圧倒的勝利で終わり、そのあとアメリカが世界で抜きん出た軍事力・国力を誇るにいたったことで、世界のあらゆる事象をアメリカとの関係のみで考え、世界の将来がアメリカの決断だけで決まる(決めることができる)、という思考である。これは、アメリカが想定しているように相手も動くはずだ、との希望的観測wishful thinkingを導く。戦争を含む軍事行動においても、現場の状況が真に求めていることを無視あるいは軽視して、その時点で自分(アメリカ)の側がしたいことを優先してしまうのである。この書では、この問題の実例と失敗が繰り返し示される。
 著者は、軍人の子として誕生し、ウエストポイント陸軍士官学校に学んで実務経験を豊富に積み上げた生粋の上級軍人で中将だが、入隊してからノースカロライナ大学チャペルヒル大学院で軍事史の博士号を取った歴史学者でもある。ヨーロッパでの軍務経験と南アジアとイラクでの実際の戦争経験があるという。実戦経験にもとづき、かつ広い視野からの冷静な思考は説得力がある。
 私は戦後の高度成長期に学生時代を過ごし、戦後教育のなかで軍人に対して根拠もなく、なんとなく好戦的・直情径行との印象をもっていた。しかしこの本を読んで、軍の文民統制が、軍人以外が最高指揮権を持つということだけでより安心と言えるわけではないと思った。考えてみれば、まさに命がけで働いている軍人が、自分の仕事の意義や目的に敏感なのは当然かもしれない。自分や部下が生命を賭して働いたことが、意味のないことになったのではたまったものではないのである。
 アメリカの新刊書で、未だ翻訳はない。いつものように私の備忘録として、以下に抄訳を記す。とくにわかりにくい英語ではなかったとは思うが、日ごろ馴染みのない世界と行動の記述であり、語句にも馴染みのないものが多く、読み進めるのは結構骨が折れて長時間を要した。とくにアフガンなどの南アジアや、中東のイランなど、そしていまだにヨーロッパとアメリカを深刻に悩ましているロシアの実情については、これまで知らなかったことが多く、そんなこともあって「抄訳」のつもりが結果として予想外に多くのページを費やしてしまった。

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Niall Ferguson,”The Square and the Tower”(24)

10.Cyberiaとこれからの展望
(4)ITの今後
 IT革命を理解するための要点3つ
①基本的にITはアメリカのものである。当事者がシリコンバレーに移住した外国人だとしても。
②アメリカのIT会社のもっとも大切な特徴は、独占(Dominant)であること。
③その独占は、かならずカネ(Money)に結び付くこと。
 このアメリカのIT革命に対するには、アメリカ以外の世界には2つの選択肢しかない。
①戦うのをやめて規制などを用いて共生を図る。
 これはヨーロッパが実行している方法である。
②排他的関係を辞さず、徹底的に戦う。
 これは中国がやっている方法である。
 FANG(Facebook, Amazon, NetFlix, Google)もGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)も、すでにヨーロッパに深く浸透しているので、ヨーロッパはアンチトラスト、課税、プライバシー規制などで対抗しつつ共生を図るしかないと考えているようだ。
 これに対して中国は、すでに大手の国際的IT会社としてBATすなわち検索エンジンのBaidu、商品ネット販売のAlibaba、メッセージングサービスのTencentを持っている。これらは、内容はアメリカのコピーだが、中国市場を寡占し国際競争力もかなりある。
 中国の政権幹部の構造は、職務や行政機能から考察するより、学校での子弟関係のネットワークから考えるほうがはるかに理解しやすい。もうひとつの重要なネットワークは、習近平が主導する小グループにかかわるネットワークである。これらは中国内の情報に対して厳格な監視を続けている。
 2009~2013年の130億件にのぼる膨大なブログを、中国政府は分析した。その結果、38.2万件の抗争にかんするものがあり、250万件のストライキなど抗議運動にかんするものがあることなどが判明している。公衆の反対意見の動向や、官民の腐敗について調べているらしい。かつてソ連のときは、全体主義国家にとってその体制が存続するために民の動向を詳しく把握したくとも有効な手立てがなかった。彼らにとっては、夢のような有効な手段が、IT革命によって実現したのである。このように中国のトップは、アメリカのトップよりWebcraftに熟達している。
 仮想通貨(ビットコインなど)についても、中国は国を挙げて注力している。Bitcoinの取引の75%は中国であり、Bitcoin China=BTCCなども現れている。暗号通貨(Cryptocurrency)は、今後も中国主導で展開するのかも知れない。中国のプランが成功してワシントンに勝つようなことがあれば、国際通貨への参入から覇権を獲得して、米中関係の歴史的変革が実現するかも知れない。[完]

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Niall Ferguson,”The Square and the Tower”(23)

(3)未来についてキッシンジャーの見通し
 半世紀以上にわたって世界情勢を詳しく考察してきたキッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)は、現在4つの力、すなわちヨーロッパ、イスラム、中国、アメリカが変身しつつある状態であり、国際的アナキーに陥る崖っぷちにいる状態であり、ある意味かつての第一次世界大戦前に類似する、として近未来について下記のように見ている。
①政治構造にかんしてはこれまでとおり国民国家だが、経済はますますグローバル化が進展する。
②核拡散には誰もが反対するにかかわらず、核兵器が拡散するのを黙認しており、核の対決が発生する可能性が増大している。
③サイバースペースでの活動が、ホッブスが言ったような「自然状態」、つまり万人の万人に対する闘争のような状況となり、非対称性と先天的不安定性が大国間の間に組み込まれていく。
 このことから起こりそうな大炎上・危機として次の4つのシナリオが考えられる。
①米中関係が悪化し、ツキジデスの罠に陥る。
結局は従来からの覇権国家と新興の覇権国家が衝突を避け得ないかも知れない。
②ロシアと西側諸国とが、たがいに相手方への理解不足のため衝突する。
③ヨーロッパのリーダーが能力不足であるため、力を背景に持たない外交が無意味であることを理解できず、その結果ヨーロッパのハードパワーの衰退を招く。
④中東の紛争はエスカレートするであろう。
 アラブ諸国とイスラエルとまだ革命途上のイランの覇権争いに対して、オバマの行政・外交の能力がどの程度通用するのか。

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Niall Ferguson,”The Square and the Tower”(22)

10.Cyberiaとこれからの展望
(2)2016年11月9日アメリカ大統領選挙
 2016年のトランプが勝利した大統領選挙は、ネットワークの視点から見ると前例があった。イギリスがEUから離脱することの可否、すなわちブレグジットを問うた国民投票である。このとき国民投票の鍵を握っていたのがドミニク・カニングス(Dominic Cummings)という人物であった。イギリス北東部に石油関係の技師と教師の母のもとに優秀な子として生まれ、オックスフォード大学で歴史学を学び卓越した成績で卒業し、後には数学、とくに複雑系ネットワークに興味をもって真剣に独学したという。早くからEUがあまりにヒエラルキー的で集権的だと懐疑的・反対で、ふとした経緯からブレグジット推進派のブレーンになると、最高レベルのヒエラルキーとほとんど学の無い味方とわずか10か月の短い時間とわずか1000万ポンドの予算から、従来の選挙運動とはまったく異なるインターネットを介した新しい画期的な活動を指導して、イギリスをブレグジット達成に導いた。「ブレグジットこそネットワークの勝利」と宣言している。
 2016年のアメリカ大統領選挙も、まったく同様の経緯をたどった。カネ、実績、名声で圧倒的にリードするエスタブリッシュメントであったヒラリー・クリントンは、従来の選挙運動が有効かつ十分だと考えた。潤沢な予算をふんだんにつぎ込んで、マスメディアを全面的に掌握・動員し、圧倒的に優勢に見えていた。
 それに対してトランプ側は、ネットワークを駆使して挑戦した。トランプだけでなく、民主党のサンダースも既存の選挙運動を採用しなかった。ツイッター、Facebookに加えてYoutubeも最大限活用した。2000年以降出現したオルタナ右翼(alt-right)もトランプ応援に参加した。インターネット・ネットワークがなかったとしたら、この大統領選挙でのトランプの勝利はなかったであろう。また、今後の大統領選挙が従来行われてきたものと違うものになることも注目される。

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