Part 4. Fighting for Control
Chapter 20. The Downward Spiral
NATOサミットとZelensky
2023年7月リトアニアのヴィリニュスでNATOサミットが開催された。この会議では、ウクライナのNATO加盟にかんしてNATO諸国がどう対処するのかが主要議題であった。
Bidenは、これまでにウクライナを支援するし、NATO加盟は実現すべきと言い続けていたが、その時期とプロセスの具体的言明は注意深く避けてきた。BidenとSullivanは、代わりに”Israel model”と呼ばれる防衛協定、すなわちアメリカは10年単位の長期的財政的・兵器支援を約束するという心づもりはあった。それは実質的にはNATO加盟よりもより強力かも知れないとアメリカ側は考えるものであった。
しかしZelenskyの捉え方は異なった。彼は、もし事前にNATO加盟が実現してさえいたら、NATO加盟の全部を敵にまわすことを避けるために、ロシアはウクライナに侵攻することはなかったと主張するのである。
実際、旧ソ連に属した東ヨーロッパ諸国でNATOに加盟している国や、ソ連から多大な被害を被ったポーランドなどは、ウクライナを加盟させるゆるやかなスケジュールまでを含めたウクライナのNATO加盟に賛成する立場である。
しかしアメリカとドイツは、ウクライナの早期の加盟がNATOのモスクワとの対立を導くことを懸念している。結局このサミットでは「ウクライナは将来NATOに入る」と、いつどのように、については触れない決議とした。
これにZelenskyは憤った。これではサミットの対面が丸つぶれだ、と。個人的に不満なのはわかるが、公的には謝意も表わすように諭されたZelenskyはしかたなく翌日、いつものように西側の民主主義を支えよう、とありきたりのことを発言した。
あとから見ると、この2023年7月ヴィリニュスのNATOサミットは、BidenやZelenskyが想定した以上に、ひとつの転換点となった。それまでは、NATO加盟国もヨーロッパも、ウクライナに好意的で、負けずに存続していることを賞賛していたが、夏から秋になるとワシントンでもヨーロッパ全域でも「ウクライナ戦争は、ロシアもウクライナもどちらも勝てないし、どちらも協議して終戦に至るつもりもないだろう。」との見通しが広まるようになった。
Zelenskyの窮状は、だんだんはっきりしてきた。2022年秋から年末までの優勢は消え、戦線は停滞した。ウクライナがドイツでNATOの兵器を使いこなす訓練をしている間に、ロシアは複雑で広範囲の塹壕と多数の地雷を駆使してウクライナのタンクを入れないようにした。ロシアの軍司令部は、それまでの数多の失敗から学び、戦術を改め、囚人を含む兵力の増強を進めた。ウクライナのドローン攻撃に対して、ロシアはイラン製のドローンの使い方にも習熟してきた。
西側の制裁措置に対する逃れ方にも習熟し、IMFの観察によれば、年率2.2%の経済成長を達成し、西側の制裁の効力は期待できなくなった。
Zelenskyは毎晩Kyivから、自軍に向けて戦意を鼓舞し西側諸国にむけて資金と兵器の支援を求め続ける発信を続けるが、明らかにその効果が落ちてきた。ウクライナに疲労感が目立ってきた。Kyivに、はじめて兵士の家族からの反戦運動が起こった。戦地に18か月も行ったきりなので、戻してほしいという切実な願いであったが、Zelenskyの将軍たちには聞き入れがたい望みだった。ウクライナのほとんど唯一の輸出商品たる小麦も、西側のロシアへの制裁が強化されると、対抗措置としてロシアに港を封鎖されて搬送ができなくなった。
ZelenskyがBidenに求める先進兵器も、Putinのレッドライン、すなわちPutinがロシアの国家的危機を救うためには核兵器の使用を忌避しないとの方針に基づくロシアの核兵器導入のしきい値を恐れるBidenが、結局too little-too lateのウクライナ支援になりがちであった。
また、アメリカは、ウクライナに兵力を集中して一点突破で戦うことをアドバイスしたが、ウクライナ軍は、一度に広範囲に兵力を分散させ、前線があまりに薄くなりがちで、戦術に失敗が多かった。
結局、2023年末には、アメリカはウクライナが生き残るために必要な支援は注いだが、ウクライナからみると勝つために必要な支援はうけられなかった、という結果だった。ウクライナの目標が、最低限でも2022年2月時点の領土の確保である以上、これはたしかにミスマッチであった。
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