海上保安資料館横浜館 北朝鮮不審船戦闘(3)
22時13分、不審船は巡視船と銃撃戦の末、突然爆発炎上を起こして、東シナ海沖の中国EEZ内で沈没した。不審船が自爆する瞬間まで、乗組員は巡視船に向けて自動小銃を発砲し続けた様子が映像に記録されている。その後の捜査で、爆発の直前に不審船から北朝鮮本国に「党よ、この子は永遠にあなたの忠臣になろう」「マンセー」とのメッセージを含んだ電波が発信されたことが判明しており、自爆したものと推測された。この事件で、日本側に3人の負傷者、北朝鮮側に15人の死者が出た。
この事件の後、沈没した不審船の船体および海底に散らばった遺留品は、平成14年(2002)9月に海中より回収され、鹿児島県の港に運び込まれ、鑑識による分析が行われた。その結果、「船は北朝鮮の工作船であり、遺体で回収された乗組員は北朝鮮の工作員である」と断定されたのである。
工作船は、「長漁3705」との銘板があり、全長30メートル、幅4.7メートル、総トン数44トン、速力33ノット、と漁船に比べて異常なまでの高速・高馬力と戦闘に対応するための鋭い船首形状を備え、常識的な漁船の船体とは大きく異なっており、はじめから特殊目的で建造されたものと思われた。さらに工作船のなかには、別の1隻の小型舟艇が格納されていて、それは全長11メートル、総トン数3トン、速力50ノットで、スウェーデン製と見込まれた。
武器は、ロケットランチャー、無反動砲、二連装機銃、自動小銃、軽機関銃、手りゅう弾、など多数が搭載されていた。
ある程度大型の漁船というものはあろうが、取った漁獲物を貯めおくように器はなく、代わりに怪しげな小型高速船を搭載しており、強力な武器が多種・多数搭載されていた。これはまぎれもなく重武装船である。
さらに引き上げた回収物資をもとに捜索を展開した結果、この工作船は不法薬物(覚せい剤)の運搬(密輸)に使用されていて、それは日本の反社会勢力に販売され、その仲介をしていた北朝鮮系の人物は、日本に住み着いて朝鮮大学校の幹部を勤めていたことなどが判明した。さらに、工作員の不法出入国などにも利用されていた。北朝鮮は、国家という組織になっているがためにさまざまな追及を免れているが、やっていることの実際は、マフィアやヤクザとなんら異なることがないと言える。
海上自衛隊は海上警備行動こそ発動しなかったが、海上保安庁と連携して対応に当たった。一連の不審船事件は海上防衛の在り方にも一石を投じた。海上保安庁は今回の事件を教訓に、現場の海上保安官(乗組員)の生命保護のため巡視船艇の防弾化および相手船舶を安全な距離から停船させるための高機能・長射程の機関砲の搭載、船艇の高速化、海上警備における水産庁の漁業取締船との連携強化、航空機の輸送力アップなどを急速に進めることとなった。
展示の説明を読んで、そして展示されている想定外に大きな本格的な軍事船舶である工作船を見て、なんとも重苦しい気持ちになる。こういう事件の内容や詳細は、マスコミはほとんど報道しないが、実はかなり深刻な国家間の軍事的衝突が現実に発生していて、海上保安庁や海上自衛隊が黙々と動いてくれているのである。とても教育的、広報的、啓発的な展示であると思う。
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