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音楽

マイケル・ジャクソン『THIS IS IT』

 もう10年以上も前に、家人がこの映画を鑑賞してたいへん感動したことを聴き、私もいずれは是非観たいと思っていたものである。This-is-it
 マイケル・ジャクソンは2009年3月、ロンドンで、同地でコンサート公演『THIS IS IT』を実施すると表明した。This is itとは、「これでおしまい」という含意であり、マイケル・ジャクソンは、ミュージシャンかつアーティストとしての最後の花道としてのコンサート公演を考えていたようである。これにより同年7月13日から2010年3月6日までに全50公演の開催が予定された。ところが直前の6月25日にマイケルが突然の医療薬物中毒で急死して、それは実現できなかった。この映画は2009年5月から6月にかけて、ザ・フォーラムとステイプルズ・センターで行われたマイケルの亡くなる前日までの、『THIS IS IT』のリハーサル映像が使用されている。この映画は、マイケル・ジャクソンの最後の姿の貴重な記録として、リハーサルの実写映像で構成したドキュメンタリー映画となっている。
 リハーサルに先んじて、世界中からマイケル・ジャクソンに自分のパフォーマンスを一目でも見て欲しい、一生の思い出として一度だけでも共演したい、という熱心なプロのミュージシャンやダンサーが集結して、途方もなく高い競争率のオーディションが行われた。技能に優れるのみでなく、華がないと合格できない、と審査員がコメントしている。そうして選りすぐりのプロたちがリハーサルに参加した。
 映画の内容の大部分は、大きな音量の伴奏のなか、マイケル・ジャクソンと共演者のヴォーカルとインストラメンタルとダンスである。終始一貫して、絶え間なくリズムが刻まれ、驚くべき音域のマイケル・ジャクソンの歌声が響き、熱の入った大音声の楽器演奏が重なる。しかし私自身も驚くほど、まったくうるさくないのである。大きな音量でも心臓の鼓動のように自然なリズムで入ってくる音楽とヴォーカルは、とても心地が良い。リハーサルなので、ときどきマイケル・ジャクソンは演奏者や裏方に、ごく穏やかな誇張ではあるがさまざまな厳しい要求や指示を出す。しかし指示を受けたミュージシャンやアーティストたちは、マイケル・ジャクソンがいかに真摯かつ謙虚に真に、創造的なパフォーマンスの革新と改善を追求しているか、そのためにいかに独創的で斬新なアイデアを提供しているかを、よく理解して、深い敬意をもって真剣に従っている。「キング・オブ・ポップ」に対する敬愛は絶対的なのである。
 2時間ほどの作品だが、あっという間に終わってしまうように感じた。私は、マイケル・ジャクソンについては、2枚ほどアルバムを持っていたが、特段熱中したわけでもなかった。それでも、こうしてビジュアルを併せて彼の完璧な踊りとともに音楽を鑑賞すると、ほんとうに類まれな才能だったのだなあ、と改めて思い知った。このような才能が50歳で亡くなってしまったのは、ほんとうに残念なことであると、重ねて思う。

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高槻ジャズストリート(3)

Photo_20220514062001  この会場を出て、すぐ近くの別のバーの会場に入ってみた。「Piano lounge ALLURE」というところで、ここは幸いにして演奏者のすぐ前のカウンター席に座ることができた。「山縣泉と柔道部」というおもしろい名のグループであった。山縣泉(ボーカル), 奥拓也(ベース), 目加田吉也(ピアノ)という構成である。このときのベース(コントラバス)は、エレキ型でほとんど胴だけで共鳴箱のない、ごくスリムなものであった。楽器技術と時代が進んでいることをあらためて実感した。会場のバーは、気持ちの良い、感じのよいピアノバーであった。高槻に住んでいても、地元のバーに行く機会がほとんどないこともあって、こんなピアノバーがあることも知らなかった。こういう機会は、そんな場所を発見する機会ともなる。Photo_20220514062002
 帰途に通過した阪急高槻市駅高架下の会場で「大和田慧」の演奏を少しだけ聴くことができた。大和田慧は、東京都出身、早稲田大学第二文学部卒業の後、シンガーソングライターとして活動している。NHKみんなのうた、MONDO GROSSOなど他アーティスト作品へのヴォーカル参加、サポート、楽曲提供も行う。東京を拠点に定期的に渡米。NYとLAでもライブ、レコーディングを行い、2014年アポロシアターのアマチュアナイトに出演、TOPDOG(準決勝)まで進出したという。ここでは宮川純(キーボード)との共演で、ギターとヴォーカルをしている。たしかに、行きがかりでも立ち止まって聴きたくなる魅力がある。3曲ほどを聞きかじっただけであったが、声と表現力が優れていると思った。
 コロナ騒動明けの久しぶりの高槻ジャズストリートというだけで、たいして期待もせずに気軽に出かけたのだったが、思いのほか感動することが多かった。改めて、とても貴重な、なかなか良い恒例行事だと思った。

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高槻ジャズストリート(2)

 その後、隣接する高槻城公園に行くと、ここはいま「サントリー高槻城公園」となっていて、縁日のような出店がならび、広場には子供が裸足で遊べるようなクッションやトランポリン、その他さまざまな遊具が設えられていた。ここも大勢の家族連れが訪れ、活況を呈していた。Musicians
 城北通へ向かう途中に、高槻市姉妹都市交流センター会場があり、ここでは「はらぺこMusicians」という20歳代の若者たちのスタンダードジャズグループの演奏を聴いた。奈良県立高円芸術高等学校を卒業した仲間たちで構成する、浦田滉心(ドラムス), 西垣佳音(トランペット), 杉井咲美(エレキベース), 岡村武琉(パーカッション), 藤田毬花(ピアノ), 谷萌香(サックス)という構成である。司会進行を兼ねた岡村武琉の紹介によると、なにごとにもハングリー精神で果敢に挑戦して行こうという意味で「はらぺこMusicians」というグループ名にしたという。この会場も高槻市の姉妹都市と高槻市の農産物・特産品を展示・販売する屋外の広場であり、座席は一切ないのに、会場に着いたときにはすでに満員に近い入りであった。土間の上に座り混んでの鑑賞である。若いメンバーの顔触れを見て、正直なところ学芸会の延長のような印象もあったが、演奏が始まると期待はとても良い方向にガラリと変わった。
 Musicians1 「チュニジアの夜」「スペイン」などには、とくに感動した。細かいところに未熟な部分があるのかも知れないが、音はよく合っていて大音量でもまったくうるさくならない。慣れ過ぎて技巧に頼って手を抜くような雰囲気が一切なく、なにより一生懸命な演奏に好感がもてる。若々しいプロフェッショナルらしい演奏であった。どのパートも良いが、とくに全体をリードするアルトサックスの谷萌香と、トランペットとフリューゲル・ホルンを担当する西垣佳音(かのん)は、なかなか素晴らしいと思った。他の聴衆も感動したらしく、珍しくアンコールの拍手が鳴り続いたが、演奏者たちはアンコールをまったく予期していなかったらしく、時間つなぎのメンバー紹介のうちにタイムアップとなり、微笑ましいエンディングであった。この演奏は、とりわけ感動した。Photo_20220513062901
 阪急高槻市駅に向かって城北通を行く途中に、路地を東にやや入って「Bar Seven」というバーの会場がある。ここは、座席が10余りのこじんまりしたカウンター席だけのスナックバーで、私が行きついたころにはちょうど座席が満席となっていた。しかし床に座り込んでの鑑賞はできるということなので、前の屋外会場からの連続となったが、土間に座り込んでの鑑賞を覚悟した。ところが幸いなことに、私が座席を逃した最初の入場者であったため、演奏の高橋一郎氏が、舞台にあった自分のための腰掛クッションを私に提供してくれた。私のあとにも、かなり大勢の聴衆が入ってきたが、彼らは皆、床に座り込んでの鑑賞となった。ここでは「高橋一郎カルテット」のスタンダードジャズを聴くことができた。高橋一郎(サックス), 日野上麗子(ピアノ), 高森克宏(パーカッション), 野崎明宏(ベース)という構成だが、この日はパーカッションのみ不在で、トリオとしての演奏であった。高橋氏の関西弁の気さくなトークとベテランの演奏技能もさることながら、こうして目の前で楽器が演奏されるのを観るのは、久しぶりであり、予想していた以上にここでも感動した。Alice in the Wonderlandなどもなかなか良かった。

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高槻ジャズストリート(1)

Photo_20220512054501  2020年から始まったコロナ騒動のお陰でまる2回開催中止の後、ようやく今年はコロナウイルス感染対策のなか、無事実施された。絶好の快晴の下、自宅から最初の会場がある市役所まで、鯉のぼりフェスタの芥川河岸を歩き、旧西国街道を経て、JR高槻駅を抜けて桃園町の市役所内生涯学習センター多目的ホールに着いた。驚いたのは、途中の人出の多さであった。西国街道の人通りもとても多く、JR高槻駅コンコースなどは、平日朝のラッシュアワーのような賑わいであった。
Soa-new-quintet  そんな盛況のなか、幸い生涯学習センター多目的ホールには、演奏開始に少し遅れたが、すぐ入場できた。ここで「音楽二升五合」というグルーブのスタンダードジャズを聴いた。「二升」で「升升=ますます」、「五合」で「半升=繁盛」という含意だそうだ。栗田洋輔(アルトサックス), 名倉学(ピアノ), 香山正人(ベース), 松本慎吾(ドラムス), 井垣志穂(ヴォーカル)という構成だ。ヴォーカルの井垣志穂がMCを兼ねて進行していた。コロナ下でステージが減って、新しい活動を工夫するなか、子供たちにもジャズを知ってもらおうと、童謡とジャズをフュージョンする試みとして「お猿のかごや」をスタンダード・ナンバー「Take Five」をベースに演奏してくれた。ヴォーカルも楽器もなかなか良い演奏であった。Soa
 このあと、すぐ近くの会場として高槻市立桃園小学校グランドへ行ったが、ここでは満員のため入場できなかった。小学校のグランドなので十分広く、物理的に満員とはなっていないが、コロナウイルス感染予防のための措置だそうだ。そういう意味では、これまでにない初体験であった。やむを得ず、少し足を延ばして高槻市立第一中学校グランド会場まで歩いた。ここでは、「SOA New Quintet」というグループの、新作中心のジャズを聴くことができた。ここは中学校グランドの野外会場だが、座席はすっかり満席となっていて、私は舞台前の砂地の上に座り込んで鑑賞した。SOA(ヴォーカル), 伊藤シュンペイ(ギター), 武藤浩司(サックス), 澤田浩輔(ベース), 鈴木大瑛(ドラムス)という構成のグループである。リーダーのSOAは、大阪芸術大学音楽学科で、ジャズ、R&B、ソウル、ポップスの音楽理論・歌唱法・表現法などを学び、2016年から本格的な活動を開始したという。第35回浅草JAZZ CONTESTにてグランプリを受賞するなど、各地のコンテストで複数回受賞している若手気鋭のシンガーソングライターである。最近『讃』とタイトルをつけた新アルバムを発表したとして、このなかから「風ひかる」という、春らしい名前のナンバーを披露してくれた。すこし野太く力強い、中性的な声が魅力である。

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2017年度高槻ジャズストリート 第二日目

  二日目は、まず阪急高槻市駅コンコースの「中野・西脇・衛藤カルテット」から入った。ナット・キング・コールのナンバーを中心に、低音の迫力ある中野翠のヴォーカルをたっぷり聴いた。Photo_2
私は日常ではさほど音楽、とくにポップスやジャズを聴くわけではないが、たまにこうして生演奏で聴く機会があると、こんなに良い楽曲があったんだ、と発見する。ナット・キング・コールは私でも知ってはいるけれど、個々の楽曲は知らないものも多い。すでに知っていた「ルート66」、「スマイル」などだけでなく、他にも心に滲みる良い曲がたくさんあることを今年も再認識した。
次は国道171号線北大手交差点にある高槻市姉妹都市センターで「jaja」を聴いた。
Jaja   秋山幸夫のサックスを軸とするカルテットだが、今回はクラシックピアノの木村カエを加えて演奏している。楽曲はすべてオリジナルだという。13年ほど前にホリプロからメジャーデビューをして、そのあと絶賛されたり苦労したりということらしい。演奏はエネルギッシュできびきびしている。秋山のサックスは、切なく歌いあげる情緒的な表現が特徴で、プロらしく個性も魅力もある。十分楽しめた。Yamajiman
  そのあと、高槻第一中学校グランド会場に行って「ETHNIC MINORITY」を聴こうとした。ところが、段取りや準備の問題か、演奏開始が20分も遅れてしまった。それに加えて運悪く天候があやしくなり、風が強く吹き出して寒くなってきた。野外会場は少しつらくなり、早々に退散して高槻現代劇場に向かった。当初は高槻市立桃園小学校の野外会場に、元フライドプライドのShihoさんの演奏を聞きに行く予定であったが、寒さを避けて室内会場に切り換えたのである。予定外でもあり、たまたま座席がとれた現代劇場文化ホール2階展示室会場に入った。
ここではプログラムが変更されていて、公式ガイドブックに掲載されているミュージシャンではなく、代役としてYAMAJIMANの演奏が聴けた。ヴォーカルの山嶋真由美がリーダーをつとめる5人組である。
声量よりはしっとり表現するタイプのヴォーカルで、とくに最後の「この素晴らしい世界」がよかった。私もずっと前からルイ・アームストロングの歌を知ってはいたが、改めて感動した。
今年は、いろいろ他の雑事もあって、制限された時間のなか多少慌ただしく会場を歩き回ったが、思った以上におもしろく、楽しめた2日間となった。

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2017年度高槻ジャズストリート 第一日目

  今年も早くもジャズストリートの季節となった。朝晩は涼しいものの真昼はすっかり暖かくなり、今年ものんびり歩きまわることにした。
  まずは近場のJT医薬総合研究所会場に入って「シーラカンス・クラブ」というギター中心の小グループの演奏を聴く。なつかしの昭和メロディーという感じで、ペドロアンドカプリシャスやサザン・オールスターズなどを聴かせてくれた。
  次は幕間の15分で移動できる範囲として、芥川商店街の「Birth Act」という名のバーに入る。こうして、日頃縁のない商店街のバーや飲食店に入ってみるというのも、高槻ジャズストリートのひとつの楽しみである。ここではRe:VOXという名の4人グループのポップスを聴いた。説明によるとVoxというのは「物質」を意味し、グループ名は「物質に帰る」という意味だという。4人の演奏がよく合っていて大音量にもかかわらずうるさくない良い演奏だが、マイク・ミキシングがよくないのか、伴奏とくにドラムの音量が相対的に大きすぎて、ボーカルがほとんど聞こえないという難点があった。せっかくの演奏なのに、舞台装置側に問題がある。これは、肝心の店の印象にも影響してしまう。
  そこから少し歩いて、高槻市立桃園小学校グランドに行き、若手ミュージシャン「K」の演奏を聴いた。小学校グランドの全体を会場にした広い場所にかかわらず、会場はほとんど満員で、座席はもちろん立っていてもほとんど余裕がない。なかなか人気があるらしい。たしかに伸びのあるリリカルな声は、声だけでも魅力的である。トークもまずまず上手といえる。このセッションは、私も十分楽しめた。
  桃園小学校を出て、城北通商店街に行く。この付近は会場は沢山あるがどこも満員で入れない。たまたま少し余裕があった「こなもんBar IMPACT」いうバーに入る。ビルの3階にある小さなスペースで、演奏者もたった一人でがんばる「熹与詩天七」のギターの弾き語りによるブルースである。アメリカのなつかしのメロディーを、歌詞を日本語に訳してオリジナルで演奏している。プロとしては、テクニックはあるが演奏にもう少し色気がほしい、というところか。
  帰途を考えて、最後は市役所総合市民交流センターの会場で、PEPPERというジャズ・バンドを聴いた。ぺぇさんという名のボーカルと、服部則仁のサックスを軸とする7人グループである。とても音量豊かでエネルギーに満ちた迫力満点のステージであった。さすがにプロらしいところを感じさせてくれるベテランの演奏である。途中、親族の中学生らしい子供の演奏者も飛び入りして、楽しいステージとしていた。私も十分満足した。
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神田麻帆ピアノリサイタル

  兵庫県立美術館で「神田麻帆ピアノリサイタル」を鑑賞した。神田麻帆氏は、現在ウィーン国立音楽大学のポスト・グラデュエイト・コースに在学中で、夏休み帰省中だという。
  最初はブラームスの「6つの小品より 作品118-1」である。ごく短い作品だが、繊細で美しい曲である。続いてJ.S.バッハ「平均律ビアノ曲集 第2巻 ニ短調」で、これもさほど長くないバロックらしい精密できれいな曲であった。
  3つ目はベートーベンの「ピアノソナタ第7番 作品10-3」で、4楽章からなる少し長い作品である。ベートーベンは神経質な人で、生前何回も引っ越しをしたため、現在ウィーンのいたるところに「ベートーベンの家」として伝わる家があって観光名所となっているという。人気の高いベートーベンは、銅像も多数あるらしい。神田さんは、ウィーン国立音楽大学への通学路の途中にベートーベンの銅像がある、という。ベートーベンの楽曲の演奏がうまくいかないとき、そのベートーベンの銅像の前を通るのが少し億劫になる、というエピソードを話してくれた。語りかけるような曲、重厚な曲、少し激しい曲など、ヴァラエティがあり、美しい楽しい演奏であった。
  4つ目は、フランツ・リストの「スペイン狂詩曲」である。リストが「超絶技巧」で有名なことはこの分野に疎い私でさえ知っていた。それでもこうして演奏を目の当たりにすると、鍵盤を走り回る演奏者の両手とその指の激しい動きにあらためて驚く。ピアノを自分で演奏できない私には、こういう事実はCDを経由して聴くだけではわからない。神田さんも、優れた技巧をアピールしたかったのかも知れない。
  聴衆の盛大な拍手に応えて、最後にアンコールとして最初のブラームス「6つの小品より 作品118-1」のつづきの1曲を追加していただいた。
  今回は、藤田嗣治の絵を見に来たついでであったが、こうして新進気鋭のピアノ演奏者の音楽を直接鑑賞することができるのは、とてもありがたいことである。

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フェデリコ・モンポー

  移動中のクルマのなかで、まったく偶然にあるスペイン作曲家・ピアノ演奏家の作品に遭遇した。NHK-FMの録音・再放送番組で、チェロ演奏家 遠藤真理が推奨してくれたフェデリコ・モンポーのピアノ曲「橋(El pont)」をそれとなく聴いた。これが私の琴線に触れたようだ。静かで上品でゆったりしたその曲は、ほんとうに心に沁みた。
  帰宅してさっそくインターネットで検索し、調べた。残念ながら「橋(El pont)」を収録したCDは見つからなかった。それでもモンポーの「ピアノ曲全集」というCD 4枚組セットが見つかり、さっそく購入した。
  私は、音楽に特段の知識もたしなみもない。ほとんどの場合、本を読んだり、勉強したりするときに、ごく小さな音量でBGMとして流しっぱなしにして聞き流しているという、きわめて横着な音楽ファンなのである。そういう経験で気がついたのは、意識して鑑賞するときには音量が決して大きくなく、快い印象のチエンバロが、BGMとしてはむしろうるさく聴こえることである。そのような、鑑賞時とBGMのときとで、すっかり印象が異なることがあるのを、いくつか発見したりしている。
  私のBGMとしては、フェデリコ・モンポーのピアノ曲は、いたって心地よい。決して神経を刺激せず、快い鎮静の音楽なのである。
  横着で気ままな音楽ファンの端くれである私は、めったに積極的にクラシック音楽を真剣に鑑賞することがないけれども、ともかく聞くともなく聴いていると、こうして天恵のような幸運にめぐり合うこともある。こうして偶然出合った名曲に心から感動できるということは、このうえなく幸福なことである。
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2014年の高槻ジャズストリート

  今年も4月が過ぎ、つまり今年の三分の一が早くも過ぎ、5月のジャズストリートが開催される日程となった。午後1時から始まるのを考えて昼過ぎに自宅を出て、まず高槻芸術劇場の会場を目指した。ところが会場に到着してみると、午後1時開始のセッションは、会場が満員である。2時からの次のセッションを目指して、しばし会場前で待機した。
  午後1時30分過ぎから、会場の入り口扉付近に行列を作ってならぶ。狭い戸口に大勢の人だかりが詰まっている。ようやく午後1時45分過ぎに最初のセッションが終わり、観衆が扉から出てきた。しかしまだ大部分の人たちは会場に残ったままである。それでも、幸いになんとかひとつだけの座席を確保することができた。
  演者は、Fried Prideというデュオで、ギター横田明紀男、ヴォーカルShihoからなる、アメリカのコンコードレーベルからアルバム「Fried Pride」でデビューしたユニットである。一昨年くらいから、高槻ジャズストリートで話題になっていたデュオであり、一度聴いてみたいと思っていたのが、ようやく実現した次第であった。
  カーペンターズのClose to youでは、満員の聴衆と一緒に大きな合唱となり、大いに盛り上がった。エリック・カルメンが1975年発表したバラードAll by myselfは、なかなか良かった。「若いころは、誰も必要としなかった。恋愛も遊びのひとつだと思っていた。しかし年齢を重ねて、今では孤独が身に沁みる」という内容の歌で、Shihoの独特のハスキーヴォイスが冴えわたっていた。クルセダーズが1980年に発表したSoul shadowsも、とてもしっとりと心に響く歌である。私はSoul shadowsという題名は、国内で鈴木雅之がいるシャネルズが出した初期のアルバムのタイトルだと思っていたが、実はアメリカのクルセダーズが少し前にとても良い歌曲を創っていたのだ。ルイ・アームストロングなど何人かのジャズのヴォーカリストの名前をつぎつぎに挙げて、彼らの歌が、たとえ歌い手が死んでも、いつまでも我々の生きる世界に、空気の中に瀰漫して存在し続ける、というような、音楽の先輩への讃歌であるらしい。50分くらいのあっと言う間のセッションであったが、説得力のあるShihoのヴォーカルと、55歳になったという横田明紀男テクニカルな見事なギターで、とても快いひとときであった。
  そのあと別途出かけていた家内と落ち合って、すぐ近くの高槻城跡公園市民グラウンドの野外会場に行って、大山崎の市民バンド「オルケスタ山崎」のビッグバンドの演奏を聴き、少し歩いて市役所隣の桃園小学校グラウンドで、やはり野外ステージでThe Global Jazz Orchestra の演奏を聴いた。ここでは高槻市内の老舗や人気飲食店がテントで出店を構えていて、気軽においしい飲み物やスナックを買って食べることができる。
  最後はJR高槻駅近くの総合市民交流センターのイベントホールで、2つのセッションを楽しんだ。
  ひとつめは、里村稔カルテットで、サキソフォンの里村稔だけでなく、ピアノの安次嶺悟、ドラムの梶原大志郎、ベースの佐々木研太も、それぞれに良かった。よく音が合っていて、引きしまった良い演奏であった。
  最後は、瑞木優美カルテットである。セッションの最初はヴォーカルの瑞木優美が登場せず、フィリップ・ストレンジのピアノ、斉藤洋平のドラム、荒玉哲郎のベースの3人で、ピアノ・トリオとしてジャイアンツのテーマを演奏した。これがとても良かった。とくに、これまでにもこの高槻ジャズストリートでなんどか聴いているフィリップ・ストレンジのピアノが、迫力がありかつ繊細で丁寧で、心に響いた。瑞木優美がヴォーカルで加わったあとでも、私にはやはりピアノが印象に残っている。デューク・エリントンのCaravan は、なんとなく聴いた覚えがある曲だが、こうしてじっくり聴くと、とてもすばらしい曲であることを発見した。
  私はそもそも音楽全般に詳しくないし、日常でジャズを聞くことはほとんどない。それでもこうして高槻市の催しを機会としてジャズを歩いて聴いてまわると、私なりに新しい感動があるし楽しい発見がある。充実した、快い5月の一日であった。

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天使の歌声 ダイアナ・ロス

  真夏の外出から汗だくで帰宅して、何気なくスイッチを入れたFMラジオの番組が、たまたまダイアナ・ロスの特集であった。番組途中から聞くともなしに聴き始めたのだが、ついつい真剣に聞き入ってしまった。
  ダイアナ・ロは、今年68歳になる老大家だが、音楽にそんなに熱心ではない私にとってさえ、彼女の歌声にまつわる思い出はとても多い。高校生時代に、何気なく購入したモータウン・レーベルのLPレコードに、私はすっかり魅せられた。そこでは主要なモータウンの歌手が参加していたが、私にとっては、スティービー・ワンダー、テンプテーションズ、マービン・ゲイ、そしてこのダイアナ・ロスが非常に印象が強かった。
  シュープリームズでの伸びやかではりのあるアップテンポの歌声も実にすばらしいが、今回番組ではじめて聴いた、急逝したマイケル・ジャクソンを追悼したしっとりしたバラードの、涙が出るような優しい歌声は、ほんとうに心に沁みた。これこそ Angel Voice と言うべきものなのだろう。アップテンポで力強い美声以外に、こんなにも優しい万人を癒すような透明な歌声で、60歳を遥かに過ぎて歌うことができるというのは、ほんとうに驚きである。
  ダイアナ・ロス自身は、随分以前にビリー・ホリディの伝記映画の主演をつとめ、一方彼女自身の伝記的映画は、「ドリーム・:ガールズ」としてビヨンセが演じた。いずれも私にとっては、思い出を誘う印象深い名画であった。
  番組で次々に流れるダイアナ・ロスの名曲は、高校生時代、大学時代、若手の会社員時代、新婚時代、壮年の会社生活、などなど、その曲を聴いていたころをかなり鮮明に思い出させる。今になって振り返ると、こうして優良な歌声を自分史の目盛として刻めたことは、とても幸運であったと思える。
   今ではダイアナ・ロスを意図的に聴くこともめったにないのに、1時間のラジオ番組の途中から45分間くらいを、ろくに着替えもせず、顔や手も洗えず、まさに着の身着のままに、ついついラジオに聞き入って過ごした、思いがけず充実したひとときであった。

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