マイケル・ジャクソン『THIS IS IT』
もう10年以上も前に、家人がこの映画を鑑賞してたいへん感動したことを聴き、私もいずれは是非観たいと思っていたものである。
マイケル・ジャクソンは2009年3月、ロンドンで、同地でコンサート公演『THIS IS IT』を実施すると表明した。This is itとは、「これでおしまい」という含意であり、マイケル・ジャクソンは、ミュージシャンかつアーティストとしての最後の花道としてのコンサート公演を考えていたようである。これにより同年7月13日から2010年3月6日までに全50公演の開催が予定された。ところが直前の6月25日にマイケルが突然の医療薬物中毒で急死して、それは実現できなかった。この映画は2009年5月から6月にかけて、ザ・フォーラムとステイプルズ・センターで行われたマイケルの亡くなる前日までの、『THIS IS IT』のリハーサル映像が使用されている。この映画は、マイケル・ジャクソンの最後の姿の貴重な記録として、リハーサルの実写映像で構成したドキュメンタリー映画となっている。
リハーサルに先んじて、世界中からマイケル・ジャクソンに自分のパフォーマンスを一目でも見て欲しい、一生の思い出として一度だけでも共演したい、という熱心なプロのミュージシャンやダンサーが集結して、途方もなく高い競争率のオーディションが行われた。技能に優れるのみでなく、華がないと合格できない、と審査員がコメントしている。そうして選りすぐりのプロたちがリハーサルに参加した。
映画の内容の大部分は、大きな音量の伴奏のなか、マイケル・ジャクソンと共演者のヴォーカルとインストラメンタルとダンスである。終始一貫して、絶え間なくリズムが刻まれ、驚くべき音域のマイケル・ジャクソンの歌声が響き、熱の入った大音声の楽器演奏が重なる。しかし私自身も驚くほど、まったくうるさくないのである。大きな音量でも心臓の鼓動のように自然なリズムで入ってくる音楽とヴォーカルは、とても心地が良い。リハーサルなので、ときどきマイケル・ジャクソンは演奏者や裏方に、ごく穏やかな誇張ではあるがさまざまな厳しい要求や指示を出す。しかし指示を受けたミュージシャンやアーティストたちは、マイケル・ジャクソンがいかに真摯かつ謙虚に真に、創造的なパフォーマンスの革新と改善を追求しているか、そのためにいかに独創的で斬新なアイデアを提供しているかを、よく理解して、深い敬意をもって真剣に従っている。「キング・オブ・ポップ」に対する敬愛は絶対的なのである。
2時間ほどの作品だが、あっという間に終わってしまうように感じた。私は、マイケル・ジャクソンについては、2枚ほどアルバムを持っていたが、特段熱中したわけでもなかった。それでも、こうしてビジュアルを併せて彼の完璧な踊りとともに音楽を鑑賞すると、ほんとうに類まれな才能だったのだなあ、と改めて思い知った。このような才能が50歳で亡くなってしまったのは、ほんとうに残念なことであると、重ねて思う。
最近のコメント