エクアドルの青年と
京都美術館の「一水会展」に出かけて、その帰途しゃぶしゃぶランチのあるレストランで昼食を摂っていたら、隣の席に30歳前後と見える外国人の青年が来て、同じようなメニューを摂った。
この店は、格安でまずまずのランチメニューを提供してくれるので重宝だが、従業員が極端に少なく、食事を注文すると出汁の入った鍋と、皿に盛った牛肉だけを座席に運んできて、ガスコンロに着火してすぐ立ち去る。あと、野菜、ご飯、飲料水、お茶、デザートのアイスクリームなど、すべてセルフサービスである。
隣で青年は、テーブル上に置かれていたしゃぶしゃぶ用タレを知らず、タレなしでぎこちなくしゃぶしゃぶの肉を食べていたので、「この2つのディップ・ソースで食べたらいいよ」とアドバイスしようとした。ところが「ポン酢ダレ」と「ゴマダレ」の説明で、情けないことに酢も胡麻も英単語が咄嗟に思いだせない有り様であった。思ってみればここ5年間くらい英語で会話する機会がなく、その間ますます記憶力が劣化していた。
そんな頼りないぎこちない会話からはじまったが、それをきっかけとしてあっと会う間に2時間くらい話し込んだ。
彼は、南アメリカのエクアドルから、エクアドル産の魚介類など海産物の売り込みのビジネスで日本に来たという。以前から寿司の美味しいこととは知っていたが、日本に来てみたら食べ物がほとんどすべて美味しい、といくつかの都市観光も含めて1週間ほどの日本滞在を満喫していると言う。
エクアドルは国が小さくマーケットが小さいため、多くの人々が外国相手の仕事についていると言う。輸出は現在のところ石油が多く、またアメリカ向けに偏っていて、彼の見込みではこのままでは将来が見えないので、太平洋に面していることを活かした海産物に期待しているということらしい。
彼は、両親がかつてドイツの小さな町に滞在していて、ドイツで誕生したらしいが、幼少期をエクアドルで過ごした。その後ハイスクールと大学をドイツで、さらにビジネスの勉強のためフランスの大学にも学び、母国語のスペイン語の他、英語、ドイツ語、フランス語を話すという。少し前にはドイツで海軍の兵役に就いて、さらに一昨年にはフルマラソンにも挑戦した、と体力にも自信があるらしい。
エクアドルの若者は、しばらく前までは、外国で学ぶにはまずアメリカへの留学を考えたらしいが、ここ十年余りアメリカの物価高が激しく、とくに彼の場合親の代からドイツに縁があったこともあり、ドイツで学んだという。
とても話し好きで、京都の観光スポットや文化などの話題のみならず、日本、エクアドル、そして世界の政治、経済、国際問題、またアメリカ大統領選挙で勝利したばかりのトランプ氏への感想などまで積極的に聴いてきて、かなり多面的な話題で盛り上がった。
ヨーロッパになじみがあることでもあり、ウクライナ戦争はずいぶん気になっていて、彼の意見ではアメリカ大統領がハリスでは頼りない気がする一方で、トランプもどう出るかわからないという懸念はある、と。故郷の国ではなくても、ヨーロッパにかんしてはずいぶん心配して、熱心に話していた。
レストランの従業員が少ないのが幸いしてか、長時間テーブルを占拠してもまったく急き立てられることもなく、思いがけず「会食懇談会」みたいな興味深いひとときであった。





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