佐々木信夫「都知事は時代が決める」
中央公論4月号に、元都庁の役人であった佐々木信夫氏の「都知事は時代が決める」と題した論文があった。美濃部3期と鈴木4期の時代を都政の現場の中にいた著者が、都知事に求められる資質や態度を随筆風に書いたものである。
高度成長時代の問題が顕在化していたころに、その反動から都民の支持を受けて67年から79年にわたる3期を勤めた美濃部亮吉、美濃部都政の大きな負の遺産であった赤字財政を手直しすることを求められて79年から95年まで4期にわたって知事をつとめた鈴木、そして官僚的政治への不信へのアンチテーゼとして登場した青島幸夫、それぞれ振り返ってみると、都民がしかるべく要請を投票に反映したものであると著者はいう。
そういう認識のうえで、著者は、3つのポイントを新都知事候補に対して指摘する。先ず、財政12兆円、人口1,200万人、都庁職員数19万人という巨大都市の経営である。インドの国家財政にも匹敵する巨大都市の政府は、すでに大きくなりすぎており、大きな改革が必要である。
第二に、98年度だけで1,000億円、さらに今後数年は同じ規模の赤字が避けられないと思われる膨大な財政危機の修復である。
第三に、急速に進む高齢化社会への対応である。
この都知事選挙については、現在約6名の「有力候補」が名乗りをあげ、ここ1カ月くらいは、テレビなどのマスコミを通じて熱心な政策論議が報道されており、非常に興味深い議論が全国的に視聴されている。私は神奈川県民であり、直接当事者ではないが、この首都の首長選挙の動向と政策論議は非常に興味がある。
現在の6名の主要候補がそろうまでに、すでにさまざまな興味ある経緯があった。青島現知事が続投表明することを前提に、あて馬として指名候補としていた柿沢氏に対して、青島氏の選挙不出馬表明で一転して自民党が勝ち馬候補として指名を決めたのが、公明党の協力を期待できる明石康氏であった。自民党は柿沢氏擁立を取りやめ、この処置に怒った柿沢氏が自民党の意思を無視して立候補するや、ついに自民党は柿沢氏を除名した。また、当初「税金を大切に使う」ことをモットーとして立候補していた野末陳平氏が当選の見込みがないとして立候補を取りやめ、さほど政策が似ていたとも思えぬ枡添氏の支持に回ったが、どうやら野末氏の票がそのまま枡添氏に回るようにも思えない。こうして5名の有力候補が出そろったところに、24年前に美濃部氏に敗退した石原氏が捲土重来と名乗りをあげてきたのである。
このところ、土曜日や日曜日のテレビ番組では、これらの候補者達を出演させての「激論」が定番となっている。こうした政見の議論は、我々にとっても興味深いもので、こうした番組企画は良いことだと思う。
石原氏は、主張している内容は私にとって妥当な範囲であると思うが、会社の運営と同様、実際の政治遂行では、泥臭い、粘り強い努力が要求されるのだが、彼がどの程度そういった地味な面に能力を発揮できるかは不明である。明石氏は、そういう点では国連という非常に複雑で困難な団体を率いてきたという実績を認めてもよいのではないかと思う。
いずれにしても、こうした機会に政治家たちが、詳細な議論を展開して、それがマスコミによって報道されるということは、わが国の市民レベル民主主義の育成・発展のために非常に意味があると思う。(1999.3.21)
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